第367話 レアから直接任命された大魔王

 レアはヴァルテンを正式に配下にした後、そのまま魔術師『レインドリヒ』を自室へと呼び出す事にした。


 元々レインドリヒはヴァルテンに操られていたワケでもなく、レアがこの魔王軍を束ねる者となると決めた時も特に反対はしなかった。


 そんなレインドリヒだが、実際にはどういう考えを抱いているのかを問いただす目的もあり、レアはレインドリヒに『念話テレパシー』を送るのだった。


(レインドリヒちゃん? 悪いんだけど、今すぐに私の部屋に来て欲しいのだけどぉ)


(レアか。ああ、構わないぞ)


 あっさりとしたレインドリヒからの返事だが、断らないというのなら話は早い。そのままレアはベッドの上でだらーんと足を伸ばしながら、レインドリヒを待つことにした。


 控えめなノックの後、レインドリヒがレアに声をかける。


「はーい、どうぞー」


 レアの許しを得たレインドリヒは扉を開けて、レアの部屋の中へ入って来るのだった。


「よく来てくれたわねぇ、レインドリヒちゃん。まあ適当に座って座って」


「ああ……」


 レアが勢いよくベッドから起き上がると、レインドリヒを椅子に座らせる。


「こうやって話すのも久しぶりねぇ?」


 ニコニコと笑顔を浮かべながら、レインドリヒに話しかける。どうやらレアはかなり上機嫌なようだった。


「そうだな。しかし驚く程にお前は強くなっていたな。まさかたった数年でここまで変わるとは思わなかった……」


 レインドリヒに褒められて更にレアは上機嫌になっていく。


「魔術師レインドリヒ隊長殿に、そこまで褒められるといい気分よぉ?」


 異名の名前で呼ばれたレインドリヒは苦笑いを浮かべる。


「お前の跳んだ世界はどうだった? お前がそこまで強くなったのをみると、どうやらかなり手強い世界だったようだな?」


 レアはリラリオの世界の龍族の王『キーリ』を思い浮かべながら、こくりと頷いた。


「こんな時でもなかったら、貴方に私の積る十年の話を聞いてもらいたかったのだけどねぇ……」


 更に言えば『レインドリヒ』だけではなく『先輩ユファ』や、それこそ父親フルーフに聞いてもらいたい話であった。


 ――しかし今はそれを必死に堪えてレアは、レインドリヒを呼び出した理由を話し始める。


「単刀直入に聞くわねぇ? 私がこの世界を去った後に何があったのかしら」


 テーブルの上に置いてあるカップに紅茶を自分で注ぎながら、視線をレインドリヒに送る。


「最初から話すとなると、少しばかり時間を要するが構わないか?」


 レアはレインドリヒの前にカップを差し出した。


 レアから渡された紅茶のポットを手にして、差し出されたカップに自分用の紅茶を注ぐレインドリヒ。


 どうやら差し出されたカップの意味は、というレアの意思表示なのだと察して話を続ける。


「お前が『概念跳躍アルム・ノーティア』に成功して別世界へ跳んだことで、フルーフ様は甚くお喜びになった。そしてあのお方もお前が跳んだ数日後に『概念跳躍アルム・ノーティア』で別世界へと向かわれたのだ」


 紅茶をすすりながらレアは、レインドリヒの話にふむふむと頷く。


「私とユファに三年で戻ってくるとだけ告げられたのだが、その期日が過ぎても全く音沙汰がなくてな。それで何かあったのかと心配になり始めた頃に今度はユファが『概念跳躍アルム・ノーティア』の魔法の『ことわり』を会得に至って、今度はユファがフルーフ様の魔力を頼りに『アレルバレル』という世界へフルーフ様を探しに向かったのだ」


