第128話 魔王レアの尋問

「はぁ……っ、はぁっ……」


 興奮による動悸が続きシスは胸を両手で包むように押さえる。


(やった……! やった……! やった……! やった……!! ヴェルッ!! 貴方の仇は、取って見せたわよ!)


 誰もいない空でぼろぼろと涙を流しながら、シュライダーの首を引き千切った感触の残る手を見つめながらシスは、じんわりと実感を感じ始めていた。


 ――こうしてシスは『復讐』をやり遂げたのだった。


「敵討ちおめでとぉ! 『憎悪』の魔王シスちゃん」


 そんなシスの前に『魔王』レアが現れる。


「……お前は誰?」


 復讐を終えて感傷に浸っていた彼女は、唐突に現実に引き戻された事で少々苛立ち交じりにレアを見る。


「はじめましてぇ! 私は『魔王』レアよぉ? よろしくねぇ」


 シスは少しの間レアと名乗る幼女を怪しげに見ていたが、そのまま無視する事にしたらしく、シスはそのまま『レルバノン』の屋敷へと戻ろうと背中を向けるのだった。


「うーん。その態度は気分悪いなぁ?」


 シスの視界が突然ぼやけて飛んでいられなくなり、そのままバランスを崩しながら森へと落ちてしまう。


 どうやら『魔王』レアがシスに何かをしたのだろう。


 シスが墜落した後にレアもまた森へと降りてくるのだった。


「ぐ……っ、貴様!」


 シスが憎々しげに『金色の目ゴールド・アイ』でレアを睨む。


「あははは! が調子に乗らないでねぇ」


 『魔王』レアの魔瞳でシスの魔瞳『金色の目ゴールド・アイ』を相殺する。


 更にそれだけでは終わらずに射貫くようにレアの目が細められるとシスは完全に動けなくなり、声も出せなくなるのであった。


 どうやら同じ『魔王』同士の魔瞳であっても、シス女王よりも魔王レアの方が魔瞳の質が遥かに上なのであろう。


 シスはレアの魔瞳を『相殺』仕切れずに、完全に呑み込まれるのであった。


「!?」


 ぺろりとレアは舌なめずりしながら、シスを値踏みするように視る。


「ふーん? やっぱりぃアナタは、ただの『魔王』じゃないわねぇ?」


 ――呪文、『呪縛の血カース・サングゥエ』。


「いいかしらぁ? よく聞きなさい」


 『魔王』レアの目が再び『金色の目ゴールド・アイ』になり、更にその眼光が鋭くなる。


 そしてキィイインという甲高い音が響き渡る。


 ――次の瞬間、古の『大魔王』が編み出した秘の呪法『呪縛の血カース・サングゥエ』が発動する。


「まず、お前に魔法を教えた者『ヴェルトマー』についての情報を全て開示しなさぁい」


 『あ、言うの忘れてた』というような表情を浮かべたレアが再び口を開く。


「私の言葉に素直に答えなかったり、虚偽発言をしたら契約により死ぬから気を付けてねぇ?」


 同じ魔王であるシスではあるが、現在において格が違いすぎる『魔王』レアの魔瞳『金色の目ゴールド・アイ』に一切逆らう事が出来ない。


 自然と口が開きシスが知る情報を勝手に喋ってしまうのだった。


「『ヴェルトマー・フィクス』は、私の姉のような存在で『最上位魔族』として『レイズ』魔国のNo.2の……」


 一から全てを説明しようとするシスに、レアは再度訂正する。


「その辺はいいわね『ヴェルトマー』とやらと出会ったのはいつかしらぁ?」


「……私がレイズ魔国の女王となる前、三千年程前に『レイズ』魔国の魔法部隊に入隊してきた時が最初よ」


 『魔王』レアは納得するように頷く。


(三千年前か……。やはり『エルシス』とも違う。人間という線ではなくなったわねぇ。やはり『魔王』で間違いなさそうかしらねぇ?)


