第222話 逆鱗、再び

 ソフィはゆっくりと立ち上がると、呆気にとられていたリーゼ達に口を開いた。


「ここで起きた事の事情は理解した。我はシスとユファを連れて戻って来るとしよう。お主達はすまぬが意識を失っておる我の配下達の面倒を見てやってくれぬか?」


 ソフィがそう言うとオーラの圧にあてられていたリーゼが、レドリアより先に我に返ってソフィに口を開いた。


「あ、ああ……、わ、分かった! 任せて欲しい」


 レドリアはまだ呆気に取られ目を丸くしながら、ソフィを視線で追い続けて静かに震えている。


 事前にシス女王や彼女レドリアの信頼しているユファが、ソフィの事をレドリアに説明はしていたが、どうやらレドリアはそれでも、この目の前に居るソ


 ソフィの強さを疑っていたわけではないが、あくまでも見た目が自分よりも子供だという事もあって、この瞬間まではこれ程までに凄まじいとは予想していなかったのである。


(こ、怖い……ッ! こ、こんな……! これがソフィ様の本当の実力なの!?)


 ソフィはリーゼ達に告げた後にレイズ城を出ると、ベア達の居る拠点へと赴いた。


 その拠点で『ベア』や『ラルフ』それにソフィの多くの配下達を看病していた『リーネ』や『スイレン』達にソフィは声を掛けるのだった。


「我はシスとユファを取り戻してくる。もし我がまたいない間に何者かが来た時は、交戦せずに直ぐリーゼに伝えて我に伝えるように言うてくれ」


「分かったわ。シスをお願いねソフィ?」


 シスたちの事を考えて泣いていたのだろう。リーネの目には涙の後が見えた。


 そしてソフィはスイレンの顔を見て、互いに頷き合うとそのまま拠点を出ていった。


「さてと……。まずはエルザに事情を説明せねばな」


 そう言うとエルザに『念話テレパシー』で事の経緯を話し始めるソフィであった。


 ……

 ……

 ……


 意識を失っているユファとシスを背に乗せたまま、全身が真っ白の身体をしている始祖龍キーリは、ヴェルマー大陸から空を飛翔し続けていたが、遂に自分達の大陸である『ターティス』大陸へ辿り着いた。


 配下の龍族達がキーリの魔力を感知すると、すぐに全員が集まってくる。


「「お帰りなさい! お疲れ様でした!」」


 ディラルクは別室で今もまだ意識を失ってはいるが、レキオンを含めた他の側近達は全員が集まっていた。


「どうやら出撃はせずにすんだみたいですね」


 レキオンがそう言うと、キーリは片目を閉じたまま薄く笑った。


「ああ『魔王』レアがくるまで、こいつらを


 キーリはレキオン達にそう告げると、その場にドサリと『ユファ』と『シス』を無造作に投げ捨てた。


「一応魔法で手足を縛っておきますが、コイツユファには意味がないかもしれませんよ?」


 レキオンが意識を失っている目の前の大魔王ユファ』を見ながらそう言った。


「ああ、気にするな。もうそいつにはほとんど魔力は残っていない。最低でも数日はあれほどの魔力は使えない筈だ」


 キーリは一度だけユファを見たが、もう興味が失せたようで『レキオン』にそう吐き捨てた。


「貴方がそう言うのでしたら……。分かりました」


 レキオンはキーリに頷くと直ぐに他の龍族の者を呼ぶ。


「おい! こいつらを結界を施した部屋へ連れていけ」


 『了解しました!』


 レキオンの命令で数体の龍族達がユファ達を連れて行くのだった。


「しかし久しぶりに復活を果たして戦ってみた感想だが、確かに奴ら魔族共は強くなっていたな」


 キーリの言葉にレキオンは頷く。


「始祖様が居なければ、我々はやられていましたからね。こんな力を有する魔族がいるとは……」


 キーリたちの言葉を聞いていた『ミルフェン』が驚いた声をあげた。


「まさかレキオン、お前がやられたのか?」


 同じキーリの側近であるミルフェンだが、レキオンの戦力値には到底及ばない。


 それは側近の中で一番の古参である『ディラルク』でさえもである。


 そのレキオンが敗れたと聞かされれば、驚くのも当然だろう。


「かつてのレア達の居た時代の他の魔族とは比較にもならなかったな。他にも魔族達が新たに生み出したとみられる魔物達も相当に強い部類だった。あの女が使役したのか『名付けネームド』とやらを行ったのかまでは分からねぇが、まぁあの


 キーリがレキオンをフォローするようにそう言うと、ミルフェンはまたもや驚くのであった。


「だが、その魔王も我ら龍族に屈したのだ。時間は掛かったが我々龍族の時代の再来の時だ」


 龍族の王であるキーリがそう言うと『ミルフェン』やその場にいる龍族達が、喝采するように声をあげた。


 ――しかしこの時のキーリ達は、出来ていないだろう。


 このリラリオの世界で、が、もうすぐそこまで近づいているという事を。


 ……

 ……

 ……


 ラルグ魔国にある塔に戻ったソフィはエルザに説明を終えた後に、再び外へ出て深呼吸をする。


 事情を理解したエルザは快く送り出してくれたが、ソフィは内心でエルザに感謝をしていた。


 レイズ魔国に戻る為に唐突に抜け出したソフィの所為で、場は混乱していた事だろう。


 しかしそれをエルザが纏めてくれていた事で、話し合いはすんなりと進める事が出来たのである。


「やはりエルザは今後のラルグ魔国に必要な存在だな。相当に頼りになる者だ」


 エルザの有能さを再確認したソフィだが、そこでを切り替える。


 そして誰も居ない場所で、ぽつりと呟くのだった――。


 ――をしてくれたな……。


 『大魔王』の領域にいるユファを倒す程となるとそれは相当な強さなのだろう。しかしソフィにはそんな事は関係がない。


 たとえ世界を束ねる龍族が相手であろうと、大魔王の領域を越えている相手が星の数ほど待っていようと、ソフィの仲間を傷つけた者には平等にが待っている。


 ソフィはその力を以て、敵を排除しなければならない。


「行くか……」


 そう言うとソフィの目は『金色』になる。


 ――次の瞬間、大地を揺るがす程の魔力をソフィは放出する。


 、そして更に光り輝く『金色』の三色のオーラが、ソフィの身体の周囲に体現されると、一瞬でレイズ魔国領の上空へ舞い上がり、そして恐ろしい速度でユファの魔力を頼りに飛んで行くのだった。


 …………


「遂に動いたか、大魔王ソフィ!」


 そう言うと『魔王』レアは、ターティス大陸のある方角に視線を向ける。


 キーリの龍の形態が全ての力だと思い込んでいたレアは、隠されていたキーリの力を知って好都合だと笑みを漏らした。


 戦力値10億を越えていたキーリの力であれば、ソフィの力を測るには十分だとレアは感じたからである。


 『大魔王』フルーフは三千年前の時点で、すでにこの『リラリオ』の世界の全生物の戦力値を越えている。


 それは『魔王』レア自体がこの世界を支配出来ていた事で証明されている。


 現在のレアでさえ『真の力』を開放してもまだまだ主の戦力値には遠く及ばない。


 つまりソフィという大魔王が、最低でもキーリを倒せなければ『フルーフ』という『大魔王』を倒すのは不可能なのである。


 フルーフのあの壊された姿を思い出したレアは、唇を噛み締めて怒りを露わにする。


 幼い姿をしたレアだが、その内包されている主への思いは相当に大きいのだった。

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