第569話 浄化の光

 ミラが次の作戦を決行しようとルビリスの顔を一瞥した時には、既に先に魔神が行動を開始していた。

 魔神の周囲を神々しく輝く『白』のオーラが纏われた瞬間。魔神の身体が『銀色』に発光し始めた。そして次の瞬間『光のエネルギー』が『魔神』を軸として出現し始めるのだった。そして円状に広がったソレは徐々に広がっていく。


「なんだあれは?」


 ミラの目には『発動羅列』が映っていない為、先程の『時魔法タイム・マジック』を無効化した時のような『スタック』を乗せた魔法を展開しているようなモノではなく、自動的パッシブなモノのように見えるのであった。


 ミラには理解が出来ない物のようだが、大魔王フルーフの目には全く別のモノが見えていたようだ。現在『フルーフ』は自身が編み出した独自の魔法を用いている。その効果は先程の魔神の相手の攻撃を強引に文字羅列化させて『発動羅列』へと変換する解析魔法であり、元々ある『漏出サーチ』という魔法と組み合わせる事によって、情報の分析を行う事の出来る新魔法である。


 これにより術者が初めて見るような技を使われたとしても、この魔法を宿した『目』で見る事で、どのような技なのかを瞬時に見極める事が出来るというわけであるが、操られているフルーフには、魔神の攻撃の『発動羅列』化に成功していてもあまり意味を為さない。


 この魔法自体『発動羅列』を読み解く事の出来るミラだからこそ意味がある為に『発動羅列』を読み解く力のない『フルーフ』には恩恵が全く無いのである。


 ――これはまさにミラのためだけに用意された『魔法』であるといえよう。


 現在フルーフが見えている『発動羅列』化された魔神の円状の攻撃も情報を共有出来た後であれば、ミラも数回の死の回数分の魔力を費やす事で発動は可能であるが、現在ではまだミラには見えていない為に『魔神』の周囲を纏っている円状の光の効力は『フルーフ』にしか情報は伝わっていない。そしてそのフルーフも操られて自我を保ててはいない為、今のフルーフに見えていたとしても全く無意味であった。


 一刻も早くミラは情報を共有しなければならないが、だからといって『魔神』を放置しておくわけにもいかなかった。


 …………


 魔神を中心に円状に広がった『光のエネルギー』だったが、魔神が右手を前に突き出した瞬間にその広がった光は恐ろしい速度で辺りを照らす。


 その場に居た者達の中で咄嗟にまずいと判断して動けた者は少なかった。

 ミラやルビリス、ヌーと首を掴まれていたラテール。そしてフルーフは、光が辺りを包み込む前に抜け出す事に成功したが、他にその場にいた者達は一瞬で『浄化』されてしまった。


 数十体の大魔王領域に居る者達が、今の『光の一撃』で魂すらも『浄化』されて消えてしまったのであった。ルビリスやヌー達は、驚き戸惑いながら魔神を見つめていた。身を守る以外の事を意識していないフルーフは、次の攻撃に備えて何やら『スタック』を展開していた。


 ――この中で唯一人。大賢者『ミラ』だけが口角を吊り上げて笑っていた。


(い、今のだ……! どれだけの『生命』を消費させられるかまでは分からないが、今の光を自在に操る事が出来れば、あの化け物にさえ甚大な効果を与え得るだろう!)


 周囲の大魔王領域を一撃で『浄化』させたあの光の一撃は、ミラの思い描く計画に使判断したようだった。


 ミラが今回『魔神』を出現させた理由は『魔神』の力を取り入れる事にあった。ミラには『神聖魔法』があり『生命ストック』も大量に保持している。


 後は『魔神』の『時魔法タイム・マジック』無効化や、一瞬で魔族達を浄化させる程の『魔神』の力を有する事によって、自身を本当の意味での『』へとなり替わろうと考えていたのである。


 『発動羅列』を読み解く力があれば、フルーフの新魔法を利用して目の前のあの『魔神』の力さえ、魔法へと置き換えて我が物として扱う事が出来るのである。


 大賢者エルシスも同様に『発動羅列』を読み解く事が可能だが『魔神』の力を操る事が出来るかと言われたらまず『』である。


 何故なら『エルシス』の魔力を以てしても『魔神』程の魔力を持ち合わせていないからである。というよりも『神』の中でも『魔』を司る神である『魔神』の力を『魔族』や『人間』といった種族が扱うことは出来ない。


 ――それ程までに『魔神』の魔力は想像を逸しているのである。


 しかし他者の命を奪い『生命ストック』へと置き換える事の出来る『』だけは別である。魔力回路に次々と魔力を溜め込み枯渇するたびに『になるのである。


 繰り返し行えば想像を逸する魔力を持つ『魔神』の『魔力』程にも届く事はすでに理解している。魔神の技と力を取り込み『生命ストック』を無限に近い程携える事で『大魔王ソフィ』すらも越える事が出来るとミラは考えているのであった。


 完璧主義に近い彼は出来るだけ今回のような失敗を招く作戦を取るつもりは無かったが、もうなりふり構ってはいられない。ミラはルビリスの顔を再び見るとルビリスもミラを見て頷く。既に作戦は話してあるために『ルビリス』にいちいち説明する手間は無い。


 ――『』で『ルビリス』には魔神の囮となってもらい役に立ってもらう他ないのであった。


 ……

 ……

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