第229話 ラルグの王

 ラルグの塔の最上階にある部屋にソフィが入ると、数十体の魔族が一斉にソフィに敬礼をし始めた。


 当初ソフィが使者としてきた時は、ラルグの代表であったレヴトンとごく少数の側近だけだったが、今ここにいるのはミールガルド大陸に向かった『ラルグ』魔国兵以外の主だった者達が、集められているようだった。


「お待ちしていましたよ、ソフィさん!」


 現在のラルグ魔国の代表の座に居る魔族『レヴトン』が声を掛けてきた。


 それを見たユファが、ソフィを守るように一歩前に出る。


 彼女は『代替身体だいたいしんたい』を用いてヴェルトマーとして活動を行っていた時代に『レイズ』魔国のフィクスだった。


 つまりラルグ魔国の気性の荒さを知っている為に、近づけばレヴトンが何かをしてくるかもしれないという判断であった。


 ソフィはそんなユファに視線で下がらせた後にレヴトンに口を開いた。


「この前に来た時より人数が多いが、何かあったのかな?」


 レヴトンは立っているソフィ達をまず椅子へ座るように促す。そして全員が着席した事を確認してから再びレヴトンが口を開いた。


「ソフィさんが戦い始めてから恐ろしい程の魔力を感じまして、失礼を承知で魔力感知で貴方の魔力を探らせていただきましたが……いやはや、驚きを通り越して私は非常に感服致しました!」


 ラルグの魔族は強者を好み惹かれ憧れる性質を持つ。それが同じ種族である魔族であれば尚更である。


「冒険者ギルドの件は是非とも協力させて頂きたいと思っておりますが、それとは別に我々も貴方にひとつお願いがあるのです……」


 そう言うとレヴトンは、隣にいる部下のゲバドンと顔を見合わせて頷く。


「ソフィさん、いえソフィ様! 我々『ラルグ』魔国の王になって頂けないでしょうか!」


 唐突なレヴトンからの申し出にその場に居たソフィやユファ達は驚く。


「何だと……?」


 それまで黙っていた『エルザ』が慌てて口を開く。


「待て! さっきまでお前たちが申していたのはレイズと同盟を結びたいという事だったではないか! 何を勝手な事を申している!」


 エルザの言葉に同意するようにゲバドンは頷く。


「そうですよエルザ殿。そして出来る事ならばソフィ様が我々ラルグ魔国の王となって頂き、その後にレイズ魔国のシス女王と同盟を結んで頂ければと、そう考えておるのです」


「シーマ様が戦争で亡くなったことで、現在ラルグ魔国で一番力がある者が私です。一時的に国を預かるだけであればいくらでも身を粉にする覚悟がありますが、それが国を統治するとなれば話は別です。そこで同じ魔族であり最も力がある貴方に、王になって頂きたいのです」


 ゲバドンの言葉を補足するように口を開いたレヴトンが、懇願するようにソフィに言うのだった。


「お主たちの王であった『シーマ』とやらを亡き者にしたのは我だぞ?」


 ソフィがそう言うと『レヴトン』は間髪入れずに述べる。


「ラルグ魔国は実力主義の国です。人間たちとは違い、我々魔族は強き者に従い尽くす。そうやって歴史の糸を紡いできました。どうかご検討頂けませんか? 魔族ソフィ様」


 ラルグの王シーマを倒した者と知った上で、レイズの使者であるソフィに自国の王に推す。


 それは人間たちの常識では考えられない事だが、ヴェルマー大陸のラルグ魔国の魔族たちは、何もおかしい事はないとソフィの返事を待つのであった。


 ソフィは過去のアレルバレルの事や、ミールガルド大陸のケビン王の言葉を思い出しながら思案する。そしてソフィは口を開いた。


「条件付きで良いなら構わぬぞ」


 ソフィがそう言うとレヴトン達は、嬉しそうな表情になりながらソフィの言葉に耳を傾ける。


「我はこの世界の者ではない故に、いつかはこの世界から唐突に居なくなるかもしれぬ。その時にこの国の王となるべき者をこちらで決めて良いのであれば、我はお主の言う通りにラルグ魔国の王となろう」


 ソフィがこの『世界』の者ではないという言葉は、レヴトン達に決して少なくはない驚きを抱かせた。


 しかしそれ以上にソフィの強さに魅了された魔族達は、そのソフィの提案に対してという結論に至るのであった。


「分かりました。それではこの国は全面的にソフィ様にお任せ致します」


 レヴトンは言葉の後にその場でソフィに忠誠を尽くす礼を取る。


 そして後ろに並んでいるラルグの主だった者達もレヴトンと同じように跪くのだった。


「では条件だが『レルバノン』をこの国のNo.2と認める事。そして我がこの『世界』を離れる事になった暁にはレルバノンを。そしてここにいるシスの治めるレイズ魔国と、ターティス大陸を治めるキーリと永き同盟を結ぶと約束するのであれば、我が


「仰せのままに、我が王」


「「仰せのままに!」」


 こうしてレイズ魔国の使者としてこの国にきたソフィは、ラルグ魔国の『王』となるであった。


 そしてそれまでじっと聞いていたキーリが呟く。



「何か言ったか?」


 ソフィがそう言うとキーリは引きつった笑みを浮かべながら、慌ててと口にするのであった。

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