第603話 珍しいマジックアイテム

 イザベラ城の地下牢を抜け出したフルーフは、少しずつ地上へと上がっていく。

 その堂々とした足取りはまさに、一つの世界を支配した大魔王と呼ぶに相応しいであった。


 一度は自分を操ってみせた敵組織の居る拠点の中だというのに、大魔王フルーフからは、全く恐れが見えない。

 イザベラ城はあらゆる世界にある魔王城とは違い地下に階層が広がるタイプの魔王城である。外からは見上げる程の大きな城に見えるが、それはダミーであり、地上より高い場所の階層には、ほとんど部屋は無く通路が広がっている。


 このイザベラ城の元の主である大魔王イザベラは用心深く、自身を守る為に外からの攻撃を防ぐ為、玉座の間や多くの重要拠点となる場所を地下に作っていた。


 地下は五階層まであり、フルーフが幽閉されていた地下牢のある場所は最下層であった。つまり今一つの階段を上がった事で、フルーフの現在地点は地下四階という事になる。


 しかし現在この城にはイザベラの配下達などは既に居らず『煌聖の教団こうせいきょうだん』の者達しか居なかった。そしてその教団の配下達もほとんどが、魔神に消滅させられてしまった為に、ほとんどこの城には兵と呼べる者は残ってはいない。


 誰も居ない地下の複雑な迷宮と呼べる迷い道をフルーフは歩く。よくこのような造りにしたと感心をしつつ『隠幕ハイド・カーテン』で身を隠しながらフルーフは上を目指していた。


 『隠幕ハイド・カーテン』の効力のおかげで全くフルーフが地下牢を抜け出している事など、気づいて居ないミラ達は、現在魔王城の地上の一室で『ネイキッド』から送られてきた使者から話を聞いている最中であった。


 『アレルバレル』の世界の情勢を聞き終えたミラは、ヌーと共にフルーフの居る地下牢を降りて行く。地下へ降りて行くミラ達と、地上へと向かうフルーフは、このままいけばいずれ巡り合う事になると思いがちだが、実は中は道が迷路のように入り組んでいる為に、フルーフが迷いに迷ってしまえば、そのまま気付かずにすれ違う可能性もあるのである。


 フルーフは地上でまで出てしまえば、そのまま『概念跳躍アルム・ノーティア』で別世界へと向かおうと考えている為に、上手く行けばミラ達をやり過ごせる。


 つまりこのまま何事も起きなければ無事にフルーフは『レパート』の世界へ戻る事も可能だろう。


「むっ! が、こちらに向かって動いてきているな」


 フルーフは立ち止まり無意識に『魔力探知』を使ってミラ達の動向に気づく。

 簡単に捕まるつもりはないが、それでもまともに戦って勝てないと理解しているフルーフは、このまま追跡をやり過ごして外に出る事を選択する。


「道が分からずに少しばかり面倒だと思っていたが、奴らが近づいてきてくれる事によって、外に出る道が分かりやすくなってしまったな」


 フルーフは怪我の功名だとばかりに薄く笑みを浮かべながら、ミラ達が向かってくる方向へ足を向けていく。このまま真っすぐ上に向かって天井を突き破って、直線上に迫れば僅か数秒の位置だが、階層が違う上に道は入り組んでいる。


 奴らの歩いてくる道のりを記憶しながら『フルーフ』もまた地上を目指して歩いていくが、地下二階へと上がる階段を見つけて近づいていくと、その階段の近くに小部屋を見つけた。


 急いでいる身としては、そちらの部屋を覗いている場合でないが、何故か異様に中が気になったフルーフは辺りを見回した後にその小部屋の扉を開け放つ。


 中は薄暗く入り口からは何があるのかさっぱり見えない。フルーフは入り口の壁に手を掛けて、ゆっくりと中へ入っていくが、そこで『魔法』で灯そうかと考えたが、あの人間が居る以上は僅かな『魔力』が漏れ出ただけであっても気づかれる可能性があるために、仕方なく備え付けられていた燭台に灯を灯す事にするのであった。


 …………


 小部屋の中は部屋を埋め尽くす程に、何かが入った箱が山積みにされていた。

 フルーフの位置から一番近くに陳列された箱を開けてみると、中にはフルーフが見た事もない『』が眠っていた。


「鈴に時計に靴……か、素晴らしい。どれもこれも私の見た事もない『マジックアイテム』ではないか!」


 どうやら『ダール』の世界にある『マジックアイテム』の類が、この部屋に集められて置かれていたようだった。マジックアイテムは、身につけて効力を発揮する物が多くを占めるが、魔力を灯したりすると効果を発揮する類のアイテムもある。


 フルーフは『魔』に関与するような『マジックアイテム』には


「うーむ。あまり時間がないのだが……」


 フルーフは溜息を吐きながら山積みされていた箱を次から次に開けていく。

 手軽に持ち運べる物や身につけられる装備類の『マジックアイテム』は自身に装備していく。


 もちろんここで魔力を灯して効果を試したりは出来ないが、この場所を出て安全な場所に帰ってから試したいと思ったのだろう。こういった『マジックアイテム』の取り扱いとして気をつけないといけない事は、良い効力ばかりがあるとは限らない為に、身につけたりする事でマイナスに働くアイテムの危険性も考慮しないといけないものなのである。


 ――しかしフルーフは全くそんな危険性を孕んでいるかもしれない『マジックアイテム』を全く恐れずに次から次に懐にしまい込んでいくのだった。


 フルーフ程の大魔王にはに対しての『耐魔力』が備わっている為である。


「魔力を回復させたり、体力を回復させる『マジックアイテム』類があれば重宝するんじゃがな……」


 ここにある『マジックアイテム』は『ダール』の世界のものであり『レパート』の世界出身のフルーフには、見慣れないものばかりであった。


 その為にとりあえず持てるだけ持っていき、どれか当たりがあればいいなくらいにしか思っていない。


 部屋の奥まで一通り箱の中を開けて、ひとまず動く分には差し支えない程度のアイテムを詰め込んだフルーフはゆっくりと立ち上がった。どうやらもう十分だと判断したのだろう。


「これだけあれば、どれかが何かの役に立てばいいがな」


 『魔』に対して効力のあるものが少しでもあれば、暇つぶしにはなると嬉しそうにしながら『フルーフ』はその部屋を後にしようとする。


 そして出口に向かって歩き始めるフルーフだったが、そこでミラ達の魔力を感知する。どうやらフルーフが、マジックアイテムに目を落としている間に相当な時間が経っていたようである。

 大きな魔力を持った二つの存在が、すぐ上の階層で動いている。どうやらミラとヌーの二人だろう。


「いかんな。少し時間を掛け過ぎてしまったか……?」


 フルーフは仕方なく、このまま小部屋でやり過ごす事にするのだった。

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