第218話 レヴトンと使者

 ラルグ魔国の本国へと連なる最後の拠点で『レヴトン』に会える算段をつけたソフィ達は、拠点の軍曹に連れられてラルグ魔国本国へと向かっていた。


 ソフィは『ヴェルマー』大陸では『レイズ』魔国にしか訪れた事がなかった。今回初めてラルグ魔国領に入り、その禍々しい雰囲気にソフィは笑みを零した。


(うむうむ。やはり魔族の国は小綺麗さよりも、こういったドロドロとした雰囲気でなくてはな)


 ソフィはラルグ魔国の本国に近づくにつれて、気分が高揚していくのだった。


「エルザ様、ソフィ殿。到着しましたよ」


 軍曹がいた拠点からほんの数刻程でラルグ魔国本国へ辿り着いた。


 ラルグ魔国本国入口からも空高くまで伸びる塔が見える。拠点の軍曹は門を守るラルグ魔族達に話をつけに向かった。


「再びこの地へ戻ってくる事になるとはな。感慨深い事だ」


 少しエルザの身体が震えていた。思えばゴルガーの酷い策略により、それまでこの国に尽くしてきたエルザはいきなり逆徒として扱われて国を追われたのである。


 今彼女が抱く思いはとても複雑な想いであるといえるだろう。それでもレルバノンを信じた結果、戻ってくることが出来た。


 それは偶然だったのかもしれないし、必然だったのかもしれない。どちらであってもエルザは構わなかった。


 ――やがて、軍曹が門番と共に戻ってきた。


「貴方がたが『レイズ』魔国からの使者の方ですね。中へどうぞ」


 門番がそう言うと軍曹は自分の仕事は終わったとばかりに、エルザに深々と頭を下げてそのまま拠点へと戻っていった。


 …………


 本国に近い拠点の配下から連絡を受けて、臨時の軍事司令のような立場に居るレヴトンは、レイズ魔国からの使者とやらに会う事となった。


 どうやら数日前に報告があったレイズ魔国に居る『魔王』とやらの軍勢なのかもしれない。


 そして気になる点がもう一つ。その使者の護衛をしている者がどうやら、のエルザらしい。


 歴代のラルグ魔国で最強の『フィクス』と呼ばれているレルバノン。現フィクスのゴルガー様とは違い、政よりも戦闘に特化したフィクスだった。


 そして部下である『ナンバーズ』もまた血に飢えた者達が多いと聞いていた。今からその『魔王』の使者らしき者と『ナンバーズ』のエルザに会う事に緊張するレヴトンであった。


 控えめなノックの後、部下が二人を連れて入ってきた。


 レヴトンが最初に抱いた感想は、であった。


 …………


「失礼する。我はソフィという者だ」


 どうやら本当にこの魔族の子供が『レイズ』の使者らしい。そして隣を見ると確かに『ナンバーズ』のエルザの姿に間違いがなかった。


「私はエルザという者だ。この隣に居るソフィのおまけのような存在だから、私の事は気にしないで話を行ってくれ」


 不遜な態度のエルザだが、噂以上に恐ろしい程の力を感じられた。


 『ナンバーズ』とはいってもまだまだ若い魔族である。


 才能があるとは言われていたが、まだまだ彼女は現段階では『上位魔族』の戦力値程だったはずだが、こうして身近に相見えると『』の自分と互角以上に戦力値を感じられるレヴトンであった。


 元より失礼な態度は取るつもりはないが、これで明確に下手を打つわけにはいかなくなった。


「これはこれは、ようこそおいで下さいました。私はシーマ様より留守を預かる『レヴトン』という者です」


 そう言ってレヴトンは椅子からすぐに立ち上がり、ソフィ達の前まで出向いて礼儀正しく挨拶をするのであった


「お主がこの国の責任者ということでよいか?」


 どういう話から入っていこうかと悩んでいたレヴトンだが、いきなりのソフィの質問に流石に面食らってしまう。


「え、ええ。シーマ様が戻られるまでの間は私が全指揮を執っております」


「そうか。お主の配下からどこまで連絡が入ってるか分からぬが、お主らの王は『ミールガルド大陸』との戦争にて戦死した。伝わっておるか分からぬからその配下に至るまでが全滅したという事を今一度ここで伝えさせて頂こう」


