第822話 信頼する者の重き言葉
『
ソフィも自分の目的を果たさなけばならない。ちらりと『
「さて、では我は再びヌーと合流しなければならぬ。そろそろ行こうと思うが、お主はこれからどうするのだ?」
「あの人間が寿命で亡くなるまであと数十余年。私は自由になる事は叶わないと思っていた。だからいまは直ぐには考えが纏まらない。ひとまず一度山に戻って今後の事を考えたいと思う」
動忍鬼は俯きながら、そう答えるのだった。
「うむ。そうか……。まぁ、それが良いだろう」
ソフィは『
「せっかく自由の身になれたのだ、もう無理はせぬようにな」
それは暗に動忍鬼を想ってのソフィなりの言葉だった。
「心配してくれて感謝する。
何かを言葉にしようとした動忍鬼だったが、それを今言うのは憚られたのだろう。そこで言葉を出さずに呑み込んで見せるのだった。
「では私は山に向かうとしよう。
心の底から本心で思っているのだろう。動忍鬼は笑顔を浮かべながら、ソフィに感謝の意を言葉にするのだった。
「お主を実際に解放したのはヌーであるし、我は戦ったお主の傷を治したにすぎぬ。だが、折角出来た縁だから一言だけ言わせてもらう」
先程『
「同胞を救いたいと思う気持ちは大事だ。当然救いたいという気持ちが、お主に募っておるのはわかるつもりだ。だが、力無き者が願望を抱いて行動をするのならば、
「!」
動忍鬼はソフィの言葉の奥に隠れる本心を悟り、はっとさせられるのだった。ソフィが今告げた言葉は、決して優しさに溢れた励ましの言葉では無い。むしろ『
動忍鬼は無言でソフィの目をまっすぐに見る。見た目は人間の若い青年にしか見えない男。しかし動忍鬼の目に映る彼は、妖魔として長く生きてきた自分より、
実は『動忍鬼』は
仲間達を助けることは出来ず、あろう事か自分も『
今更山に戻ったところで『
――『同胞を助けたい。復讐を遂げたいと思っているならば、今は焦らずに力をつけてから行動をしろ』と。
ソフィの声なき言葉の本心を受け取った動忍鬼は、俯きながら
「そうだな。貴方と戦った時に私はもう一度死んだ筈だった。貴方の言う通りに今後は生きてみようと思う」
今も自分と同じように無理矢理従わされている同胞や仲間を助けたい。その気持ちに変わりはないが今はその時期ではない。彼の言う通りである。その願望を叶える為にはもっと強くなる必要がある。
今行動を起こしたところで結果は見えているだろう。悔しいが今は力を蓄えて、もう少し同胞達には我慢をしてもらおう。
動忍鬼は先程までとは違う決意を目に宿らせて、結論を出すまでの道標を示してくれた『ソフィ』を見るのだった。
「……」
「……」
互いに視線を交わし合う。その時間はあまり長くは無かったが、ソフィからその視線を切るように一度目を閉じた後、再び眼を開いたときに口を開いて見せた。
「我はこの世界に居る筈の配下の者を探しに行かねばならない。当然、お主達の言う『
その言葉に動忍鬼は目を見開きながら、再びソフィの目を見る。彼の本当の意図を汲み取った動忍鬼は、ゆっくりと頭を下げた。
――ここでどういう意味かと言葉にする程、動忍鬼は幼くはない。
それに彼はあくまで、
「では『
そう言ってソフィという若い青年の姿をした魔族は、動忍鬼に背を向けて森の中を歩いていった。動忍鬼はその背中を見て、何と大きな背中だろうかと感銘を受ける。
そして『
森の中を静かに風が吹き抜けていき、これまで静かだった木の葉がカサカサと揺らいでいる。それはまるで新しい息吹によって、突き動かされた『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます