第820話 妖魔召士の相違点

 ヌーにタクシンの後を追わせた後『動忍鬼どうにんき』の傷を治したソフィは、動忍鬼の意識が戻ったのを確認して事情を詳しく聞こうと話しかけるのだった。


「話せそうなら詳しく話してくれぬか? ここには我しか居らぬ」


 ソフィの言葉に少しの間があったが、やがて『動忍鬼どうにんき』は口を開き始めた。


「分かった……。まずさっきの男はね、私たち『妖魔』を従わせて戦わせる『妖魔召士ようましょうし』と人間達よ」


 小声でぼそぼそと呟くような声で『動忍鬼』は遂に喋り始めたのだが、彼女が喋った言葉の中につい最近が含まれていた。


「むっ……? 『妖魔召士ようましょうし』? 確かそれは悪しき妖魔を正しき道へと更生させて多くの徳を積ませて来世では『へと戻す事を目的とした者達の事ではなかったか?」


 サイヨウもまた元の世界では『妖魔召士ようましょうし』と呼ばれる者であり、ソフィはサイヨウから『妖魔召士ようましょうし』とはどういう事をする者達かという事を『リラリオ』の世界にある『レイズ』魔国で聞かされた覚えがあった。


 目の前に居る動忍鬼と呼ばれる妖魔が、先程の人間に札から使役させられるところをも見ていたし、実際にこうして『妖魔召士ようましょうし』という言葉も出てきた。つまりサイヨウの居た世界とは、もうこの世界の事で間違いは無いだろう。


 まさかここまで偶然が重なるとは思ってはいなかったが、ソフィは深くは考えずどこまでも縁があるものだと納得するに留まるのだった。


「いえ。全然違う。奴等はそんな立派な人間達じゃない! アイツら人間はね、私達を徐々に狂わせて強制的に従わせる悪魔のような者達よ!」


 サイヨウの事を考えていたソフィは、突然の動忍鬼の叫びに近い声に意識を戻された。


「そう言えばお主は我と『念話テレパシー』をしている途中に『もうすぐ自我を失わされるから逃げろ』といっていたな? そしてその後すぐにお主の様子が変わって急に『念話テレパシー』が途切れて暴れ始めたように感じられた」


 ソフィと戦い始めた時には、今の『動忍鬼』のように意思の疎通が出来ていた。しかし何やらあの人間が『動忍鬼』に対して詠唱を行った瞬間に『動忍鬼』は自我を失い、それまでの様子から変貌して暴れ始めた。


「その通りよ……。あの人間達、つまり『妖魔召士ようましょうし』は従わせた妖魔の力を制御出来る。奴等が最初に私たち妖魔を『式』にする時にでしか、私たちは自分の力を使えなくなるの」


の仕方なのだな)


 魔族は逆に魔物達に『名付けネームド』をする事で魔物達は、魔族の強さに応じて強さを増していく。


 ソフィがリラリオの世界で契約を交わした魔物達は、皆あの時のソフィの力量に応じた分の力が増幅されて強くなっていった。しかしこの世界では『妖魔召士ようましょうし』が妖魔を『式』にする時に力の分量を決める事が出来るらしく、逆に弱らせる事もあるようだ。


 リディアやラルフと戦っていた妖魔達もサイヨウが弱体化させて、修行をつけさせていたのだろうか? ソフィは何故そんな回りくどい力の設定にするのか分からずに眉を寄せながら思案を続ける。


 ――しかしそこで再び『動忍鬼どうにんき』が口を開いた。


「さっき貴方は『妖魔召士ようましょうし』が、悪い事をした妖魔たちを正しき道へと更生させる者達だとそう言ったわね? 確かにかつての『妖魔召士ようましょうし》』達は本当に妖魔達の未来を想って助けようとしてくれた者達だった」


 動忍鬼は遠い目をしながら、過去を思い返して話を続ける。


「でも今の人間達は違うわ。今の『妖魔召士ようましょうし』は、妖魔を更生させるどころか、本気で討伐する事すら目的としていない」


 溜息を吐いた後に一呼吸を置いて『動忍鬼どうにんき』は言葉を続けた。


「人間達は自分達の私欲の為に、我々妖魔達を従える事を目的としているの」


 どこか呆れたような表情を浮かべながら『動忍鬼』は、そうソフィに言い放つのだった。


 静かな夜の森の中でソフィは『動忍鬼どうにんき』の言葉を聴いて、余りにもサイヨウとはかけ離れた『妖魔召士ようましょうし』という者達の事を考えさせられるのであった。


 ……

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