第602話 ソフィの居ないリラリオの世界

 魔族が多く住む『ヴェルマー』大陸にある三大魔国の一つ『』。

 その『レイズ』魔国と長きに渡って戦争状態にあった『ラルグ』魔国と『トウジン魔国』だが、現在は手を取り合う国家として、確固たる同盟国を築いている。


 この功績は別世界から訪れた一体の魔族である『ソフィ』のおかげだと、間違いなくいえる事だろう。

 そのソフィは『アレルバレル』の世界へと帰ってしまったが、変わらずに三大魔国の王達の関係性は良好である。


 ヴェルマー大陸の代表国は『ソフィ』の居た『ラルグ』魔国となっているが、有事の際には『レイズ』魔国にも決定権を持つことが許されている。


 その理由として国力としては変わらずにラルグ魔国が最上位にくるが、ひとたび戦争ともなれば、現在では『レイズ』魔国の女王を務める『シス』が最も力を示す立場となるからである。


 シス自体も内に秘める大魔王が目を覚ませば、大きな力を持つ魔族であっても無視出来ない。更にそれだけではなく、シス女王には『エルシス』というかつて『アレルバレル』の『魔界』の魔族達に恐れられたの魂も混在している。


 そしてこのエルシスの存在が居る事でヴェルマーだけでは無く、リラリオという世界そのモノの安寧あんねいが保たれるといっても過言では無い。

 エルシスはアレルバレルというあらゆる世界の中でも上位に来る程、平均戦力値が高い世界で人間という立場にありながら、大魔王ソフィ以外の魔族にも負けた事がないという恐るべき存在なのであった。


 更にそのエルシス自身よりも宿主となっているシスの方が、遥かに魔力が上という事もあり、まさにシスという存在は『』を持たせた状態なのである。


 そんなシスは友人であるソフィに頼まれた事で、ソフィの妃となったリーネ達を脅威から守る為に『リラリオ』の世界の『レイズ』魔国へと戻ってきていた。

 そしてシスはリーネやラルフ、ソフィの配下の者達をレイズ城にある中庭に残して、会議室へと足を運んだ。


 現在アレルバレルでは、アレルバレルの世界を狙う勢力『煌聖の教団こうせいきょうだん』との交戦状態に入っていた。シスはリーネやソフィの配下達をこの安全な『レイズ』魔国へと連れて帰った後、この場に居るリーゼに事情を説明してすぐに『アレルバレル』の世界へと戻り、ソフィ達に加勢をするつもりであった。


 この『レイズ』魔国で現在No.2である『ユファ・フィクス』もまた、ソフィの居る『アレルバレル』の世界に居る為に、シスまで離れてしまえばNo.3である『リーゼ』が全権を持つ事となる。

 しかしも一度は引退した身ではあるが、過去にこの国のNo.2の座を務めた経歴がある。


 レイズ魔国の先代女王『セレス』を長期に渡って支え続けて来た人格者で、シスが信頼に値するこの国の立派な『フィクス』であった。


 たとえ女王とフィクスの二人がこの国を離れたとしても、彼女が居る事で『レイズ』魔国を任せられるとシスは信じているのであった。


 そしてもう一つシスが離れても大丈夫だと考える理由に、もう一つシスの中に眠る魂『エルシス』が鍛え上げたある『後継者』をこの国の護衛に回しているからであった。


 そのとはかつて『ミールガルド』大陸で最強の剣士と謳われたであった。


 ……

 ……

 ……


 ソフィの配下達の為に用意された『レイズ』城にある庭で『サーベル』達が駆け回っている。

 その様子を見ていたラルフだったが、ふと視線を感じてそちらを見ると、そこにはリディアが立っていた。


「驚きましたね。何故貴方がこの国に?」


「この国の女王にこの国を頼むと言われたのでな。それよりお前はどうしてここに戻ってきた? アイツと『アレルバレル』の世界とやらに向かった筈ではなかったのか?」


「そ、それは……」


「ふん。大方お前の手に負えない奴らが現れて、お前達の安全の為にがこの世界へ戻したってところか?」


「!」


 痛いところを突かれたとばかりに、ラルフは視線をリディアから外すのだった。


「ちょ、ちょっと……!」


 リーネが見兼ねてラルフ達の会話に首を挟もうとするが、その前にリディアが口を開いた。


「勘違いはするなよ? 俺はお前を責める為に言ったんじゃない。事実を確認しただけだ」


 その言葉にラルフは外した視線を再びリディアに戻すのだった。


「アイツらがお前達を戻したという事は、どうせ『』の連中と戦う事になったからだろう? 悔しいことだが、今の俺やお前は『上』の連中から見れば大して力量は変わらん。俺がアイツの世界へ行っていたところで、結局はお前と同じように戻されていただろうからな」


「貴方がそんな事を言うなんて、変わりましたね?」


「ふんっ」


 ミールガルド大陸に居た頃の彼からは考えられない程に『リディア』の性格は丸くなっている。いや、現実をしっかりと見据えられる程に成長したのだろう。


 このリラリオの世界であれば、過去の調停者の役割を担っていた龍族の始祖『キーリ』をも試合の中とはいえ、打ち破った彼であっても『アレルバレル』の世界の魔族の領域には今はまだ遠く及ばない。


 その事を分かっているからこそ、ラルフの今の気持ちも少なからず理解している事だろう。


「ラルフよ。俺達はまだまだを相手にするには、足りない事が多すぎる。戦力として数えられないだけではなく、安否を案じられてへ返されて悔しいだろうが悲観している時間はないぞ? 落ち込んでいる暇があるならいつか頼られるように強くなれ」


「貴方に言われるまでもありませんよ……」


 ラルフは自分の抱える内情をえぐられた事で悔しそうに、奥歯を噛みしめながら声をあげた。


「それでいい。悲観や諦観をする前に力をつける努力をしろ。結果が出る前に勝手に自分の天井を決める事は、


 言葉尻に少し語気を強めながらラルフにそう告げると、リディアはその場から去っていった。


「……」


「ラルフ……」


 その場に取り残されたラルフを気遣うようにして、リーネは声を掛けるのだった。


 ……

 ……

 ……

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