「それじゃ次の質問よぉ。その『ヴェルトマー』の得意とする魔法の系統は何かしらぁ?」


「『地』系統よ」


(『ヌー』ではないわねぇ。魔族で得意系統が『地』という事は、『天候操作』辺りを自在に操れるという事よねぇ。つまりそれは『ユファ』かもしれないわねぇ? いや『レインドリヒ』辺りも『地』系統が得意だったかしらぁ……? でも『レインドリヒ』ちゃんは『地』系統というよりは、系統に関係無く自分の好む『に特化していたわよねぇ)


「それでは次の質問よぉ? 『金で出来たメダル契約の紋章』を持っていたかしらぁ?」


 シスは思い出すように目を一度閉じて考えてから口を開こうとする。しかしシスの意思に反して言葉が出ない。


「……んぅっ? どうしたのかしらぁ?」


 突然黙り込んだシスを訝し気に見ていたレアだったが、シスの様子に何かピンときたのか、レアは急に真面目な顔をして口を開いた。


「これはかしらぁ?」


 次の瞬間、再び『魔王』シスの目が『金色の目ゴールド・アイ』になり『魔王』レアの『金色の目ゴールド・アイ』を相殺する事に成功する。


 そしてそれで終わりではなかった。


 ――神域『時』魔法、『次元防壁ディメンション・アンミナ』。


「あはっ! これは間違いないわねぇ! 私の読みは当たったわぁ!」


 『魔王』シスの周りの空間だけが歪曲していき、シスの姿は見えているのにそこにいないような希薄さを見せる。


 そしてレアが放った『呪縛の血カース・サングゥエ』の効力が、かき消された感覚を詠唱者のレアは感じる。


「『絶対防御アブソリ・デファンス』? 違うわねぇ。『大魔王』階級クラスの『次元防壁ディメンション・アンミナ』か。仕方ないわねぇ、これ以上はどうにもならないわぁ」


 『魔王』シスを守る魔法はすでに『超越魔法』や『根源魔法』の領域を越えている。


 『真なる魔王』階級クラスであろうとも、容易くは突破できない防御魔法。


 世界に直接干渉し、次元を司る『時魔法タイム・マジック』の領域である『次元防壁ディメンション・アンミナ』が展開されたのである。


 如何に『魔王』レアが『魔王』シスの数倍の魔力を持っていようが、こうなってしまっては容易に手を出す事は出来ない。


 『次元防壁ディメンション・アンミナ』を強制的に解除するには『大魔王』ソフィのような出鱈目な超魔力を持つ者か『力』の魔神といった神格を有する神の領域の規格外な存在が力を行使して、ようやく突破出来る領域である。


「でもねぇ? 貴方は特定の『力』を見せたわぁ。それはもう私に答えを教えたも同じよぉ」


 ――神域魔法、『天空の雷フードル・シエル』。


 『魔王』シスが苛立ちに染まった表情を浮かべたかと思うと、右手を素早い所作であげながら『無詠唱』で『神域魔法』をレアに向けて放つ準備を整えた。


 空に雨雲が次々と集まっていき、このまま強制的に操作された天空から僅か数秒後には、恐るべき雷の一撃が『魔王』レアに降り注ぐであろう。


「……はーいはい! 怖いわねぇ。分かった分かった、もう消えるわよぉ! じゃあねぇ?」


 次の瞬間、最初からいなかったかのように『魔王』レアは忽然と姿を消した。


 『魔王』レアが完全に居なくなったのをシスは『魔力感知』で確認した後に、意識を失いながらも空からゆっくり、ゆっくりと降りてくる。


 ――それは何者かが大事そうに、シスの体を抱えるかのようだった。


 地上の森へと降り立った瞬間に横に寝かされた。


 そして穏やかな風が吹いて、シスの顔を撫でていくのであった。


 ……

 ……

 ……

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