第223話 迫りくる大魔王

 ユファとシスはまだ意識が戻らず『ターティス』大陸の結界が施された部屋で、縛られながら寝かされていた。


「ふーむ……。これだけの強さを持っているなら、俺が見た事がないワケがないんだがな」


 部屋にある椅子の上で胡坐をかきながら、キーリはユファの寝顔を眺めながらそう言った。


「こいつらも違う世界から来たのか? しかしヴェルマー大陸に居た魔族ならこの世界の住人だよなぁ」


 ユファが『ヴェルトマー』としてこの世界に来た時には、すでに入れ替わるように同じ世界に来ていたレアに『ターティス』大陸ごとキーリ達龍族は封印されていた為に、ユファの存在を知らないキーリだった。


 キーリがこの世界の王として君臨するようになった時代、その頃の代表的な魔族といえば『セレスの』母親である『エリス』女王。


 そしてその頃はまだ、今程に『レイズ』魔国も大国とは呼べず、当時のヴェルマー大陸の代表的な魔国そして魔族といえばやはり、その頃から強い力を持つ魔族が多く居た『ラルグ』魔国であった。


 しかしその時の王でさえも戦力値は2000万にも満たない『最上位魔族』がトップであり、魔王階級クラス等と呼ぶ領域に立っている魔族の存在など皆無であった筈だ。


 むしろヴェルマー大陸など、当時の強者たちの間では話にも上がらず、唯一キーリが気にしていた種族といえば『ディアミール大陸』に住んでいた魔人達であった。


 当時のリラリオに居た『魔人』達は力がとても強く、種族で言えば魔族など全く相手にもならなかった。


 ヴェルマー大陸の魔族達の障壁や結界など、持ち前の力でごり押しして破壊する程であった為『ディアミール』の魔人達が行く行くは我ら『ターティス』大陸と正面きって、戦争を仕掛けてくるだろうとキーリは常々思っていた程である。


 しかしそんな時に魔族の王となるレアが『ヴェルマー』大陸に転移してきたのである。


 ――それからは一瞬だった。


 ほんの数十年、いや数年程で『ヴェルマー』大陸は他の大陸の種族達が目を離せない程の大陸となった。


 旨味があると見た『ディアミール大陸』の魔人達は『ヴェルマー』大陸に戦争を仕掛けたが、あの『魔王』レアにあっさりと皆殺しにされた。


 それもこの『リラリオ』にある全大陸に生息する種族に見せびらかすように、魔法で大空に映像を映しながら処刑をしてみせたのだ。


 逃げ惑う魔人達を一体も残らず『魔王』は追いかけまわし、笑みを浮かべながら凄惨に本当に惨たらしく一体一体確実に首を刎ねていった。


 それも姿でだ。


 ――あの映像を見た、世界中の大陸に居る種族達がショックを受けた。


 そして次は我が身だと懸念を抱いた各大陸の種族の王達は『ヴェルマー』大陸の魔族達が、更なる力を得る前に滅ぼそうと、戦争を次々と起こしていったが、ほぼレア一人で全ての敵対する種族の襲撃を制圧して見せたのであった。


 …………


 ユファの顔を見ながら、かつての『リラリオ』の過去を思い耽っていたキーリは、そこで大きな魔力を感じて我に返る。


「な、なんだこの魔力は!?」


 椅子がひっくり返る程の勢いで立ち上がったキーリの元に『ミルフェン』といった、キーリの側近の龍族達が駆け込んできた。


「き、キーリ様! ターティスに張ってある結界が破られました」


 キーリは驚愕に目を丸くする。


 現在ターティス大陸を覆っている結界は、ユファが張っているような攻撃を無効化するような代物ではないが『魔人』の力でさえ、破るには数日を要する程の強い『結界』が張ってある。


 僅か数秒で破られる程、そんな脆い『結界』ではない筈だった。


「こ、この魔力の持ち主が破壊したのか? お前たち急いで全龍族を集めろ!」


「わ、分かりました!」


 慌てて側近の龍族は部屋を出ていった。


「次から次へと、一体何だと言うんだよ……?」


 キーリは苦虫を噛み潰した表情を浮かべながら、横で寝かされているユファ達に視線を送るのだった。


 ……

 ……

 ……


 ソフィはユファ達の魔力を追って遂に『ターティス』大陸の上空へ到達する。


 そしてソフィは纏っているオーラを手に集約させると大陸に手を翳す。


「大陸ごと沈めるのは、ユファたちの身柄を得てからだな」


 『ターティス』大陸に張ってある結界を感じ取ったソフィは、魔力を込めた指で横にスライドさせてみせる。


 パリパリと音を立てて『結界』はゆっくりと破壊される。


「この『結界』を壊せば誰かが直ぐに気づくだろう」


 そう言ってソフィは『ターティス大』陸上空で腕を組みながら経過を見守る。


 すると思った通り、複数の影が大陸から飛び上がってきた。


「小僧、お前が我らの大陸の結界を破壊したのか?」


 龍族の一体がソフィに話しかける。


 ソフィは無言でその龍を見ていたが、あえてそのまま無視を続ける。


「聞いているのかっ! こ、この……!」


 キーリの配下の龍がソフィに近づこうとした瞬間、ソフィの目が『金色』に光り始める。


 すると龍の胴体が二つにちぎれて絶命した――。


「「!?」」


 周りの龍達は驚きで目を見開きながら、ざわざわと騒ぎ立て始めた。


「お主ら、死にたくなければユファ達を攫った者を我の前に連れてこい」


 ソフィはゆっくりと視線を動かしながら、彼を囲むように空を浮いている龍族達にそう告げた。


 直後に始祖龍キーリの側近である『レキオン』と『ミルフェン』がソフィの前の現れた。


「わ、我らの同胞が一撃か……」


 龍族の固い皮膚を悠々と貫いていった魔力に眉を寄せてそう言った。


「ミルフェン。奴の纏うオーラの魔力を見れば分かるだろう? ただの『魔族』ではなく、レア階級クラスの『魔王』と見るが、お前はどう見る?」


 レキオンがそう言うとミルフェンが口を開く前に、別の場所から声が聞こえた。


「また『大魔王』様のご登場か? 本当にこの時代はどうなっていやがる」


 いつの間に横にいたのかキーリがレキオンの隣に現れていた。そしてレキオンは驚きながら声を出す。


「し、始祖様!」


 ソフィはちらりとキーリを見るが、数多く居る龍族の中で一番幼そうに見えるキーリが一番強いと瞬時に見抜くのだった。


「お主が、ユファ達を襲ったのか?」


 ソフィは確信を持ちながらもそう告げるとキーリは、ガシガシと頭を掻きながら溜息を吐いた。


「ああ。お前と同じ魔族の馬鹿に命令されたんでな、俺がお前らの国を攻めてやったのさ」


 キーリがそう言うと、ソフィは静かに呟いた。


「そうかそうか。


 そう言うとソフィの魔力が高まりを見せ始めて、遂にはソフィの口からキーリ達を破滅へ導く詠唱が開始される。


「『無限の空間、無限の時間、無限の理に住みし魔神よ。悠久の時を経て、契約者たる大魔王の声に応じよ、我が名はソフィ』」。


 ……

 ……

 ……

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