第217話 ナンバーズ

 ラルグ魔国領に入ったソフィとエルザは本国に連なる拠点へ到着した。本国にある拠点という事で、やはりラルグの魔族が多く居るようだ。


 突然空から降ってきたソフィ達を拠点にいる魔族達は訝し気に見ていた。物珍しそうにソフィが周囲を見ていると、一体の女性の魔族が話しかけてきた。


「お前達は見た事がないが、どこの部隊の者達だ?」


 どう見てもラルグ魔国軍ではないだろうと女性の魔族は思ってはいるが、一応は他の者達が見ている手前、優しくそう声をかけてくれたのだった。


「我達は『レイズ』魔国から来た使者なのだが、すまぬがお主『レヴトン』という者に会わせてはもらえないだろうか?」


 ソフィがそう言うと、女性の魔族はきょとんとした表情を浮かべた。


「この子は一体何を世迷言を……。レイズ魔国はもう滅びた筈だが、使者だと……?」


 ブツブツと独り言を言っていたが女性は意識を戻すと、ひとまずはソフィ達を奥へ案内してくれた。


 一際大きなテントの中に鎮座する男は入ってきたソフィ達に一瞥した後、連れてきた女性の魔族の顔を窺う。


「曹長。この子達は『レイズ』魔国の使者らしいんだ。それでレヴトン様にお会いしたいってさ。どうしたらいいかな?」


 この女性の魔族はこの男の配下のようだが、上官に対してにしてはえらくフランクな接し方であった。


「は? レイズ魔国だぁ? 冗談を言うなよあの国はもう滅びた筈だ」


 曹長と呼ばれた男は、女性の魔族が呟いていた独り言と同じ言葉を告げるのだった。


「冗談だと思うのならば、一度自分の目で確かめて見るがよい」


 堂々とした態度の子供の姿のソフィの言葉に、曹長と呼ばれた男は悩むような声をあげた。


「分かった。ひとまず君が『レイズ』魔国の使者だという事は認めよう。それでレヴトン殿に会いたい理由は何だ? 『レイズ』魔国が復活したという事を伝えたいのか?」


 そんな事を告げたからと言って何の意味もないだろうと思いながらも、他に何も思い浮かばなかった曹長はソフィにそう言うと、ソフィは否定を示すかの如く首を振った。


「お主が現在のラルグ魔国を管理している男に通達できる立場であるなら、お主達の国の王シーマとやらがを伝えて欲しいと思ってな。そしてミールガルド大陸を攻めてきた責任を取ってもらって、現在のヴェルマー大陸の支配権を白紙に戻してもらいたいのだ」


「は?」


 ソフィの言葉を聞いた目の前に居る二体の魔族は、驚いているというよりも何処か可哀想な者を見るような目をしながら、曹長と女性の魔族が互いの顔を見て苦笑いを浮かべるのだった。


「坊や? 流石にここではそんな冗談は言わないほうがいいわよ?」


「ああ。ラルグ魔国に攻め滅ぼされて悔しくて何かしたいと考えたのだろうが、ここでは冗談が通じない者も多い。俺達なら笑って許してやれるが、荒くれている連中に同じ言葉を言えば、下手したら殺されても文句は言えないんだぞ?」


 そして全く信用をしてもらえずに、目の前の二人は揃ってさとしてくる。


 そしてソフィはこのラルグ魔国に所属する魔族達の態度から、そこまで悪い連中ばかりでもないのだなと内心でそういう印象を受けるのだった。


 しかしそんな事を考えていたソフィだが、このままでは冗談を言いに来たと思われてそれで話を打ち切られてしまうと考えた。


 そしてどうしたものかとソフィが腕を組んで考えていると、そのソフィの隣に立っていたエルザが口を開いた。


「お前達ソフィの言っている事は全く冗談ではないぞ? シーマやゴルガー達がこの大陸へ戻って来ない事にお前達は少しも疑いを持たなかったのか? お前達もラルグの魔族であれば力こそが全てだという事は理解しているだろう?」


「いやだから……、いい加減にしっ……!?」


 そこまで話したエルザを見て、軍曹は少しきつめに説教をしようと口を開きかけたが、そこで今更ながらの存在を明確に気づいたようだった。


「お、お前は……!? い、いや貴方はもしや、も、もしかして……、のエルザ様……ですか?」


 元ラルグ魔国No.2『レルバノン・フィクス』が選んだ数体の魔族で構成されていて、その優秀な者達は『』と呼ばれていた。


 前時代では全『ラルグ』魔国の魔族を含めても『王』の下、支配階級である『フィクス』『ビデス』『クーティア』『トールス』『ディルグ』の次に、レルバノンの直属の配下である『ナンバーズ』がラルグ魔国で優先的に序列に入っていた。


 そしてそのナンバーズの中でも特に『エルザ』は恐れられていた。


 上位魔族にしてすでに才能を開花していて、魔瞳『紅い目スカーレット・アイ』に目覚めて自身の身体よりも大きい大刀を武器としており、レルバノンの背中を守り敵対する者を処刑する。


 それが才に溢れた若き『エルザ』だった。


 ――現『ラルグ』魔国軍のいち拠点の軍曹と、元『ナンバーズ』。


 果たしてどちらが戦力値が上なのかそれは当人である軍曹が一番理解していた。ここで彼が適当な態度をとる事で、下手にエルザを怒らせた場合に待つのは死である。


 部下の女性の魔族『リーチェ』は、最近ラルグ魔国の軍隊に入れられた別の国の魔族であり、数年前にこの国から追放された『レルバノン』の名前くらいは理解はしているだろうが、そのレルバノンの部下であった『ナンバーズ』の事などは知りもしないだろう。


 しかしむしろその無知を今は羨ましいと、ここの拠点で一番偉い立場に居る軍曹は思うのだった。


「それで『レヴトン』とやらには会わせてもらえるのか?」


 エルザがそう言うと軍曹は首を縦に振るしかなかった。


「わ、分かりました、すぐに手配致します」


 こうしてエルザが口を出した事によって、割とすんなりとこの拠点での話は纏まるのであった。

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