第394話 圧政を敷いていた王の最後

 ダイス帝国の皇帝の玉座の前で二体の魔族が会話をしている。ソフィがディアトロスに持ちかけた話は、人間の国の立て直しに尽力しようというモノだった。


「ソフィよ正気で言っているのか?」


「こやつが皇帝となってからの民たちの様子は、お前も知っているだろう?」


「それは分かるが我ら魔族が人間の為に動こうというのか? お前は間接的にとはいえ、と手を組んだ人間に、手助けをすると言っているようなものじゃぞ?」


 ディアトロスは言ってから自らの失言に気づき、片目を閉じてソフィの様子を伺う。


 ほんの一瞬だったがソフィの目つきが鋭くなり、ディアトロスを視線で射貫く。だがディアトロスは、その視線を真っ向から受けながらも視線を逸らさずに返し続けた。


「その判断を下した人間は、こうして首を落とされておる。他の人間には何にも関係はないだろう?」


 ディアトロスは静かに頷いた。


 そしてその言葉にディアトロスは、この皇帝に少なからずソフィが苛立ちを示している事を悟った。


 もしこの皇帝がロンダギルアと手を組まず、もう少し民を想う人間であったならば、今この時にでもソフィは『魂』はないと知りつつも死人を蘇生させる魔法の一つや二つは試していた事だろう。


 ディアトロスは過去にソフィと戦った経験から、ソフィの魔力や多種多様な魔法の種類を覚えている。魂がある内ならば死人を蘇らせたり、大魔王の領域に居る者を永遠に『除外』する事など造作もない事だろう。


 ――しかしそれをしないと言う事は、皇帝を生き返らせるつもりがという事に他ならなかった。


「だが、具体的にどうしろというのだ? お前が人間界の王になってワシが大臣にでもなるのか?」


 言ってから自分の発言の有り得なさに、薄く笑いを浮かべるディアトロスだったが――。


「それはいい考えだなディアトロス。よし王の方は我が選出するからお主が宰相をやれ」


「は?」


 ディアトロスは唖然としながら、ソフィの言葉に耳を傾ける。


「ちょ、ちょっと待つんじゃ! 何を勝手な事を言っておる!? 何故ワシがお前に命令されなければならぬ! ワシに命令する気ならばせめてワシと戦い、にするんじゃな!」


「よかろう。ならば何時でも我に挑むがよい。だがまずはこやつをなんとかせねばなるまい?」


 このまま皇帝を放置しておけば、人間達の混乱が起きてしまう。そう思って口にしたソフィだったが、ディアトロスは首を振る。


「その事じゃがなソフィ。皇帝をやったのは先程の人間だ。ワシら魔族が介入する問題ではないぞ」


「人間の王が同じ人間。それも自らの配下の者の手によって殺されたのか?」


 如何に暴君であったとはいってもこの仕打ちは些かやりすぎだと感じるソフィだったが、そんなソフィに『ディアトロス』は真顔で言葉を返す。


「ソフィよ。あの人間が特別ではないぞ? それはこの後の人間たちの態度を見ていれば分かる事じゃろう。お前が人間を好きだという事は承知しておるが、現実を目の当たりにしてもお主は変わらずいられるかの」


 含みのある言い方をするの言葉にソフィは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


「まぁよい。次の人間の王が誰になるかは、残された人間達が勝手に決める事だろう。今を生きる人間達であれば、誰が王となってもこの皇帝よりはマシと人間達は思うじゃろうし、放っておけばよい」


 ディアトロスはそう告げると、最後にソフィに視線を送る。


「ワシと戦うという話、忘れるでないぞ? ワシが負けた暁にはお主に従い大臣にでもなってやろう。だが、いつまでもワシが数千年前と同じ強さだとは思わぬ事じゃ。貴様を次こそ殺して見せる」


「クックック、そうか。それは楽しみだ」


 互いに視線を交わした後に、笑みを見せ合うのだった。


「それではな。ソフィ」


「ああ、それではな。ディアトロス」


 二体の大魔王はその言葉を最後に、同時にその場所から消え去った。このあと残された人間達が骸となった皇帝を発見する。


 そして当然の如く『ダイス城』の中だけでは無く、人間の大陸中が騒然となる。ある者は喜び。ある者は抱き合い。ある者は嬉し涙を流した。


 ――だが、皇帝が亡くなった事を偲ぶ者や、


 ……

 ……

 ……

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