魔族の王陥落編

第158話 過去の同郷

「そうだね。でも時間がないのは本当なんだ。そっちも『ラルグ』魔国が攻めてきて大変なように、こっちも厄介な奴に目を付けられて困っている状況なんだ」


 この時にようやくシスはラルグの事を思い出したのであった。


 しかしシスにとっては、優先順位はあくまでもヴェルの方が上である。


「厄介な奴って……?」


 シスが聞き返すとユファは深刻そうに頷いてみせる。


「ええ。その厄介なのが『魔王』レアって奴なんだ」


 ユファがその名前を呟くと『シス』は


「そ、それって、あの小さな女の子の?」


 シスの言葉にユファは神妙に頷く。


「あいつは私がこのに来た三千年前にはこの『リラリオ』の世界からすでに居なくなっていたらしくてね、私も全く気付かなかった。でもタイミングが悪く、どうやらこの世界で復活を遂げたみたい」


 シスもレアという『魔王』の存在の事は、幼少の頃に母親から寝小言に聞かされたくらいでしか知らない。


 ――曰く、、曰く、


 しかしどうしようもない程にワガママで皆を困らせてはいたけれど、彼女は純粋に同族である


 そして自分から戦争を仕掛けるのではなく、彼女がこの世界に居た時に起こしたほとんどの戦争は、全て『ヴェルマー』大陸を守ろうとして行われた事とも言っていた。


 何故この世界からいなくなったかは、母である『セレス』女王も知らないとの事だったが――。


「ヴェルは何でその魔王の事を知っているの?」


 その質問をするシスを数秒間見ていたが、やがて目を閉じて観念したかのように『ユファ』は本音を語った。


「もう何千年前になるかしらね……。私がこの世界に来る前にいた世界で『災厄の大魔法使い』と呼ばれていた時代の事なのだけど」


 ユファは当時の事を思い出しながら口を開いた。


「その世界には私の他にも『大魔王』と呼ばれる者が二人いたのよ。大魔王『レインドリヒ』と、私の世界の最古の魔王と呼ばれる大魔王『フルーフ』」


 シスはヴェルに魔法を教えてもらっていた時のような感覚に陥りながら真面目にしっかりと、の話を聞く。


「私が大魔王となる前にはもう『最強』と呼ばれていた古の大魔王フルーフは、今ではもう存在すら知る者の方が少ない『魔法』を次々と編み出していた。その目的は世界が一つではないという事を知ったフルーフが、他の世界へと行く方法を得るための研究開発だったのよ」


 シスはリラリオ以外にがあることすら知らなかったので、驚いた顔をしながら耳を傾ける。


「私が貴方に教えていた魔法のいくつかもフルーフが作り出した魔法なのだけど、主に転移魔法、憑依魔法といったものを研究していたわ」


 シスはそこまで聞いて過去にヴェルに教えてもらった『憑依魔法』を頭に浮かべた。


「そう。貴方に教えた憑依魔法もその一つよ。そしてフルーフは禁忌魔法を完成させた」


 ――神域『時』魔法、『概念跳躍アルム・ノーティア』。


 全く違う世界を移動する事を可能とする『』である。


「フルーフはその完成させた魔法を使って、を『概念跳躍アルム・ノーティア』で世界間転移させた。それがまだ魔王でさえなかった『レア』よ。どこの世界に送ったのか分からなかったけど、どうやらレアはフルーフにこの『リラリオ』の世界に送られていたようね。そしてそこで力をつけて、この世界の『魔王』へと昇華して君臨した。その後は貴方が知っている『魔王』のエピソード通りでしょうね」


 どうやらあの子供の魔王と『ヴェル』は同じ世界の出身だったようだ。


「そのレアっていう子を転移させた後、フルーフって魔王はどうなったの?」


 その後の古の大魔王がどうなったのか。


 あくまで興味本位ではあったが、それが気になるシスであった。


「私はその頃とっても大きな野望を持っていてね。フルーフを倒して『』になろうとしていたのよ」


 突然自分の事を語りだすヴェルだったが、シスは黙って聞く。


「それでも当時『フルーフ』に、半分の力を出させる事も出来ずに私は負けちゃった。その時の私でも『ヴェルトマー』の時より遥かに強かったのだけど、フルーフにはあっさりとやられたわ」


 シスはごくりと生唾を飲み込んだ。


 彼女がヴェルトマーの時でさえヴェルマー大陸では『最強の魔導士』と呼ばれていた程であった。


 その時より強いヴェルでさえ、力の半分も出させずに負けたというのだから、古の大魔王とやらは相当に強かったのだろうと予想がつくシスであった。


「そして……」


 ユファは自分の胸元から、を取り出しながら微笑んだ。


「フルーフはね? その後『概念跳躍アルム・ノーティア』で『アレルバレル』の世界へ行き、そこでフルーフでさえもに出会った」


 ――


 ……

 ……

 ……

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