第188話 冒険者ギルドの長

 ソフィ達がディラックの元からギルド旗を持ち帰ってきた後、直ぐに『レイズ』の冒険者ギルドの場所を決める為に首都『シティアス』の建物を見て回る事にした。


 ユファとシスを引き連れて次々とシティアスの壊れた建物を魔法で直していく。


 あっさりと建物を直していくシスとユファの『魔法』は万能のように見えるが、この魔法は二つの要因がなくては出来ない。


 一つ目は壊れる前の建物を頭ですぐに思い描ける事。更に二つ目にその描いた建物を再現をするにあたって、膨大な魔力量が必要だという事である。


 最低でもの魔力が必要条件である。


 何より一番の難易度としては、この魔法自体がすでに古の魔法であるために使える魔法使いが限られてくるという事だろうか。


 だが幸運にもこの魔法を使える大魔王階級クラスの者が二人、そしてその教え子であるシスもいる。


 ソフィは過去にこの魔法をユファが使っているのを見た時に感動を覚えた。


 どうやらこの魔法は彼女が居た元世界の魔族が発案した魔法だったようだが、ユファ曰くこの『修正魔法』はその元居た世界でも編み出した魔族を除けば、自分が一番この魔法を上手く扱えると自負していた。


 彼女にとっても自慢の魔法の一つだったのだろう。


 …………


 シスとユファが次々と建物を直していく中で、ソフィは途中でシス達と別れてレルバノンと、ギルド長になる者を選別する為に話し合っていた。


「ヴェルマー大陸に詳しく『レイズ』魔国に居住を移しても問題のない者は居るか?」


「そうですね。女王であるシスさんや、ユファさんは国の立て直しで忙しいでしょうし。シチョウも自国のトウジン魔国の事を考えなくてはなりません。そうなると現実的なヴェルマー出身の者となるとリーゼ殿やレドリア殿になるでしょうか?」


 突然に名前を呼ばれた事で『リーゼ』や『レドリア』が反応を見せる。


「すまないが、私は役所仕事のような物は向いてはいないぞ?」


「わ、私もです。それに私は軍にもう戻れない以上、冒険者としてこの国の為に尽くしたいと思っておりますし……。どうかその願いを叶えさせて欲しいです」


 十歳程のソフィに対してレドリアが敬語を使うのは、信頼しているユファがソフィの事を慕っているからに他ならなかった。


「うーむ……。そうなるとやはりお主にやってもらいたいところではあるな?」


 ちらりとソフィは『レルバノン』を見る。


「……」


 レルバノンは思案顔を浮かべていたが、やがて決心したかのように口を開いた。


「仕方がありません。ここまで話が進んでいる以上、ギルド長を早く決めなくてはならないでしょうからね」


 ソフィがやってくれるかと言わんばかりに表情を明るくしたが、レルバノンは難色を示すかの如く顔を俯き加減に口を開いた。


「しかしソフィ君。一時的にという条件を約束して欲しいのです。後釜が見つかった時点でその方にギルド長の座を譲らせて頂きたい」


「勿論それで構わぬ。助かるぞレルバノンよ」


 ソフィはそう言って笑みを浮かべながら頷いた。


「それではこの町の冒険者ギルド長の座を私が務めさせていただきますが、次に細かな規則等を『ヴェルマー』大陸仕様に変更していきましょうか」


 こうして新たに冒険者ギルド長が誕生するのだった。


 ……

 ……

 ……


 簡単に変更が出来るところから進めていくレルバノン達。


 話し合いは続いていくが、まず最初の重要な問題は、を明確にする事だと考えた。


 今は国の復興という共通のクエスト等が盛り込まれている為に、強要性が多分に含まれて仕方なく入ってみようという思いが、大部分を占める結果となっている筈である。


 更にそこに好都合となる益を付与させられる事が出来れば、意欲の増加にも繋がると考えたのである。


「ここヴェルマー大陸で、今一番民が求めているものは何だと思う?」


 ソフィがその場にいる者達に聞くと、スイレンが最初に口を開いた。


「やはり生活の安定の為には、食料や金ではないだろうか?」


 至極当然と言える言葉であり誰もが納得する。


「うむ。確かにそれが一番重要なものだな」


 ソフィはこの世界に来た時に食べた『レグランの実』を思い出していた。


 そしてそのレグランの実の代金が払えなかったあの時、露店の店主に『冒険者ギルド』の存在を知らされて今ここにソフィは居る。


「多少の平等性を欠きますが、冒険者ギルドに加入している期間が長ければ長い程、報酬面で加算していくシステムを導入してみますか?」


「確かにそういう事も大事だと思うが、それだと間接的なメリット付与の部類になるな。直接的なメリットという意味でランクが上がるたびに、ボーナスを出すというのはどうだ?」


「そうなると額が問題になりますね。ルードリヒ王国から出されるという予算が、どれくらいになるかで変わるかと」


 今はまだヴェルマー大陸だけで自立できる状況ではないために、ミールガルド大陸の冒険者ギルドにおんぶにだっこという状況になるのは仕方がなかった。


「金銭に関しては予算がはっきりしなければ、決められない事も多いな」


「そうですね……。まずはこのヴェルマー大陸の冒険者ギルドだけで、自活が出来るようにならなければいけませんね」


 このようにして話し合いは重ねられて続いていくのであった。


「ならば先に討伐クエスト等の規則を決めていかないか?」


 今のままではギルド指定討伐の基準値が違いすぎる。


 更に言えばヴェルマー大陸と、ミールガルド大陸では開きがありすぎる。これを何とかする事もまた重要な事だとソフィは感じていた。


 ――そしてソフィのこの発言から、話し合いは別の方向へと進んでいくのだった。


 ……

 ……

 ……

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