第568話 第一段階の成功

 これまで数回とラテールを守るための行動を繰り返してきたヌーだったが、魔神にとっては最初の一撃以降はヌーに興味を失くしたようだった。


 そして魔神はヌーには目もくれずにを引き起こした存在であるラテールを葬る為に手を伸ばして来るのだった。


「クソが。もう手はねぇぞ……。ミラ」


 何をしたところでこの距離に居る『魔神』に有効打となるモノは残されておらず、ヌーはここまでかと諦観の念を抱き始めるのだった。


「いや、まだ足りぬな。もう終わった気になっているようだが、お前にはまだ働いてもらわねばならない」


 魔神とヌー達の間に転移してきたミラが、金色のオーラに包まれた状態でそう口にする。突如現れたミラはラテールに手を伸ばしている『魔神』に向けて『エネルギー波』を放出する。


「――!」(これは……、まさか!)


 魔神は距離が殆どない状態でミラから放たれた『エネルギー波』を瞬時に弾き返した。弾かれたエネルギー波は、崖を突き破った勢いそのままに見えなくなるまで空へと飛んで行った。


「――?」(貴様が放った力は我ら神々の力か?)


 魔神はこの世界とは違う言語でミラへ問いただす。当然何を喋っているか分からないミラは、煩わしそうに顔を顰めた。


「どうやら上手く使えたようだな」


 ミラは何を喋っているか分からない『魔神』を無視しながらそう言うと、ヌーの肩に手を置いて、魔法を唱えるのだった。


 ――「『高等移動呪文アポイント』」。


 短距離移動の転移ではなく、移動呪文によって強引にその場から大きく距離をとって、ミラ達は離脱をするのだった。その場に取り残された魔神はとなる。


「――?」(矮小な存在が調子に乗るなよ?)


『魔神』は『金色』とは違う独自のオーラを纏いながら、山脈の地面部分を突き破りながら真っすぐミラの元へと向かっていくのだった。


『魔神』が纏うオーラに触れた瞬間。崖の岩は豆腐のように勝手に崩れていく。山が全く障害にならない為に、空を飛ぶのとまったく変わらずに岩中を突き進んでいく魔神は、ついに山脈の頂に到達して、そこに居たミラ達を発見する。


 突如として姿を見せた『魔神』を見たミラは言葉を発する。


「来たか。お前達やれ!」


 その場にいた『煌聖の教団こうせいきょうだん』の大魔王達は、ミラの命令で一斉に攻撃を開始する。次から次に極大魔法の爆撃が『魔神』を襲う。しかし魔神は防御すら取らずに、ゆっくりと無表情のまま『ラテール』の方へと歩き近づいてくる。


 大魔王達の攻撃などものともせずに、その瞳はラテールのみを見続けていた。


 ミラはその様子を見て直ぐに作戦を変更して『最高幹部』の者達を一瞥した。その視線を受け取った『最高幹部』達である『リベイル』や『ルビリス』は直ぐに行動を開始。


 まずリベイルが『転移』で一気に魔神の背後にまわると『魔神』の肩に手をおいて、用意していた『魔法』を発動させる。


 ――神域『時』魔法、『概念跳躍アルム・ノーティア』。


 リベイルは魔神を別世界へと運ぶ為に『世界間魔法』の魔法を発動させるが『時魔法タイム・マジック』が通用しない魔神には当然のように無効化される。


 魔神は笑みを浮かべた後に、肩に置かれているリベイルの腕を掴みあげる。華奢な身体をしている魔神のどこにそんな力が秘められているのかと思う程の握力であった。


 金色のオーラを纏っている大魔王『リベイル』だが、魔神に掴まれている手を引き剥がす事が出来ない。


(『時魔法タイム・マジック』が通用しない事は過去のヌーの報告で知ってはいたが、私の目にも『フルーフ』の魔法にも『発動羅列』は確認出来ない。つまり魔神の意思で『時魔法タイム・マジック』を無効化しているわけではないという事か……)


 ――アテが外れたとばかりにミラは舌打ちをする。


 魔神は掴みあげている『リベイル』の腕に更に力を入れる。キリキリと音を立てて『リベイル』の苦しみに歪む表情を眺めた『魔神』は、飽きたのかそのまま岩山へ放り投げる。


 リベイルは岩山に打ちつけられてたかと思うと、纏っていたオーラが消えた。どうやら魔神に、ようだった。


(もう少し粘りたかったが、リベイルがあの様では猶予はない……)


 リベイルが即座に意識を遮断させられた事を受けて、ミラは渋々と次の作戦に移行するのだった。


 ……

 ……

 ……

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