第741話 時の流れを操る特異

 魔王城でソフィ達は新たに序列入りを果たした『ステア』や、魔王軍に正式に所属する事になった『ベイク』達の歓迎の式典を行っていたが、そこでソフィは選定が行われた施設で、レアの結界の魔力を感知した。


「……これはレアか?」


 ソフィがそう呟くと、隣に立っていたイリーガルが口を開いた。


「リーシャ達がまだ帰ってきてないようですから、また何かやろうとしているようです」


「ったく……、ソフィ様がこれから歓迎の式典を行おうというのにアイツらは一体、何をしてやがるんだ!」


 更に陰ながらソフィの護衛を務めていたブラストが、そう口を出すのだった。


「クックック、


 ソフィは何かいいモノが見れるかもしれないとばかりにレアの結界の魔力を追いながら、とことこと歩いていくのだった。


「え! そ、ソフィ様!?」


 慌ててブラストとイリーガルが後を追おうとするが、そこへフルーフが立ち塞がったかと思えば、あとはワシに任せろとばかりに笑みを浮かべて踵を返した。


 この魔王城の地下牢ではまだヌーが幽閉されている為、万が一の為にイリーガルやブラストは、城に残っていないといけない。暗にソフィが先程そう呟いたため、ブラスト達はその事を理解し彼らの後を追う事が憚られたのであった。


「ず、ずるい……!」


 背後でブラストがそう呟くのを聞きながらフルーフは、笑いながら去っていくのだった。


 ……

 ……

 ……


 魔王城から少し離れた選定が行われた施設でリーシャ達は、レアの結界が施設内に行き渡ったのを確認する。


「やっぱりレアさんの結界は凄い」


 エイネはレアの結界の内側に居る事で、結界の規模をその身で感じられていた。

 レアのは『大魔王下位領域』まで到達していた。


 エイネ自身の結界はランクがかなり下がり『魔王中位領域』で、戦力値が1億を越えるような相手であれば、あっさりと破られる結界だった。


 対するレアの結界は大魔王領域に居る魔族達であっても、10億付近までの者達であれば、数度にわたって攻撃を耐えられる程の結界であった。


 本来、レア程の戦力値であれば、ここまでの結界を張る事など出来ない。しかし『魔』の素養がある事に加えて、父親であるフルーフから幼少の頃より『魔』を教わり続けて、これまで一日たりともレアの結界の精度は、とても素晴らしいものであった。


 本末転倒ではあるが、万が一レアがフルーフを探すという事をせず、この『アレルバレル』の世界でリーシャ達のように、歴戦の魔族達と命を削るような戦いを数千年間もの間続けてきたならば、今頃魔王レアは、と呼んでも恥ずかしくない程の強さにまでになっていた事だろう。


 それでもキーリ戦や過去のエイネ戦。そしてソフィと戦った事で少しずつ成長を果たして、素の戦力値も相当に上げてきている。まだまだレアもこれからの魔族であるといえるのだった。


「リーシャさん、準備出来ました」


 そう告げたミデェールの目は、

 その体の周囲には『金色のオーラ』が纏われていた。


 これまでアサの世界でのミデェールは、金色を纏う事は出来ても『紅い目スカーレット・アイ』を同時に使う事は出来なかった。


 しかしどうやら『』を使う時に『紅い目スカーレット・アイ』を使う事で、その能力が、という事を知った事で、ミデェールは『紅い目スカーレット・アイ』の使い方の一端を本能で理解したようである。


「『金色のオーラ』に『紅い目スカーレット・アイ』の組み合わせの相手とやるのは初めてかもぉ」


 リーシャはそう言うと自分も『金色のオーラ』だけではなく、目を紅くしていく。こうして互いに『紅い目スカーレット・アイ』と『金色のオーラ』を纏い対峙するのだった。


 ――ちらりとリーシャはレアに視線を送る。


 その視線を受けたレアはコクリと頷いて見せると、リーシャはウィンクして感謝の念を示す。

 リーシャはレアに結界の準備はいいかと視線で聞いて、レアは大丈夫だと頷きで返したのであった。


 そうして次の瞬間。一度だけリーシャは、今から触れる相手の顔を一瞥する。

 視線を向けられたミデェールもまた『特異』の準備を始めるのだった。


「……さぁ、あたしの動きを見切ったというアンタの腕前を見せてみなさぁい!」


 リーシャとミデェールの互いの距離は、十メートル程。

 リーシャの速度をもってすれば、この程度の距離は無いに等しい。既にレアの目にもリーシャの動きを追いきれない。エイネだけがミデェールに迫るリーシャの動きを完璧に捕らえている。


 ミデェールまでの距離、五メートル――。三メートル――。そして一メートル……!


 リーシャの『紅い目スカーレット・アイ』が輝きを増したかと思うと右手を前に伸ばした。この速度のリーシャが迫ってきた以上、ミデェールが躱す事は難しい。それどころか『大魔王下位』領域のレアでさえ、目で追いきれていないのだ。


 でこの速度のリーシャの手を躱せというのは無理があるというものだ。


 ――しかし。


(こ、こいつの視線! ほ、本当にあたしの手が見えている!?)


 リーシャが伸ばした手に確実に視線を向けているミデェールを見て、驚きの声を心の中で叫ぶリーシャだった。


 ――そしてそれだけでは無かった。


 キィイインという音と共に、一層ミデェールの目が紅く輝いたかと思うと、肩に触れようと伸ばしてきたリーシャの手をリーシャは、体を捻りながら躱そうとする。


「!?」


 このままではミデェールに躱されるという事を理解したリーシャは、その刹那に目の色を紅色から金色へと変貌させる。


 ――魔瞳、『金色の目ゴールド・アイ』。


 次の瞬間――。

 が唐突に跳ね上がる。


 強引に時間と距離を支配しながらリーシャは、今度は左手で回避態勢に入っているミデェールに手を伸ばす。


(……それはズルじゃない? リーシャ……!)


 流石に止めはしないが今のリーシャの行動の一部始終を同じく『金色の目ゴールド・アイ』で捉えたエイネは、心の中で悪態じみた台詞を吐くのだった。


 『支配の目ドミネーション・アイ』程の支配力は無いが、魔族の『魔瞳まどう』としては最高位に位置付けされる『金色の目ゴールド・アイ』は強制的に時間を支配して、リーシャはミデェールの動きを捉えるのだった。


 ――されど。


 信じられない事にミデェールは、そのリーシャの左手を自身の手で払いのけた。

 そしてそのまま軸足の右足に力を入れたかと思うと、リーシャと体を入れ替えた後、そのままバックステップで最初にリーシャが居た場所まで飛んで行く。


 ――この瞬間、ミデェールは特異によってだが、リーシャの速度を完全に上回って見せたのだった。


「う、嘘……っ!?」


「え、えぇ……!?」


 傍から一部始終を見ていたエイネが驚きの声をあげた直後、ようやくミデェールとリーシャの居た場所が、入れ替わったところでレアの目にも二人の姿が映り、エイネと同じく驚きの声をあげるのだった。


 ミデェールに背を向けたままリーシャは、呆然としながら自分の両手を見たまま硬直するのだった。

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