 ユファがこの世界に居なかった理由は何となく検討がついていたレアだが、こうしてレインドリヒに真実を伝えられて、ようやくを理解できたレアであった。


先輩ユファも『概念跳躍アルム・ノーティア』をねぇ? まぁ私より元々魔力が高かったのだから『ことわり』を理解出来たというのであれば、彼女にも当然その資格はあるか」


 少し温くなった紅茶を飲み干して、レインドリヒの前に置いてあるポットに手を伸ばす。


 そっとそのポットをレインドリヒが掴むと、空になったレアのカップに注いでくれた。


 ――レアはニコリと笑って、可愛らしく顔を傾げる。


 レインドリヒに入れてもらった紅茶を一口含んだ後、レアは右目を閉じて『レインドリヒ』に話の続きを促す。


「だが結局ユファも戻ってこないままだったが、数年前にその『アレルバレル』の世界から、一体の魔族が現れた」


 そこで上機嫌な表情を浮かべていたレアの顔が唐突に曇った。


「それが、ヴァルテンとかいう魔族だったのね?」


 レインドリヒはレアの視線を受けてこくりと頷いてみせる。


「あとはお前が聞いた通りの内容を俺も聞かされたのだ。フルーフ様に後を託されたヴァルテンがこの世界を預かり、いずれ戦力を整えて、再びアレルバレルの世界へフルーフ様を助けに行くと言っていた」


 レアはレインドリヒの言葉を疑いはしないが、このヴァルテンの話は信用出来ないレアだった。


 全部が嘘ではないのかもしれないが、七割程は嘘で少しだけ真実を混ぜているような、そんな印象であった。


 レインドリヒも全てを信用しているわけではないというのは、こうして面を向かい合わせてお茶を呑んでいればレアにも伝わってくるが、彼はどうやらまだ『概念跳躍アルム・ノーティア』の『ことわり』を理解しておらず、探しに別世界へ行くという行動を取る事も出来ないために、黙って信用出来ない話をこの時まで信じざるを得なかったということだろう。


 レアという『概念跳躍アルム・ノーティア』を使える魔族が戻って来たことで、ようやく話が前に進んだと言った様子が彼女にも伝わってくるのだった。


「やっぱり一度、私が『アレルバレル』の世界とやらに向かわないといけないわねぇ」


 そう言うとレインドリヒは『やっぱりそうなるか』とばかりに溜息を零すのだった。


「私としてはこれ以上、あの世界アレルバレルへ同胞に行って欲しくはないのだがな」


 フルーフやユファが向かったアレルバレルの世界からは、未だに誰も戻っては来ていない。


 レインドリヒはレアやユファというこの世界の魔族の同胞は、出来れば死んでほしくないという、願望を持っているようだった。


「あら……? 私を心配してくれているのかしらぁ?」


 いたずらにウインクをしながらレアは、からかい半分でレインドリヒにそう告げる。


「ああ、お前はだからな」


 しかしからかうつもりだったレアは、レインドリヒに真っ向から正直な言葉を言われてテレてしまい慌てて視線を逸らすのだった。


 何より今のレアは『リラリオ』の同胞を失っており、フルーフに会えずじまいのために、相当に家族愛に飢えているのであった。


「全く! これだから『魔術師』レインドリヒちゃんは信用できないのよぉ!」


 レインドリヒはそんな風に顔を真っ赤にしているレアを小さく笑いながら、紅茶を胃に流し込んでいくのだった。


「まぁ、事情は理解したわぁ」


 そう言うとレアは椅子から立ち上がる。


「レインドリヒちゃん。今は私がフルーフ様の代わりにこの世界の王となった……」


 突然真顔になりながら、レアはレインドリヒを見る。


「ああ、分かっている。それに我ら魔王軍の指揮官もお前だよ」


「……うん。その私が貴方に命令する。私が戻ってくるまで、この世界と魔王軍を貴方が守りなさい? 貴方にの役職と、


 ――その言葉にレインドリヒは驚く。


「この私を信用するというのか?」


 その言葉に間髪入れずにレアは答える。


「いーやぁ? 私は誰も信用しないわよぉ? フルーフ様が貴方を信用したから仕方なくよぉ」


 そう言ってレアは、いつものように十年ぶりにケタケタと笑い始めた。


 レアの言葉に苦笑いを浮かべながらも、レアの真意に気づいているレインドリヒは大きく頷いた。


「間違っても今度こそあの『ヴァルテン』とかいう魔族に、にさせちゃだめよ」


 どうやら今度は冗談ではなく、本心で言っているのだと理解して彼は大きく頷くのだった。


「軍団長の役職。しかと拝命しましたレア様。貴方に従います」


 そう言って床に片膝をついてこの世界の格式上の礼をとる『』レインドリヒだった。


「しっかりと頼んだわよ、


「はっ!」


 これまでのようにからかうような言葉遣いをせず、しっかりとレインドリヒを見据えながらレアは『レパート』の世界の行く末を彼に任せるのであった。

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