第810話 VS特別退魔士

 ソフィの言葉を聴いた『特別退魔士とくたいま』のタクシンは、初めて聞く魔族という言葉に眉を寄せた。


(妖魔では無く人間でも無い魔族。それに、べ、別世界から来ただと? ま、まさか……!)


「俄かには信じられぬ事をいう者達だな。確かにこれまで私が相対してきた妖魔達とは違うようだが、魔族と言うのは聞いたことが無い」


「ほう。我からも少し聞いておきたい事があるのだが、ここは『』という世界で間違いは無いのだな?」


「ああ、ここがノックスで間違いはない。別世界から来たというがそれを示す何か……。そうだな、例えば証拠品等は持っているのか?」


「いや、この世界へは横に居るこやつの魔法を使ってこの世界に来たのでな。証拠を示せと言われても困るところだな」


 ソフィの言葉にタクシンはにやりと笑う。


「ふふふ、そうかそうか。だが証拠を出せぬ以上、信用する事は出来ぬな。そもそもそんな嘘を吐く理由が分からぬが、お前達は本当のところは妖魔なのだろう? お主は確かにのようだが、お前の隣に居る奴はに染まっておる。誤魔化しは通用せぬぞ、妖魔共!」


 ヌーを一瞥しながらタクシンがそう言うと懐から札を取り出し、その場で上空へと放り投げた。


『式』の札はボンッという音を立てながら、中に封じられていた妖魔が姿を見せ始める。呼び出された『式』は角の生えた鬼ではあったが『人型』の姿で角が無ければ人間だと思えるような、だった。


「『動忍鬼どうにんき』よ、そいつらを殺せ」


 タクシンがそう告げると動忍鬼と呼ばれた女型の鬼は、持っている大きな鉈を構えながらソフィ達を睨む。その動忍鬼の表情は形容し難いものであった。眉を八の字にしながら、目は細められてソフィ達を睨んでいるように見える。しかしその目を正面から見たソフィは全く違う印象を受けた。一見この世を恨んで憎いと睨みつけているように見えるが、無理に相手を恨もうとしているように見えており、ソフィには目の前の鬼が本当は悲しんでいるように見えたのだった。


 現在のソフィは今、魔神から魔力を回収し第二形態の姿ではあったが、タシギと戦った時のような『真なる大魔王化』は使わずに『真なる魔王化』の状態で『金色』のオーラを纏っている。


 【種族:魔族 名前:ソフィ第二形態(真なる魔王化) 

 状態:金色 戦力値:1260億 魔力値:1220億】。


 何故かは分からないが、目の前の鬼の表情の理由が知りたいとソフィは、相手の戦力値に合わせて戦おうと『真なる魔王化』を選んだのだった。


 『上位退魔士』も『下位退魔士』や『中位退魔士』とは違い、大きな力を持つ『鬼』や尾持の『狐』といった上位の妖魔を『式』として使役する力を持つ事が出来るが、この『動忍鬼どうにんき』と呼ばれる人型を維持出来る鬼を『式』として使役する事は出来ない。


 人型を維持する事の出来る妖魔は、鬼にしても狐にしても相当な強さを誇っており、このような妖魔を『式』として使役出来る『退魔』を生業とする者は、特別な力を持った『特別退魔士とくたいま』と呼ばれる。 


 そしてサイヨウのように『式』として従える妖魔に、徳を積ませてへの道へ更生させる者を、『妖魔召士ようましょうし』と呼ぶ。当然更生させるだけでは無く『妖魔召士ようましょうし』と呼ばれる程の者達はでもある。


 …………


「さぁ、かかって来るがよい」


 鬼は憎々しげにソフィを睨みつけた後、地を思いきり蹴ってソフィに鉈をもって襲い掛かるのだった。ソフィは自分の手に『』を纏い、手刀で鬼女の鉈を真っ向から受け止める。


 『動忍鬼どうにんき』は鬼である為にその力は恐るべき物であるが、その鬼が思いきり力を込めているのに、ソフィは涼しい顔をして受け止めている。


「どうした? それがお主の本気か?」


 口角を吊り上げながら笑うソフィを見た動忍鬼は歯を食いしばり、怨恨を強めながら更に手に力を込める。だがそれでも平然とソフィは受け止める。


「まさか『動忍鬼どうにんき』の力でも押しきれぬとは思わなかった」


 ソフィと鬼女の『動忍鬼どうにんき』の鍔迫り合いを見て『特別退魔士とくたいま』のタクシンは驚いた表情を浮かべる。


 ソフィは左手で『動忍鬼どうにんき』の鉈を受け止めていたが、やがて右手に魔力を集約させたかと思うと『動忍鬼どうにんき』に向けて放つ。


 ドンッ!という衝撃音と共に『動忍鬼どうにんき』の身体は吹き飛ばされて、タクシンの近くまで押し戻された。今のソフィには全く歯が立たない『動忍鬼どうにんき』だが、それでも今の魔力圧をまともに受けて、まだ戦闘を続行出来るだけでも上位の魔族程の強さはあるといえる。


 それだけでもこの世界に生きる『妖魔』の強さが窺い知れるといえる。自分の近くまで押し戻された『動忍鬼どうにんき』に向けて、タクシンは口を開いて呟く。


「力だけならお前は『タシギ』より上なのだがな。仕方ない『』を使うか」


 その言葉を聞いた『動忍鬼どうにんき』はタクシンを見て、慌てて首を横に振る。


「ふふ、自我を失いたくないならさっさとアイツを殺す事だ」


 絶望的な表情に変えた『動忍鬼どうにんき』は、唇を強く噛みながら鉈をぎゅっと握り、再びソフィに襲い掛かっていくのだった。


 ……

 ……

 ……

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