 確かに拠点の配下の男からこの連絡は伝わっている。


 しかしそんな話を真に受けるワケがなく、レヴトンはこのソフィという子供の真意を知りたかった。


「そんな話を信用しろと言うのは無理があるとは思いませんか? 一体どういう意図があるのかは分かりませんが冗談に付き合う程、私は暇ではないのですが」


 ――ぴしゃりと、レヴトンは言い放った。


 レヴトンにしてみれば元『ナンバーズ』であるエルザがこの場に居るからこそ、目の前の少年であるソフィの相手をしているが、これがソフィだけであったならば即座に追い返していたところなのである。


「クックック、全て本当の事なのだから仕方あるまい? お主がこの国の責任者であるというのであれば、信用してもらわねば話が進まぬのでな」


 そう言うと徐々にソフィの目が紅くなっていく。


 レヴトンは『紅い目スカーレット・アイ』になったソフィから距離を取り、自身も防衛の為に『紅い目スカーレット・アイ』になる。


 『最上位魔族』であるレヴトンであれば『紅い目スカーレット・アイ】』によって操られる事はない。


「お主が力ある魔族だと見込んで分かりやすく力で説明してやろう。『漏出サーチ』を使え」


 レヴトンはソフィの言葉通りに『漏出サーチ』を唱える。


 【種族:魔族 名前:ソフィ 戦力値:180万】。


 ソフィは更に『淡く紅い』オーラを体に纏い始めた。


 【種族:魔族 名前:ソフィ 戦力値:1900万】。


(なっ……!? せ、戦力値のコントロール……! それもこんな、あっさりと十倍以上!?)


 この時点で『最上位魔族』のレヴトンの戦力値を大きく上回る。


 更にソフィを纏うオーラの色が『淡く紅い』オーラから『淡く青い』オーラに変わる。


 【種族:魔族 名前:ソフィ 戦力値:測定不能】。


(せ、戦力値が計測出来ぬが……、こ、これ程の威圧感は、し、シーマ様と同規模、い、いや、シーマ様を越えているのでは!?)


「クックック。確かシーマとかいう者は、だったと思うが、まだ信用できぬというのであれば続けるがどうする? だが、これ以上となると我の『魔力』もまた、この形態で出来るコントロール可能な範囲を超えてしまうために、あまりオススメはせぬがな」


(こ、これでもまだ本気ではないというのか!? 一体この少年は何者なのだ!)


 何やら考え事をしているレヴトンから返事がなかった為に、ソフィの目が『紅い目スカーレット・アイ』から『金色の目ゴールド・アイ』になっていく。



 【種族:魔族 名前:ソフィ 戦力値:7700万】。


 既にレヴトンはソフィに向けていた『漏出サーチ』を解除していたが、それでも威圧感は更に激しさを増している事は理解している。


 今、この瞬間にでもソフィに向けて再び『漏出サーチ』を放てば、ソフィの魔力の情報量を理解すると同時に脳が焼き切れて絶命をするだろう。


「ぐ……っ! わ、分かった! もう分かりましたから、そ、それ以上は、止めて下さい!!」


 の領域に入ったソフィの戦力値は、最上位魔族のレヴトンでは耐え切れるものではない。


 同様に隣にいるエルザも顔を歪めて必死に耐えていた。


 レヴトンの言葉を聞いたソフィは、瞬時にオーラをといて平常時に戻った。


 【種族:魔族 名前:ソフィ 戦力値:70万】。


(戦闘状態でもないのにあっさりと、戦力値を百倍以上コントロールさせられる魔族。まさか、まさかまさか……!? 本物の!)


 シーマ様がこの国の王として魔王を自称をしていたが、この目の前の少年は明らかに違う。


 お伽話の中に出てくる本当の意味での『魔王』様なのだと『最上位魔族』の力を持つレヴトンが、正しくそう感じたのであった。


「これでお主らの王とやらが配下諸共全滅したという、話を信用してもらえたかな?」


 ソフィの言葉にもう疑う事なくレヴトンは頷いた。


 この魔王様が相手であるならば、流石にシーマ様でも勝つことは不可能だろう。


 ――その物が、最上位魔族とは差があり何もかもが違いすぎる。


 そしてレヴトンがソフィに返事をしようと口を開きかけた時、ノックもなしにドアが大きな音を立てて開けられる。


「れ、レヴトン様! ご無事ですか!」


 配下の『ゲバドン』が異常な『魔力』の高まりをレヴトンの部屋から感知して、入り込んできたのだった。

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