第740話 リーシャの提案

 リーシャとエイネが抱擁を続けていたが、やがて気がすんだのか互いに離れて行き、そしてリーシャは振り返るとレアに感謝の言葉を告げた。


「ありがとう! !」


 満面の笑みを浮かべながら真正面からそう言われたレアは、照れくさそうに顔を背けながら頷くのだった。


「それから、アンタも悪かったわね」


 最後にリーシャは事の成り行きを見守っていたミデェールにそう言うと、ミデェールは慌てて何度も首を振って、何故かミデェールもリーシャに謝罪を繰り返していた。


「何であんたが謝るのよ……、まぁいいわ」


 溜息を一つ吐くとリーシャはまだミデェールと話があるのか、ゆっくりとミデェールの前まで歩いていった。


「リーシャさん?」


 目の前まで来て目を細めたリーシャを見て、おっかなびっくりと言った感じでミデェールは一歩後ずさりながら口を開いた。


「ねぇ? あたしにもアンタの能力っていうのを見せてもらえないかしらぁ? あっ、勘違いはしないで欲しいんだけど、純粋にだけだから」


 エイネと仲直りをした今のリーシャは、もうミデェールの事を割り切る事にしたのだろう。単純にミデェールの特異が気になっただけだとしっかりと説明をするのだった。


「わ、分かりました……。でもどうすればいいですか?」


「Bの選定の時みたいにリーシャに動いてもらって、それをミデェールが目で追えているかで判断すればいいわよね」


 横で腕を組みながらエイネはそう提案する。


 この場に居るリーシャもエイネもレアも百戦錬磨の魔族達である。ミデェールがハッタリでは無く、しっかりと目で追えているかどうかはミデェールの視線一つで瞬時に気づく事が出来るだろう。


「うーん、試験ってわけじゃないけどさ、それなら……」


 リーシャは『金色のオーラ』を纏い始めた。


?」


 突然金色のオーラを纏い始めたリーシャに、何か不安を感じたのかエイネは声を掛ける。


「大丈夫よエイネさん、別に彼を相手に戦うわけじゃない」


 どうやら本当に戦闘をするわけでは無いようだが、リーシャの視線に気づいたレアは、軽く頷いて簡単な結界をブラストの時と同じようにこの施設内に張るのだった。


「試合ってわけじゃないんだけど、今からあたしはアンタの体に触れようとする。あんたはあたしに触れられないように、躱そうとして見せてくれない?」


 それはBクラスの選定試験の時と全くの真逆であった。


 Bクラスの試験の時は、リーシャが受講者達から体に触れられるのを避けていたが、今から行う事はリーシャが触れようとするのをミデェールが目で追えるかといった内容だったのである。


「大丈夫、時間は取らせないからね。あたしが一回だけアンタの肩に触れようとするから、アンタはそれを目で追えるか試して欲しいの」


 ミデェールは一瞬だけエイネの顔をみるが、エイネが笑って頷いたのを見て直ぐに返事をする。


「わ、分かりました! リーシャさんが、僕の肩に触れようとするのを躱せばいいんですね?」


「そ。アンタがあたしの手を、視線で追えたら十分よ」


 二人の言っている内容は同じようでいて、実は少しだけニュアンスが違っている。

 最初からリーシャはミデェールが躱せるとは思っていない。単にリーシャの手の動きが少しでも追えるかを検証しようと言っているだけである。それはこの場に居るエイネやレアも同じであった。


 Bの選定試験の時は『リーシャ』の動きが見えていたかもしれないが、一対一のこの状況下で『金色』を纏っているリーシャの手からであるミデェールが本気で躱せるとは考えられなかったからである。


 アサの世界のガウル龍王の攻撃は避けられたかもしれないが、アレルバレルの世界の『九大魔王』であるリーシャから避ける事など比較にもならない。


 だからこそミデェール以外の者達はリーシャの手の動きをどこまで追えるかで、判断しようとしている。逆にミデェールは視線で追うのではなくて、本気で肩に触れようとしてくるリーシャの手を避けようと考えているのだった。


「じゃ、じゃあ……。僕もオーラを纏いますね?」


「りょーかいよぉ! 準備が出来たら声を掛けてねぇ?」


 ミデェールの言葉にリーシャは笑顔で頷いてそう言うのだった。


 ……

 ……

 ……

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