第117話 目を覚ました女王

 今後についての話し合いが終わり、レルバノンは『ケビン』王国に『ヴェルマー』大陸の事を伝えに行った。


 そしてソフィ達は自分の屋敷に戻り、今後の準備に取り掛かる。


 ラルグ魔国の魔族達はレルバノンを追っていると判断したので、レルバノンには囮となってもらい、ソフィの屋敷に今後は駐在してもらう事にしたのであった。


 レルバノンをソフィの屋敷に留めさせておけば、魔力を感知出来る魔族を一箇所に集められると踏んだのである。


 ソフィにとっての『ラルグ』魔国軍とやらは、その数だけが厄介なだけでそれ以外には特には気にしていない。


 しかしシスから『ヴェルトマー』の話を聞いた時から、ソフィは『ラルグ』魔国とやらに良い感情は持ってはいない。


 特にラルグ魔国の現在のNo.2の座に就いているという『ゴルガー』と『シュライダー』だけは逃すつもりはなかった。


 しかしシスとの戦闘を経たソフィは『シュライダー』に関しては、自分が手を出さずともシスだけでもあっさりと勝てるだろうと踏んでいる。


 シュライダーがいかに最上位魔族の中で上位に入る強さだとしても、今のシスはもう『』と呼ばれる存在なのだ。


 今はまだ憎しみを引き金として一時的に『魔王』になれるだけであったとしても、一度『魔王』になった者はもう単なる魔族に戻る事は出来ない。


 身の危険が迫った時や大事な者に危険が及んだ時、その破壊の衝動は魔族の体を『魔王』にさせてしまうからである。


 更にシスは単なる魔王ではなくヴェルトマーを使役させて、同化するという技まで持っている。


 ソフィはシスに成長する事を期待もしていた。


 かつて『アレルバレル』の世界で、ソフィの配下となった『』のように。


 今ソフィ達の屋敷の庭ではシスとリーネがおり、その周りに森の魔物達も混ざって仲良くしていた。


 いつの間にかリーネとシスは本当の姉妹のように仲良くなっていて、ソフィは人間と魔族は決して相容れぬものではないと再認識していた。


 シスがふとソフィと目が合う。ソフィが笑みを浮かべるとシスは近づいてくる。


「ソフィさん。この前は、本当に……、本当にごめんなさい!」


 憎しみに溺れてソフィと戦った時の事を言っているのだろう。


 隣に居るリーネにソフィが視線を移すと顔を逸らしたので、この事はリーネから話を聞いたのだろう。


「我は気にしてはおらぬ。ここは良い奴ばかりが集まっておる。何かあればすぐに言うのだぞ? 皆こころよく力を貸してくれる事だろう」


 ソフィの優しい言葉にシスは嬉しそうに頷き、その様子を見ていたリーネも嬉しそうだった。


「私の中にヴェルがいると分かったから……。もう私は大丈夫よ」


 そう言って誇らしそうに胸をはるシスにソフィは頷く。


「ヴェルトマーといったか、なかなかに出来た魔族だったようだな?」


 根源魔法の『ルートポイント』に本来『魔王』以上の存在が扱える『神域魔法』、そしてヴェル自身を生前契約させる程の未知なる『新魔法』。


 どれをとってもすでに『最上位魔族』程度が扱う領域を越えている。


 それだけに『梗桎梏病こうしっこくびょう』という病を残念に思うソフィであった。


 もし生きていればソフィはヴェルトマーと是非『魔法』について語ってみたかった。


「そうね。ヴェルは私の姉のような存在で、私が女王になってからも態度は変えずに接してくれてね」


 彼女の事を思い出したのだろう、シスは少し涙ぐみ始めたが『リーネ』がそっとシスのその手を握る。


「大丈夫よリーネ、私はもう大丈夫だから」


 シスはそんなリーネの頭を撫でて妹のように接する。


「お主さえよければずっとここに居ても良いからな? ここは我がおる限りだと思ってよいぞ」


 ソフィは冗談めかして笑みを浮かべながらそう言ったが、その場にいるリーネやラルフ、スイレンは信じて疑わなかった。


「ありがとうソフィさん。申し訳ないのだけど『ラルグ』魔国の一件の片が付くまでは、その言葉に甘えさせて欲しい」


 そう言ってシスが頭を下げたので、ソフィは笑顔で頷くのであった。

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