第742話 神速のリーシャの矜持
「見たか? 信じられぬ程の才じゃぞ。ソフィよ」
「うむ、確かにあやつの『特異』はかなり強力なようだな」
レアの結界を感知したソフィとフルーフは、そのままレアの結界をすり抜けて施設に入り、そして今のリーシャと、ミデェールのやり取りをその目で見るのだった。
エイネとレアは顔を見合わせて互いに驚く。
張本人であるリーシャは自分の手を見て硬直していたが、無言で振り返ったかと思うと……。
――突然、リーシャは前傾姿勢になりながら再び目を金色に輝かせる。
「ま、待ちなさい、リーシャ!!」
リーシャが何をしようとしているか理解したエイネは、慌てて叫んで制止を呼びかける。
リーシャは金色に目を輝かせながら金色のオーラを纏い『高速転移』を使ってミデェールの右斜め五メートル程前に着地したかと思うと、その場所で思いきり軸足に全体重を集約させた後に地面を蹴り飛ばした。リーシャはその一歩で、大きく反動をつけて速度を増してみせたのだ。
「あああっっ!!」
怒号に似た叫びをあげながら、リーシャは全力でミデェールに向かっていく。反動をつける毎に、リーシャの速度は際限なく上がり続けていく。
――これこそがリーシャの神速たる所以。そして彼女の持つ特異である。
互いに金色の体現者同士。選ばれし者達の特異と特異、天才同士の才能のぶつかり合いが始まった。
反動をつけたのは一回である為、まだ完全な『神速』と呼ばれた彼女の速度の領域では無いが、それでも一歩目で思い切り反動をつけたリーシャは先程の速度とは比べ物にならない。
ミデェールは再び『
ミデェールと同じようにレアやエイネもまた同じ場所に視線を向けていた。
最早、今の瞬間移動を起こしたような速度のリーシャに正確に見る事の出来る者は限られている。
――この場では、ソフィとフルーフの両名のみである。
恐ろしい速度でリーシャは鼻息荒く両手でミデェールの肩を掴んだかと思うと、そのまま押し倒すのだった。
「ふーっ、ふーっ……! ぐすっ!!」
興奮冷めやらぬといった様子でリーシャは泣きながら、ミデェールの身体に馬乗りになって、両手で地面に押さえつけるのだった。
リーシャは余程悔しかったのだろう。先程自分が泣いていた時以上に自尊心を傷つけられたようで、直ぐに傷つけられた自尊心を回復させるために、本能で行動したようであった。
『大魔王最上位』領域の魔族に恐ろしい形相で乗っかかられたミデェールは、そのまま倒れたまま気を失うのだった。
「み、ミデェール!!」
そこでようやくエイネはリーシャを後ろから両脇に手を入れて立ち上がらせて払いのけた後、気絶をしているミデェールに駆け寄るのだった。
「リーシャ……?」
『女帝』の顔になったエイネは、ミデェールの頭を自分の膝に乗せながら、再び鋭い視線を呆然と立ち尽くしているリーシャに向ける。
「ヒィッ!! だ、だってぇ……! ご、ごめんなさぁい、エイネさん……!!」
「そこまでにしておくのだエイネよ。リーシャもやり過ぎた事を反省して謝っておるしな」
そこでようやくエイネ達はソフィがこの場に居た事に気づき、慌てて立ち上がって頭を下げる。そのソフィの背後からフルーフもゆっくりとした足取りで歩いてくる。
「えっ……! えぇ、フルーフ様もぉ!? 私の結界では何も感知出来なかった……」
「クククッ、まだまだワシはお前の結界程度で悟られる程、老いぼれてはおらぬぞ?」
レアの結界にばれないようにこの施設に入り込んでいたフルーフは、そう言ってレアに笑いかけるのだった。
「しかしリーシャを本気にさせるとは、この若者も大したものだ」
ソフィは床で寝かされている『ミデェール』を見ながらそう呟くと、フルーフもソフィの言葉に同調するように頷くのだった。
……
……
……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます