第159話 現フィクスとフィクスであった者

 レルバノンの屋敷のある森から数キロ離れた平地にソフィ達は移動していた。


 今も尚眠りに落ちているであろうシスに、戦闘の余波を少しでも回避できるようにという判断であった。


 そして遂に今回の首謀者達が、ソフィ達の前に姿を現し始めるのだった。


「来たか……」


 【『ネスツ・ビデス』 戦力値1800万 ラルグ統括軍事司令】。


 【『ゴルガー・フィクス』 戦力値2237万 ラルグ王補佐】。


 そして『ヴェルマー』大陸の最強の座に居座る男――。


 【『シーマ』 戦力値3770万 ラルグ魔国王】。


 そして彼らを守り立つように『ヴェルマー』大陸の全てのラルグ魔国に所属する魔族達が『ミールガルド』大陸の西側の空に集結するのだった。


 シーマはレルバノンの姿を見つけた事でニヤリと笑みを浮かべた。


 だがその直後に、レルバノンの目の前の存在をめざとく見つける。


「ゴルガーよ、レルバノンの前にいる子供ガキは誰だ?」


 ゴルガーは王の言葉を受けて、ソフィを見るが彼もこれまで全く見た事はない。


 しかし諜報員からの情報では十歳くらいの少年が、多くの魔族達を屠ったという話である。


 ゴルガーは彼こそがもしかしたら、『魔王』なのかもしれないと思い至るのであった。


「私にも分かりませんが、のです。決して侮れる存在ではないのかもしれません」


 曖昧にゴルガーがそう告げるが、どうやら『シーマ』はゴルガーの懸念とも違う結論に至りながらも、何やら納得はしたようである。


「まぁそれもそうだな。そもそもこの場でレルバノンと一緒に居て平然としておるのだ。ただの子供ガキと思う方がおかしいか」


 頷きを一つ見せると『シーマ』はソフィへの評価を改める。


「まあ、どうせ奴らはもう終わりなのだ。どうでもいい事だがな」


 『質』がどうであれ『数』で遥かに上回る以上、どうにもならないと考えるのは『魔族』の常識であった。


 その考え方は『最上位魔族』達の更に、最上位に位置するシーマでさえ例外ではなかった。


「そうですな。相手方はたった三体だけ。それに比べてこちらの陣営はこれだけの『上位魔族』に


 『ゴルガーフィクス』もまた主と同じ考えを持ち、流石にこの数が相手ではどうしようもないだろうと、強引に自分を納得させるのであった。


 ……

 ……

 ……


 そんな話をしている『シーマ』達を見て、ソフィはどうしたものかと考える。


「ソフィ君。このまま戦いが始まる前に、私とゴルガーをどこか遠い空の上へと運べませんか?」


 レルバノンが大きな鎌を具現化させながらそう口にする。


「ふむ……? どこでもよいというのであれば構わんぞ」


 ソフィは造作もないと言い放つ。


「それで構いません、是非お願いします」


 レルバノンの言葉に頷きながら、ソフィは転移魔法を口にする。


 ――次の瞬間、レルバノンと同時にソフィは『ゴルガー』の元へと移動する。


「なっ!?」


「!?」


 ゴルガーとシーマ王は、突如目の前に現れた『ソフィ』と『レルバノン』に驚愕の表情を浮かべる。


「すまぬがお前、少し付き合ってもらうぞ?」


 ――「『高等移動呪文アポイント』」。


 ゴルガーに肩に手を置いた状態でソフィが今度は呪文を口にする。


 そして一瞬でソフィ達は、その場から姿を消すのであった。


「うむ。周りに生物は見当たらぬな」


 そこは『サシス』から少し離れた平地の真中であった。


 かつてこの場所でソフィは『ラルフ』と戦った事のある場所であった。


「ありがとうございます。助かりましたよ」


「うむ! では我は戻る。終わったらまた『念話テレパシー』をかけるがよいぞ」


 そう言った直後、再びソフィの姿が忽然と消えたかと思うと『シーマ』達の居る元の場所へと帰っていった。


「な、な……! 何が起きているのですか!」


 突然の事に驚いている『ゴルガー』の前でレルバノンが大鎌を構える。


「さて……。大変久しぶりですね? ゴルガー」


 レルバノンはあらゆる感情を自身の武器に込めて、当代のラルグの『フィクス』である『ゴルガー』と対峙するのだった。

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