煌聖教団誕生編

第368話 フルーフを探しにアレルバレルの世界へ

 レインドリヒに魔王軍の『軍団長』の座を託したレアは、念の為に昔からフルーフの魔王軍に居た配下の『』を使って『ヴァルテン』の動向を探らせる事にした。


「ふぅ……。私も忙しいわねぇ」


 フルーフからの命令で『リラリオ』の世界を支配してきたレアだが、今度は休む間もなく『アレルバレル』の世界へと向かう事になった。


 この『アレルバレル』という世界は『レインドリヒ』から聞いたところによると、親である『フルーフ』や、先輩の魔王である『ユファ』が向かった世界のようであるが、どうやら今度の世界は『リラリオ』とは違って相当にやばい世界であるらしく気を引き締めるレアだった。


 ――神域『時』魔法、『概念跳躍アルム・ノーティア』。


 レアの自室から放たれた『時魔法タイム・マジック』は、その効力を発揮してレアを別世界へと転移させるのだった。


 ――その世界こそは多くの『力』ある『魔族』が居る世界にして、『ソフィ』が君臨する世界であった。


 ……

 ……

 ……


「どうやら到着したようねぇ?」


 レアは『概念跳躍アルム・ノーティア』によって僅か数分の跳躍で『アレルバレル』の世界へと辿り着いた。


 辿り着いた直後にレアは辺りを必死に見回す。


 今回も周りに生物の存在はいないようであったため、ひとまずの安全確保が出来たとばかりに、レアはほっと一息をつくのだった。


 前回の『リラリオ』の世界に跳んだ時もここと同様に周りに生物の魔力は感じなかったが、その時に『漏出サーチ』で魔力を感知しようとして、龍族の『キーリ』の恐ろしい魔力を感知して慌てたレアであった。


 しかし今回そのレアは二の轍を踏む気はなかった。それもその筈、あの時とは比べ物にならない程強くなっている。


 レアは『魔力』のコントロールもさることながら、新たに『二色の併用』という技法も会得している。


 もし今回『キーリ』クラスの強さを持っている魔族を見つけたとしても、今のレアであれば十分に渡り合うことが可能だろう。


 そう考えたレアはこの世界の広範囲に『漏出サーチ』を放つのだった。


「……」


 この周囲には大きな魔力を感じられず、少しずつ範囲を広げていく。


『リラリオ』の世界でいえば『ヴェルマー』大陸分程の広さというところまで『漏出サーチ』の範囲を広げると、ようやく大きな魔力を感知することに成功するのだった。


 レアは直ぐに『漏出サーチ』を解除して、魔力感知に切り替える。


(『漏出サーチ』は魔力探知や魔力感知よりも他者を探す事に優れているが、強引に脳に魔力の情報を理解させようと働くために、自身のコントロール出来る魔力量よりも相手が大きければ、脳の限界を越えてそのまま絶命する恐れがあるため、即座に使と、判断出来ると同時にコンマ数秒という単位で『魔力コントロール』を行える技量と絶対的な自信がなければならず、その領域にはまだ『魔王』レアですら至っていないのであった)。


(※1『魔力探知』は『漏出サーチ』より劣る探知能力だが、脳にダメージを負う危険性がないため、相手を探す事が出来る便利な魔法である)


(※2『魔力感知』は『漏出サーチ』のような精密的な魔力の感知は出来ないが、脳にダメージを負う危険性がないため、相手の魔力の大きさから『戦力値の上限・下限』幅を感知する事が出来る魔法である)。


(※3更には魔力感知を戦闘中に使う事で、相手が魔法を発動するときに使う魔力を感知出来るために、戦闘の幅を広げる時に効果的となる)。 


「せ、戦力値7億!?」


 いきなりの大魔王の領域程の戦力値を感知したレアは慌てる。


 そしてこいつがどうやらこの大陸の主だろうと判断したレアだったが、その大魔王の他にもぽつぽつと魔力を感知出来た。


 ――そこでも再びレアは驚く。


「せ、戦力値6億の存在が向こうにもって……! こ、今度は8億!?」


 戦力値8億と言う数値は『リラリオ』の世界に居た、精霊王『ヴィヌ』や魔人王『シュケイン』などでさえ、比較対象にすらなり得ない程の遥かに戦力値が高い存在という事である。


「ど、どうやらヴァルテンが言っていたように、この世界は確かに並ではないようねぇ?」


 すでに最初の『漏出サーチ』で『キーリ』クラスの戦力値を持つ存在を三体も見つけたレアは、どうやらこの世界は思っていた以上に一筋縄でいきそうにないと確信するのだった。


 現在のレアの戦力値は大魔王化を果たして『』にで9億程である。


 つまり今感知が出来た魔族と数値上では同等なのだが、この感知した存在が更なる力を秘めていないとも限らない。


 通常時デフォルトの状態で8億なのだとしたら、そこからさらに戦力値が膨れ上がるために、到底油断はできない。


 『戦力値コントロール』や『魔力コントロール』などが一般的な『魔王』でさえ使える程までとなった現代では『漏出サーチ』といえども完璧に頼るという事は油断へと直結してしまうことになり、大変危険なためにあくまで相手の戦力値や魔力値の数値化が出来る『漏出サーチ』であっても、目安程度で留めておくことが必要となっているのであった。


