第743話 思慮深くあれ

 それから城へ戻ったソフィは新たに魔王軍に加わった者を交えて、魔王城で歓迎のパーティーを開いた。


 まだこれから別世界に跳ばされた魔王軍の者達を連れ戻す為に、ヌーに世界を案内させたりと色々と動かなくてはならないが、ひとまずは組織の者達の件が、片付いた事を祝おうと考えたのである。


 新たに一桁の序列部隊に加入を果たしたステアや、その側近のベイク達と話を交わしていくソフィ。

 話をしていく内に彼らから、驚くべき事実が明かされていく。


 何とステアやその側近の者達の中には、ソフィがアレルバレルの世界の統治を本格的に始める前の数千年前のを経験している者も居たのだが、更にはその中に『』が支配している時代を生きた者も居たのだった。


 魔王城の玉座に座りながらソフィは、その時代に生きた魔族から詳しい話を聞く。


 ――その魔族の名は『レイギア』。


 若作りをしていると教えてくれたレイギアは、確かに見た目はそこまで年を取っているようには見えない。だが、年齢はなんとのだという。


 レイギアという魔族はどうやら一万歳までは覚えているが、それ以上の細かい年齢までは数えていなかったらしい。しかしそれでもこのアレルバレルという世界では、ディアトロスやソフィと同世代もしくは少しだけ上かもしれない。


「それだけ生きているのならば、これまでに自分こそが支配者になろうとは思わなかったのか? お主にその気持ちがあれば、周りも付いてくると思うのだが」


「ふふ、異な事を申されるなソフィ殿。この世界が年功序列だけで、のし上がれる程甘い世界では無い事は貴方がよくご存じだろう?」


 ソフィの言葉に冷静にそう告げるレイギアだった。


「しかしそうですな、自分が支配者になろうとは考えはしませんでしたが、何度かソフィ様の魔王軍に、この身を宿そうと考えはしました」


 そう言ってソフィの目を見るレイギア。

 視線を合わせたソフィはそのレイギアの目を見た時、自分程長く生きてきたからこそ分かる男の『覚悟』と『決心』を抱いている事を悟るのだった。


「あの狂暴で暴君だった『ダルダオス』や、この魔界全土を統一しようと企んだ『ロンダギルア』。その魔族の王となり得る魔王達を薙ぎ倒した貴方の力と平和を真剣に考える貴方に、私はそのカリスマ性に惹かれました」


 そこでソフィから視線を外して、虚空を見つめ始めるレイギアだったが、やがて溜息を吐いた。


「しかしね。これまで魔王軍に属さなかったのには理由があったのです。それは……、貴方は余りにも強すぎるからです」


「……ふむ?」


「先程も述べた通り、貴方はダルダオスやロンダギルアとは違う。それは分かっていても、誰もが敵わぬ程の強さを持つ者が掲げる平和は、……!」


 レイギアは目を細めてそう言い放つと頭を下げた。どうやらそれは彼が、失礼を承知で伝えたかった事なのだろう。


「……レイギア殿、頭をあげてくれぬか?」


 頭を下げ続けていたレイギアがゆっくりと頭をあげた後、ソフィと視線を合わせる。するとソフィは微笑みながら口を開いた。


「強い力を持つ者が掲げる平和が怖い……か。貴重な言葉をありがとうレイギア殿」


 どこか寂しそうな笑みを見せるソフィだが、内心ではリラリオの事を重い耽っていた。

 それは魔族の大陸にあるトウジンという国の王が居る屋敷の庭の事だった。

 その屋敷の庭でトウジン王であるシチョウに、ソフィは統治とは何かを問うた事がある。


 そこでトウジン王シチョウから得た教訓の言葉。


 ――国に生きる者達が、その国に居てと思える事が大事だとあった。


 そして今レイギアから言われた言葉には、言葉こそ違うが似通った意味に繋がっているとソフィは考えるのだった。


(……結局のところ、我が力を持ちすぎておる所為で、他者に考えるという事を削いでしまっておるのかもしれぬな)


 しかしこの世界はリラリオとは違い、強い力を持つ魔族が蔓延る世界である。

 『ソフィ』というこの世界の頂点に立つ絶対的な強さを持つ王が居るからこそ、この世界は抑止が効いたバランスのとれた世界となっている。


 もしソフィが再び居なくなれば、魔界で暴れる魔族達が再び出現するか、それこそ『煌聖の教団こうせいきょうだん』のミラのような存在が現れてしまうだろう。


 リラリオのヴェルマー大陸や、ミールガルド大陸のように、になれば、アレルバレルの世界も変えられるだろうか。


 ――シチョウはこうも言っていた。


 を定めたからこそ、結果に繋がっているのだ。


 ――と。


「結局は抑止で行う和平を続けていても


「……」


 レイギアと彼女の主であるソフィが、話をしているのを横で聞いていたエイネは、静かに一人呟くソフィの言葉を聞いてアサでの世界の出来事を思い出していた。


(……この世界で偽善行為は無意味。それこそ力を示さなければ、勝手を働く輩が力にものを言わせて、破壊行動を繰り返すでしょう)


 アレルバレルの世界では頂点には立てないが、別世界ではあっさりと支配者になれる魔族がこの世界には数多の数程いるのだ。


 日和発言を行い大魔王ソフィの力が失墜したのだと勘違いする者が出始めれば、再び


 絶対的強者の存在の象徴として、今はまだソフィがこの世界に君臨しなければ現状を維持し続ける事は叶わない。


 横で寂しい笑みを浮かべながら何かを想う主を見て、エイネは何か出来る事は無いのだろうかと、これまでは考えた事の無い思案を始めるのだった。

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