第570話 信仰心を持った信徒

 計画の達成にはまず、大魔王『フルーフ』の持つ『魔神』の放っていた技を『発動羅列』へと変換された知識を抜き取る必要がある。


 そしてあれ程の『エネルギー波』をミラが使おうとすれば、どれ程の規模の『生命ストック』を、消費せざるを得ないかを理解するところから、始めなければならない。


 まずはフルーフと接触しなければならない為に、ルビリスには『魔神』を引き付けてもらわなければならない。魔神の狙いはあくまでラテールだが、ラテールがやられてしまうと『魔神』は役割を終えて消えてしまう。


 『高密度エネルギー波』という一つの技を『魔法』として、自分のモノには出来たがでは、まだまだソフィと戦うには不十分過ぎるだろう。


 もう少し『魔神』の力をならないだろうが、盾の役割を担ってもらっている『ヌー』にはもう、魔神の相手をするほどの体力も魔力も残ってはいないだろう。流石にこれ以上『ラテール』の盾をヌーに期待するのは酷というものである。


 組織の司令官である『ルビリス』程の実力者であるならば、フルーフから情報を得るまでの間程度ならば、生き残る可能性は残されるだろう。それにしても『リベイル』がこんなにも早くやられて退場させられるとは思わなかった。


 ひとまず魔神から距離をとる事が優先であり、ラテールとフルーフをこの場から離脱させることが大事だと考えたミラは『転移』を使ってまずフルーフの襟首を掴み、そしてそのまま再びヌー達の元へと急ぐ。


 魔神はミラの『転移』を観察して、このままこの場を離脱する気だという事を察した。ラテールを逃すまいと『魔神』が神々しい『白のオーラ』を展開し始める。


「おっと。行かせませんよ、魔神殿?」


 高密度のエネルギー波を放つ準備を始めた『魔神』の射線上に『ルビリス』が割り込んだ。魔神は鬱陶しそうにしながらも、構わずそのまま『高密度のエネルギー波』を放つ。


 ルビリスは表情を引き締め直しながら、即座に『金色のオーラ』を纏って『スタック』させていた魔法を展開。全力で放ったルビリスの『万物の爆発ビッグバン』で、僅かにエネルギー波の射線を逸らす事に成功するが、それでもヌーが放った『魔法』の威力までは程遠く、魔神のエネルギー波はルビリスの左肩ごと背後の岩山の瓦礫を貫いていった。


(……分かりきってはいた事でしたが、惨めになる程の力量差ですねぇ?)


 ミラ程ではないにしても『神聖魔法』を巧みに扱う事が出来て『大魔王』領域でも上位中の上位である『ルビリス』だったが『魔神』を相手にすればこんなにも歯が立たず、全く相手になっていなかった。


 ――しかし今の一撃を防いだ事でこの場に居たミラ達は『高等移動呪文アポイント』の効力によって、かなりの距離を離れる事に成功するのだった。


 ルビリスは役目を無事に果たせた事で、左半身がなくなってしまった痛みよりも、達成した安堵感に包まれるのだった。


 ……

 ……

 ……


 ミラ達は今まで居た人間が多く住む大陸から遠く離れた大陸へと移動に成功した。そこは大魔王イザベラの居城にして、現在はヌーが我が物顔で使っている魔王城であった。


「……よし。今の内に『コイツフルーフ』から『魔神』のデータを抽出する」


 ミラは操られて虚ろな目を浮かべているフルーフの両目の前に手を持っていき、静かに呪文の詠唱を始めた。


「貴様の言う通りに動いてきたが、この後の展望は考えているのか? お前の配下達も大半が消し飛ばされたし、もう俺様の体力も余り多くは残っていないんだぞ?」


 フルーフから魔神の記憶の抽出を行っている『ミラ』に問いかけるヌーであった。


「ああ『時魔法タイム・マジック』の無効化を得られなかったのは残念だが、魔神の攻撃を二種類も得られたことは大きな収穫だ」


「貴様の大きな収穫とやらに払った犠牲は、存外に大きい物だったがな?」


「ふふっ。安心しろ。この程度の犠牲であれば、と『』が居れば釣りがくる程だ」


 ミラに皮肉をぼやいたヌーだったが、上機嫌で返事をしてくるミラであった。

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