第127話 憎悪に捉われた魔王

 ラルグ魔国の『空域戦闘部隊』の名称を持つ私兵団を引き連れて迷いの森へと入ってきたのは、ラルグ魔国軍事副司令官『シュライダー』。


 彼の目的は『レルバノン』の屋敷にいる女王『シス』の抹殺である。


「この森は偶然にしては出来すぎていますね、どうやら『結界』ですか」


 そう言ってシュライダーが、森に向かって魔法を放ち強引に結界を破る。


「クックック、こんな子供だましの仕掛けで上手く隠れたつもりでしょうか?」


 見渡しがよくなった森の中を凄い速度で飛んでいく。


「さあ、見えましたよ」


 シュライダーとその部下の魔族凡そ三千体が、遂にレルバノンの屋敷に到着する。


 屋敷の前には『レルバノン』の私兵魔族が三体程いたが、すでに主に連絡は済ませてある。


 【種族:魔族 名前:レヴ 戦力値:155万】。

 【種族:魔族 名前:ガヴ 戦力値:162万】。

 【種族:魔族 名前:ダーブ 戦力値:165万】。


「止まれ! ここはレルバノン様の屋敷だ」


 門番たちは下位魔族だが『レルバノン』から直接私兵として連れてこられただけあって、そこそこに戦力値は高い。


「これはこれは、私はシュライダーと申す魔族です。所属はラルグ魔国、役職は軍事副司令官であります。主の命令で来ていましてね? レルバノン様に会わせていただけますかな?」


「断る」


 即座に断られた事でシュライダーはきょとんとした顔を浮かべたが、やがて大袈裟に笑い始めた。


「はっはっは、そうですか。我が国から逃げ出したレルバノン殿は臆病になられましたなぁ」


 こんな程度の挑発に乗ってくるとは思わなかったが、シュライダーはそう言ってレヴたちを挑発する。


「何だと?」


「レルバノン様を見下す言い方は許容出来ない!」


「殺す……」


 ――浅い。


 シュライダーは目の前の男たちを見て、ほくそ笑んだ。


「まあ、通さないと言われても、勝手に通らせて頂きますがね」


 そしてシュライダーが一歩進んだ瞬間だった。


 ぞくりと、シュライダーの背筋に冷たいものが走った。


(な、何ですかこれは?)


 シュライダーがゆっくりと振り返ると、そこにいた筈の私兵団の『空域戦闘部隊』が、一体も残らず地に伏して絶命していた。


「なっ……! お、お前たち!?」


 そしてシュライダーが部下たちに何が起きたのかと感じる前に、視界の端にが映ってしまう。


 ――それは彼の自尊心を傷つけた正体であり、彼が今後生きていく上で、であった。


 レイズ魔国の王にして大事な者を奪われた女王いや――。


 その存在は『』シスだった。


 ――


 シュライダーは自身の体が粟立つのを感じた。


 目の前の女は確かに女王シスであった。


 彼がこの大陸に来た目的であり殺す対象である。


 しかしだめだ、これはだめだ――。


 戦力値がどうとかいう問題ではない、こいつは次元が違いすぎる。


 ――『最上位魔族』として、そして力ある者として『シュライダー』軍事統括副司令官は、


「う、うわああああ!!」


 次の瞬間『シュライダー』は全速力で空へと舞い上がって逃げる。


 シュライダーは憎しみに囚われた『魔王』シスの目を見て悟ってしまった。


 ――


 怖い 怖い 怖い 怖い 怖い 怖い!!


「ハッ……ハッ……、はやく、はやくはやく、こ、ころ……、殺される!!」


 恐ろしい速度でシュライダーは、空高く舞い上がって逃げる。


 彼が逃げられる場所など、。無様を晒しながら、必死に逃げようとする。


 ―― 


「ヒッ、ヒィィィッ!!」


 全速力で逃げた筈なのに、目の前に現れた『魔王』は、見下すように自分を見ていた。


 ドクンッ


 『金色の目ゴールド・アイ』をしている『魔王』シスに首を掴まれる。


 ああ……! ようやく ようやく……!!


「た、たすけ……て」


 ぐちゃりという生々しい音が、シュライダーの耳に届いた。


(えっ……――)


 ――どさっ。


 シュライダーの視界はまだ正常に動いている。


 しかしどうやってもその視界を動かすことは出来ず、地面に落ちた空を見上げている首が、空にある自分の胴体が映った視界を逸らす事が出来ない。


 自分は地面に落とされたのだろうという事は理解している。


 ――


 ――それが彼の脳内に浮かんだ、

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