第104話 ラルグ魔国VSトウジン魔国
シチョウがヴェルマー大陸を発ってから二日が過ぎた。
魔族達は空を飛べる者達ではあるが、今ヴェルマー大陸は現在は戦争状態であり、領内を離れてしまえば何が起きてもおかしくはない。
それこそ大国であった『レイズ』魔国の勢力圏を奪って、勢力を次々と伸ばしながら各小国に我が物顔で駐屯している『ラルグ』魔国兵に見つかれば『トウジン』魔国のシチョウは八つ裂きにされても文句はいえない。
そんな事情がある為にシチョウは『ディアス』の大事な任務を抱えたまま『ミールガルド』へ向かいはしたのだが、慎重に慎重を重ねている為にその速度は遅かった。
今でもシチョウは『ミールガルド』でシスの生存を確認した後、直ぐに『ヴェルマー』魔国へ戻って『トウジン』魔国と共に『ラルグ』魔国との戦争に参加するつもりであった。
しかしそんな思いを抱くシチョウを嘲笑うかのように『ヴェルマー』大陸では遂に『ラルグ』魔国軍が本格的な大国崩しを始めるのだった。
『ラルグ魔国軍』
――――――
『ゴルガー・フィクス』ラルグ王補佐。
『ネスツ・ビデス』ラルグ軍統括軍事司令。
『シュライダー・クーティア』ラルグ統括軍事副司令。
『ニーティ・トールス』ラルグ軍事管理部隊長。
『ナゲイツ・ディルグ』ラルグ第一軍特務曹長。
――――――
総勢で15000体を越えるラルグ魔国軍が『トウジン』魔国領付近に集結するのであった。
そしてその最前線に立つ男こそ『ラルグ』魔国全軍を束ねる『ヴェルマー』大陸で最も『魔王』に近い男――。
――ラルグ魔国の『シーマ』魔国王である。
そしてその『ラルグ』魔国に『トウジン』魔国も対抗する為に、祖国『トウジン』を守るが如く『トウジン』魔国全軍である『上位魔族』総勢9000体が集結する。
本来はこの大軍を直接指示をするのはシチョウの役割であったのだが、現在彼は『トウジン』魔国王の『ディアス』の命令により『ミールガルド』大陸へ向かっている為に、その代わりに抜擢されたのが『レイリー・ディルグ』指揮官であった。
ディアス王とその補佐である『シウバ・フィクス』は、この『トウジン』の軍勢の最後尾で腕を組んで立っていた。
国の王が背後で見守っているという事が『トウジン』魔国の士気をこれ以上ない程までにあげているようで、数で負ける『トウジン』ではあったが、誰も悲観しているようには見えなかった。
それ程までに『ディアス』王の威光は凄まじく、歴代の『トウジン』魔国王と比較しても決して引けは取らないと言われる程に民達から信頼されていた。
すでにこの戦争の開戦はされている為に、いつ激突が始まってもおかしくはない空気だが、互いの指揮官達は相手の動向を探るように注視している。
レイズ魔国のように卓越した魔法使いが多いわけでもないので、遠距離からの奇襲等は互いに考えてはいない。
もちろん『ラルグ』魔国や『トウジン』魔国の中にも魔法使いは当然居るのだが、戦争の幕を切って落とす程の強力な『魔力』を持つ『レイズ』魔国程の魔法使いが居ないからである。
人間同士の戦争ではなく『上位魔族』がいち兵士となって何百、何千体と居る戦争なのだ。
たとえ大魔法を放つとしても詠唱するには時間が掛かる。
そんな時間を敵に与える時点で勝負の行方は決してしまうだろう。
どういう行動を示すかによって行動はまるっきり変わってしまい『ラルグ』魔国と『トウジン』魔国のような大国同士の戦争であれば、一瞬で勝負がつくことも考えられる。
……
……
……
先に動いたのは『ラルグ』魔国軍だった。舵を取ったのはラルグ軍統括軍事司令『ネスツ』である。
見た目はまだ若いネスツだが『ビデス』の勲位を持つ国の中核的存在である。
「……」
彼が静かに肩を回し右手を前に出す。
――ただそれだけであった。
それだけで『ラルグ』魔国の数千の『上位魔族』達が『トウジン』魔国軍を殲滅する為に上空へ一斉に飛び立っていった。
卓越した目を持つ『トウジン』魔国の魔族達もまた、ネスツの手を見逃すはずがない。
――『トウジン』魔国の指揮官『レイリー』も即座に行動を開始する。
「最前線にいる者達よ! 遠慮はいらぬ、近寄る愚かな蛮族を落とせ!」
レイリーの目が紅く光る。
その言葉と『魔瞳』の目によって、トウジンの最前線に居る『上位魔族』達の目が呼応するかの如く紅くなり、敵を屠る為に一斉に空へ飛び立っていく。
――これより『ヴェルマー』大陸の歴史に、その名を残す程の大戦争が始まりを告げるのであった。
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