停滞からの脱却編

第189話 前を向く、新たな目標

「その辺になると現役の冒険者である者達を交えて、話を進めた方が良さそうですね。スイレン君、リーネ君、ラルフ君も、遠慮無く意見等がありましたらお願いします」


 その場に居る者達がレルバノンの言葉にコクリと頷いた。


 ミールガルド大陸でスイレンやリーネのように最高ランクに近しくなっていても『ヴェルマー』大陸のギルド討伐『Bランク指定』以上の依頼を無事にこなせるかが分からない。


 そう言った者達の事を考えるという意味でも、あくまで今回決める事はギルド指定の討伐は、参加点に加えて討伐加点を増やすという事を優先した方が良さそうであった。


「ミールガルドの基準で『ギルド指定Aランク』の魔物で戦力値が30万程だと決められている」


 スイレンがそう言うとレルバノンは思案する。


「ふーむ……。そうなってくると大幅に修正が必要ですね。私がラルグに所属してからの数千年間で突如暴れる魔族等もそれなりに多く見てきましたが、中位魔族でも戦力値は当たり前のように


 差に開きがありすぎてスイレンとリーネは何も言えなかった。


 スイレンもリーネも冒険者としての生活は長い。しかし冒険者の本来の目的は、強さのみを追求するものではない。


 こつこつと薬草集めや瓦礫の撤去の手伝い等、インフラ整備などを手助けしたりして戦闘面以外で勲章ランクを上げてきたものも多いのである。


 だからこそ退


 そういった考えを持つ冒険者も居るだろうが、実はそれは大きな間違いであり、決してこれは他人事ではないのであった。


 一例を挙げるとするならば、薬草集めや素材集めのクエスト中にこういった魔物が突然現れて、巻き込まれて戦闘になる場合もあるのだ。


 その時に自分は戦いをするつもりはないと考えていても、相手が襲う気であるならば戦いは避けられない。


 冒険者である以上は冒険をする上で、どんな簡単なクエスト中であっても気を抜いてはいけない。


 今までの『ミールガルド』大陸での生活であれば『ギルド指定C』や『ギルド指定B階級クラス』であれば、リーネでも討伐は可能であり、Aランクの魔物がいるという情報が入ればその場には近づかないといった防衛策をとる事も出来た。


 しかし、ここではGランク相当の『ギルド指定魔物』であっても、数十万から数百万の戦力値である可能性があるのである。


 そうなればリーネは冒険者として活動する事は到底出来ない。


 これでは冒険者として安心して活動が出来ないのである。


「あくまでこれはヴェルマー大陸の規則となるので、リーネさんやスイレン君たちが、これまでと同じように、グランの町の所属の冒険者という登録を残しておくのであれば、勲章ランクをそのままにしていただいても良いと思うのですが、新たにこちらの『レイズ』魔国の冒険者として登録し直すというのであれば、もう一度勲章ランクを下げて頂く事から、始めて頂かなければなりません」


 当然リーネもスイレンもこの大陸に来た時から、最低ランクの勲章ランクから始めても良いと考えていた。


 スイレンはソフィと戦う前であれば、決して取らない選択肢であったが今の彼は冒険者として道を歩み始めたのである。


 そして最初の気持ちを思い出しており、一から経験を積み直したいと考えていたのである。


 そしてそんな彼の妹であるリーネもまた、ソフィの隣に居られる程の強さを手に入れたいと考えていて、ひそかに自主練を再開していた。


「しかしだ、せっかく上げた勲章ランクを下げるのは、もったいない気もするな。その件はもう少し保留にしてもらってもよいか?」


「え?」


 二人は勲章ランクを最低ランクに戻しても良いという考えであった為に、突然のソフィの提案にリーネとスイレンは、互いに疑問の表情を浮かべるのであった。


「リーネにスイレンよ。お主達さえよければ、少し我の修行に付き合わぬか?」


 その言葉に二人は、再度顔を見合わせる。


 ソフィは影忍としての二人の稀有な技を本格的に、戦闘で活かせるようにしたいと常々考えていた。


 その思いはシチョウが見せたあの暗殺術を見て尚深まり、今回がいいタイミングだと思ったのである。


 スイレンとリーネはそのソフィの提案に直ぐに頷いた。


「是非頼む!」


「わ、私もやるわ!」


 こうして冒険者ギルドの規則修正から新たに二人の修行が始まるのであった。


 ……

 ……

 ……


 その頃、レイズ魔国の首都『シティアス』の町の建物を魔法で修復していたシスとユファは、休憩をとる事にして、近場の木の陰で腰を下ろしていた。


「だいぶ元通りにはなってきたわね……」


 ユファは自分達で直した建物を見ながらそう言った。


 シスは頷くが、あまり顔色は良くない。


 建物が元通りになっても民達が昔のように元通りになるわけではない。


 ユファはそのシスの横顔を見ながら、自分がかかった梗桎梏病こうしっこくびょうを思い出して恨んだ。


(もしもあの時私が魔族の魔力を枯渇させる病などに罹らなければ、ラネア達を死なせる事はなかったかもしれない)


 レルバノンが率いていた数千年前のラルグ魔国軍に比べれば、この時代のラルグ魔国第一軍など『ユファ』の十分の一程度の戦力値しかない『代替身体だいたいしんたい』の『ヴェルトマー』の身体であっても追い返す事など造作もなかった筈だ。


 それにピナやラネアは、とても優秀で魔力増幅を使わずとも『最上位魔族』として十分な戦力を持っていた。そんな優秀な者達を死なせてしまった。


 ――だからこそと、ユファは顔を上げる。


 『レイズ』魔国を本拠地とする冒険者ギルド。これを利用して『レイズ』魔国の再興を成し遂げて見せる。


 今のユファはもうは何も心配していなかった。何故ならば、


 自分は何も心配しなくていいし、その心配をする必要がない。


 自分のやるべき仕事はこの隣にいる優しき女王を再びレイズ魔国の希望へと押し上げる事である。

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