第413話 大事な髪留め

 魔界の中央大陸にあるソフィの『魔王城』。その最下階層にある牢屋に『バルド』は居た。


 牢屋には結界が張られた上に、手足には何やら『魔力』を封じる作用のある『術式』が施された重しをつけられて動けなくさせられていた『バルド』であった。


「バルドよ。馬鹿な真似をしたものじゃな?」


 牢屋の外側から声を掛ける魔族の名は『ディアトロス』。ソフィの配下にして『人間界』の宰相の立場に居る『大魔王』であった。


「まさか『ビル』の言っていた『上』の存在が、貴方のことだとは思いもしませんでしたな」


 ルビリスの誘いに乗り『組織』への加入を決めたバルドだったが、その帰りにビルに見つかってしまい裏切り行為を咎められてしまった。


 現役の魔王軍所属であるビルは、魔王軍を抜けたバルドの見張り役に抜擢されて一緒に集落で生活をすることを決められていた。


 そして何かあったときは『魔王軍』の直属の『上』に、報告することが義務つけられていたのである。


 当然その事はもちろん『魔王軍』の序列一桁部隊の三位の座に居たバルドも知ってはいた。しかしまさか『ビル』の直属の『上』の存在が『序列部隊』ではなく更にそ上であった旧『三大魔王』にして現在では『四天王』と呼ばれる『魔王軍』権威の筆頭である『ディアトロス』だとは思わなかった。


(※この時代の権威にして、ソフィの金色のメダル所持者『四天王』。後に金色のメダルの所持者が増えた事で『九大魔王』へと更に名前が変わる)


 流石に『序列一桁・四位』までならバルドは戦ってでも、ルビリスの元まで逃げようと踏んでいたが、ディアトロスがあの場に来るとは思わなかった。


「お前の集落に最近、別世界の魔族が転がり込んで来ていただろう? ワシとソフィはその魔族を先日一度だけ見たことがあってな。その魔族をソフィは放っておけといっていたが、ワシは独自に調べていたのじゃよ」


「レアさんのことを?」


「その者の名前までは知らぬが、金髪の子供の風貌じゃったな」


 そこまで聞いてバルドは内心舌打ちをする。


 ――つまりこういう事である。


 当初ディアトロスは、ビルの担当ではなかったのだが、レアがこの世界に来る事によって、その存在をディアトロスの『選眼』の目に留まり、偶然レアがあの時に集落の方向へ向かったのをみたディアトロスが『魔王軍』の配下が居る『ビル・カイエン』の担当となった。


 もしレアがバルドの居る集落ではなく、全く別の場所へ向かっていたのだとしたら、バルドは今魔王城の地下牢に縛られる事もなく、ルビリス達と共に新たな『生命』の先を見届けたと言う事である。


 何という運命の悪戯だろうか。


 そして自分の運のなさに『バルド』は俯き、この場で苦笑いを浮かべるのだった。


「さて。それでお前は何を見て何に興味を持って、そしてあの若造達の『組織』の中へと入るに至ったか、全てを話してもらうぞ?」


「……」


 バルドは『組織』が自分を助けにきてくれると思う程、世間を知らない若者ではない。


 だがあのルビリスという魔族から見て、バルドを何かに使えると判断したからこそ、勧誘をしたのだろうと『バルド』は自己分析を行いながら、ルビリスの今後の行動を確信をしていた。


 今はその自分を利用しようとした『ルビリス』という男に、期待をしようと考える『バルド』だった。


 ……

 ……

 ……


 そしてその件の組織の魔族『ルビリス』は、大賢者ミラの命令で再び『アレルバレル』の世界へと来ていた。


「やれやれ。何かあれば私が匿うとは言ったが、まさか敵の本拠地に捕縛された後とはね」


 呆れるようにそう口にするルビリスだが、バルドを仲間にする事を今でも諦める素振りは見せなかった。『魔王城』へ乗り込んでバルドを連れ出すかと考える程であった。


「はてさて。今出てこられて面倒な魔王は『ディアトロス』『イリーガル』『ブラスト』。後は新たにあの化け物の側近となった『』ですかね」


 現在の大賢者の『組織』のNo.2の立場の『ルビリス』は、バルドを救出するための作戦を考え始めるのだった。


 ……

 ……

 ……


 大事な話があると切り出したレアに、足を止めて耳を傾けるエイネ達。


「大事な話ですか?」


「ええ。目的を果たした私はそろそろ自分の世界へ帰ろうと思ってね」


 そのレアの言葉にエイネの足元でご飯の催促をしていた『リーシャ』が大きく反応をする。


「待って! レアどこかに行っちゃうの!?」


 とたとたと走ってリーシャは、レアの元へ向かってくる。


「本当はこんなにも長居するつもりはなかったのだけどねぇ。貴方達には本当にお世話になったわね?」


 そう言ってレアは近づいてきたリーシャの頭をいつものように撫でる。


「ヤダヤダ! ずっとここにいてよレア! 私たちと一緒にこれからも暮らそうよ!」


 いやいやと首を振りながら、レアにしがみつくリーシャであった。


「こらこらリーシャ。レアさんが困っているでしょう」


 そう言ってエイネは、リーシャのわきの下に手を挟み込んで担ぎ上げる。ひょいっと身体が軽い五歳のリーシャは、簡単にレアから引きはがされてしまうのだった。


「ごめんねぇリーシャ。皆が待ってるから帰らないといけないの」


 レアがそう言うと目尻に涙を溜めたリーシャは、今にも大声で泣きそうな顔をするのだった。


「そんな顔しないでリーシャ。そうだ! これを貴方にあげるわ」


 そう言ってレアは手を自身の髪に持っていき、過去にを外す。


 エイネは何かをリーシャに渡そうとするのをみて、抱えていたリーシャを地面に降ろす。


 リーシャの涙をそっとレアは拭ってやり、そして自分の髪留めをリーシャにつけてあげた。


「わぁっ……!」


 リーシャは手を髪留めに持っていき、嬉しそうに触り始める。


「ほらリーシャ、レアさんにお礼は?」


 エイネが嬉しそうに貰った髪留めを撫でて嬉しそうにしているリーシャにそう言うと――。


 ――


 満面の笑みを浮かべて、リーシャはレアにお礼を言うのだった。


「大事にしてね。リーシャ、!」


 そう言ってレアは自分にお礼を告げたリーシャに抱き着くと、そのリーシャに見られないように注意をしながら彼女は、一筋の涙を流したのだった。


 ……

 ……

 ……

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