第157話 大魔王ユファ
突如現れた影がゆっくりと姿を為していく姿をシスは見た。
そして誰も居なかった場所に見た事のない女性が現れるのであった。
「……ヴェル?」
――何故そう思ったかは分からない。
髪の長さや色といった見た目が全く違うその女性。
しかし目の前でシスをを見ている女性は、会いたいと願い続けた『ヴェルトマー』で
「ヴェル!? ヴェルなんでしょ!!」
シスを見ていた女性はゆっくりと首を横に振った。そして静かに口を開いた。
「久しぶりね、シス」
「ヴェルっ!!」
シスは泣きながら夢の続きをこの場で行うように、
しかし――。
シスが抱き着こうとしていた女性は、シスに向けて『
その瞬間にシスの身体が全く動けなくなるのであった。
「ごめんね。今の私はもう『ヴェルトマー』じゃない。災厄の大魔法使い『大魔王ユファ』よ」
シスは動けなくなり口が開けない、そしてそれを見たユファは苦しそうに口を開いた。
「ヴェルトマーは私の仮の姿で、この姿が本当の姿なの。ヴェルトマーの肉体は、負傷した本来のこの身体を治す間の予備の姿だったのよ」
シスの頭の中にユファの言葉がゆっくりと入ってくる。
しかしシスにとって、本当の姿がユファであろうとも、数千年間一緒に過ごした『ヴェルトマー』に違いがない。
「元々完治するまでの間って決めてたのだけどね。あの『ラルグ』の魔族の所為で少し、元の体に戻るのが早まってしまったの」
シスはユファに返事をしたいのだが、その意に反して一向に口は開いてくれないのであった。
「貴方が三千年前に私に頼んだ
「……っ、……っ!!」
シスは何とかしてヴェルに声を届けたい。自分の思いを伝えたい。
しかしユファの『
「『レイズ』魔国女王シス! 貴方に仕えられた数千年間、
普段聞いた事の無いヴェルトマーの涙声、そしてユファは出てきた時のように少しずつ姿がぼやけ始めた。
このまま何もしなければ、誰よりも大好きなヴェルとは二度と会えなくなるのだろう。
――シスはそう考えると悔しくて涙が止まらない。
(動けっ! 動けっ! ここでヴェルを逃したら私は……)
――
シスが最後の言葉を心の中で放った瞬間、カチリと彼女の中で何かが上手く嵌るような音が自身の耳に届いたかと思うと、これまで閉ざされていた扉が開かれて貯蔵されていた『魔力』が全て中からシスの体中を駆け巡る感覚が伝わっていく。
――シス自らが自分の限界を突き破った。
「……勝手な事を言うなぁっ!!」
――ドクンッ!
なんとシスの目が『
更にそれだけに留まらず『大魔王ユファ』の既に発動されていた筈の『魔法』ごと強引に強制解除する。
「……なっ! えっ!?」
「!!」
古の『世界跳躍魔法』でこの場から離れようとしていたユファは、シスの『
――絶対に、ここから逃さない!! 逃せば
恐るべき魔力が、ソフィの屋敷を覆い尽くす。
その魔力は、
今のユファは『ヴェルトマー』の時の肉体とは違い、本来の魔王の肉体である。
それもただの魔王ではなく、その遥か上の『大魔王』である。
魔王になったばかりのシスが、ユファの『
しかし『ヴェル』を二度と離したくないという思いの強さから、シスの潜在能力が一気に覚醒し、本来の彼女が持つ
「私が納得出来るまで逃がさない! ヴェル、ちゃんと私に説明しなさい!!」
ユファは驚きと興奮で大笑いを始めた。
「あっはっはっはっは! この子は本当に驚かせてくれるよ」
そう言うとシスの『
どうやらもうシスは先程の大魔王状態ではなく、普段の魔力に戻ったという事なのだろうと悟った彼女が、思惑通りに
しかしもう今度はしっかりと説明をしようと思ったのだろう。
ユファは『世界跳躍』の魔法を使用せずに、そのままちゃんとシスを見据えて話始めるのであった。
「……分かった。何も説明しなかったのは謝るよ、謝るからさ……? シス、頼むから落ち着いてよ」
シスは満身創痍といった状態で目からは涙がぼろぼろ溢れて流れており、必死でユファの『
唇を噛み締めたせいで出血していた。
そんなシスにユファは急いで治癒魔法をかける。
シスの口元の出血は止まり傷は完治した。
――そしてゆっくりと、ユファは口を開くのだった。
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