「『隠幕ハイド・カーテン』を使って、確実に気配を消すしかないわねぇ」


(『隠幕ハイド・カーテン』はフルーフの編み出した『魔法』で、姿を戦力値ごと隠す事が可能であり、これを使えば見つかる確率を大幅に下げることができる)。


 レアはこの時点ですでに『リラリオ』に向かった時より危機感を覚えていた。確かに世界が変われば常識は通用しないとフルーフに教えられてはいたが、ここまで常識外な事があり得ようか? これではあまりにも自分の世界が、如何に小さな世界だったかと思い知らされるようであった。


 溜息を吐きながらレアは『隠幕ハイド・カーテン』を展開して、空を飛んで感知した大きな力を持つ者の所へ向かうのだった。


 …………


 大きな戦力値を持つ大魔王達に『隠幕ハイド・カーテン』を使って、潜伏することに成功した『魔王』レア。


 それでも彼女は、ある程度離れた場所から様子を眺める。


「――なの……か?」


「―――のようですね」


「―――か……」


「そのほうが――……しょう」


 しかしどうやらレアが居る場所から余りに離れすぎたようで、ここまでは話している内容までは聞こえてこなかった。


 レアは仕方なく話している者達の顔と戦力値を覚えようとする。


(どいつが一番強いのかしらぁ……?)


 レアはフルーフを追い詰めたものさえ殺せればいいため、フルーフに勝てそうな者を対象に絞ろうとする。


 最初に遠くから『漏出サーチ』した時の三体は、確かに大きな力を持っていたが、レアはここにきたことで、その中心にもう一体魔族が居る事を発見した。


(あの若い。一番弱そうなのになんであのの中心にいるのかしら?)


 四体居る魔族の中でその一番弱そうな奴が喋ると、周りが敬語を使って返事をしていた。


(まどろっこしいわねぇ……)


 レアは胸中でそう呟くともう少しだけ詳しい情報を得ようと、レアは魔力感知を使おうとする。


(これだけ離れていて更に『隠幕ハイド・カーテン』も使っている以上は、こちらの動向は隠せるわよねぇ?)


 そしてレアの目が『金色』になり、三体の大魔王達の『魔力』を更に詳しく探り始めるのだった。


 ――しかし。


「!」


「!」


「!」


「ほう……?」


 しかしその四体の魔族達は、その『魔力感知』をめざとく見つけたかと思えば、一斉にレアの居る場所を正確に向き直るのだった。


「!?」


 一瞬でレアはその場から『高速転移』を使って、この世界へ来た時の場所へ向かう。まだ何も彼らの魔力を測れてはいなかったが、あの場所にあのまま居ればまずかった。


 ――レアは明確な殺意を一瞬で感じ取り、本能で逃げる事を選択したのだった。


「……ハァッ、ハァッ……、ハァッ……、ハァッ……!」


(な、な、何なのよ!! あいつら普通じゃないわぁ!)


 レアは少ない情報量しか得ることが出来なかったが、あの四体の魔族は表示上の数値など全くアテにならないことを理解した。


 戦力値通りの実力であれば、今のレアであれば彼らを倒せる筈だった。


 しかし周りの連中もヤバいと感じるところではあったが、一番やばいのはその中心に居た奴であった。


 レアが最初に疑問に思った魔族で、一番弱そうだと判断していたあの魔族のことである。


 その魔族の目を見た時にレアはその明確な殺意に身体が総毛立って、首を刎ねられる姿を想像させられたのであった。


 どうやらこの世界の内情を詳しく知るところから始めなければ、下手な行動一つで命を失いかねないと判断して、慎重な行動を試みる事にするのだった。


 …………


「ソフィ様。今こちらを探っていた者を追いかけますか?」


 大刀を背負う大柄の男が大きなローブに身を包んだ小柄な青年の魔族にそう尋ねるのだった。


「ふむ。その必要はないなイリーガル。もうすぐユファが元の世界へ戻る大事な時期だ。これ以上は出来るだけ面倒ごとは避けておきたいところだしな」


 小柄で若い魔族がそう言うと『イリーガル』と呼ばれた大刀を背負う男は、首を縦に振って納得した。


「しかしソフィよ。今潜んでいた者は我らにさえ、魔力の残滓を感知させない程の実力者だった。もしかすると数年前に消えた『フルーフ』を知る者かもしれぬぞ」


「おお……! ディアトロス殿。そうだとすれば攫って吐かせて破壊してしまいましょう!」


 ソフィにそう進言した男は見た目はそこそこに、年を取っており老人と呼んでも差支えがない男だった。


 そしてその老人を『ディアトロス』と呼んだ若い魔族は目をむき出しにしていて、少々危ない感じを見せるのだった。


「いや、それはないだろう。もしそうであればこのタイミングを狙う理由がわからぬし、身を隠して居った奴のは大したことは無かった。探れなかったのは、何か違う理由だと我の勘が言っておる。単にそういう姿を消す『マジックアイテム』や『魔法』といったような理由だ。さぁ、そんなことよりもう魔王城へ戻るぞ。ユファが待っておるのでな」


「御意」


「御意」


「……御意」


 この場に居るソフィ以外の魔族達は、元々大魔王として大きな野心を持っていた。そして紛う事なく、それぞれが世界を束ねる力を持つ者達である。


 しかしこの中で一番小柄で全身を覆う程のローブに身を包んだ青年が、現在の彼らの行動を左右する全ての決定権を握っていた。


 その見た目が若い青年の名は『ソフィ』といった。


 ――この『アレルバレル』ので恐れられている『』であった。

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