第101話 レルバノン卿、女王との再会

「ここがレルバノン様の居る部屋よ」


 エルザはシスから決して目を離さずに、ソフィ達を主の部屋まで案内するのであった。


 そして控えめに部屋の扉をノックをしてエルザは主の『レルバノン』の返事を待つ。


「はい、どうぞ」


 レルバノンの言葉を聞いたエルザは、ドアを開けて中へ入る。


「失礼します。会いに来てくれたソフィと……『をお連れしました」


 ソフィが移動魔法でこのレルバノン邸に来た瞬間に、その『魔力』を感知したエルザは大急ぎで外に出て行った為に、ソフィが来たという事は理解していたが、まさかそこに『シス』女王が居るとは思っておらず、エルザの言葉にレルバノンは慌てて立ち上がるのだった。


「これは驚きましたよ……」


 流石のレルバノンもシスを見て、目を丸くして驚愕の表情を浮かべる。


「久しぶりね? 『レルバノン・フィクス』」


 凛とした女王シスの声で久しく聞いていなかった『ヴェルマー』大陸での彼の役職であった『フィクス』の名で呼ばれて不思議な感覚に陥るレルバノンだった。


「……え、ええ、お久しぶりですね『シス』女王」


 ――


 過去に冷戦となる前の『ラルグ』魔国と『レイズ』魔国は、幾度となく戦争を経験してきている。


 そしてその時の国の舵を取っていたのが『シス』女王と『ラルグ』のNo.2であった『レルバノン』である。


 互いの戦略や智慮を知り尽くしている二人は立場が変わった今を顧みて、不思議な感覚に陥っていた。


「それで本日は、どうなされたのですか?」


 そのレルバノンの質問は『レイズ』魔国のシス女王にではなく、この場に居るソフィに向けて声を掛けるのであった。


 それはあくまで彼が迎え入れた相手は、シス女王だけではなくソフィもだという事を態度で示すようであった。


 二人の様子を静かに細かく観察していたソフィが口を開いた。


「うむ……。先日このシスが我の屋敷の庭で倒れている所を発見したので、我の屋敷で休んでもらっていたのだが、何やらシスがヴェルマー大陸出身の魔族という事を聞いたのでな。お主ならば何か知っているのではないかと、こうして会ってもらおうとここまでシスについてきて貰ったのだ」


 ソフィの言葉に最後まで耳を傾けていたレルバノンは、頷きながら言葉の意味を頭で考えていたが、やがてその口を開いた。


「そういう事でしたか。前に話をしました通り、私は『ヴェルマー』大陸の『ラルグ』魔国というところに居たのですが、彼女はその『ラルグ』魔国と長年戦争を続けている国の『女王』なのです」


 ソフィはシスが嘘をついているとは思ってはいなかったが、別の者からそう説明されるとようやく実感がわいてくるソフィであった。


(少し前に出会った『魔王』レアが言っていた魔族とは?)


 そうかもしれないと思いながらもこの人畜無害そうな『シス』が罪も無い者達を一方的に手をかけるとは到底思えなかった。


「成程な。二人は敵対している国々の覇権を争う同士だったのか」


 ソフィはそうであるならば、二人を会わせたのは間違いだったかもしれないと思っていると、レルバノンが口を開いた。


「しかしそうですね、今はもう立場も違いますからね。彼女は『女王』ですが、私はもう国を追われた哀れな、ですから、肩を並べられる相手ではありません」


 何処か自虐じみたレルバノンの言葉に、シスも苦笑いを浮かべながらつい口を開いてしまう。


「決してそんな事はないわよ? 


 俯きながら告げたシスの言葉を『レルバノン』も『エルザ』も聞き逃す事が出来なかった。


「う、嘘……!?」


「シス女王。貴方に一体何があったと言うのですか?」


 そこまで話したシスはもう、を抑える事が出来なかった。


 ……

 ……

 ……


 そしてシスは涙ぐみながらもここに来るまでの経緯、その全てを『ソフィ』や『レルバノン』達に話し終えるのであった。


 シスの話が余りに凄惨な出来事であった為に、その場に居た一同は口を閉ざしてしまった。


 リーネは何も言わずにシスに抱き着く。


 突然の事に涙を拭っていたシスは、体を固くしてリーネに視線を向けた。


「え……?」


「何て、何て酷い奴らなの!」


 リーネもまた涙ぐみながら『シス』の話に出てきた『シュライダー』を含めたラルグ魔国軍に対して激昂する。


 そして『スイレン』もまた、リーネと内情を重ねる様に悔しそうな表情を浮かべて口を開いた。


「戦争とはこういうモノだとは理解していても、病にせる者に対して行った行為を俺は納得出来ない!」


 そして元々は『ラルグ』魔国に所属していた『レルバノン』と『エルザ』の二人も、互いに視線を向け合いながら頷き合っていた。


「シーマ様は戦智や智謀に長けてはおいででしたが、此度のレイズ崩しはその本来のシーマ様の考えとはあまりに異なりがあるように思えます」


 そしてレルバノンの言葉を引き継ぐようにエルザが口を開く。


「はい。これはシーマ様ではなく、あのだと思われます」


 ラルグ魔国に長くNo.2という立場にいたレルバノンと、その配下が口を揃えてそういうのであれば、まず間違いはない事だろう。


 戦争なのだから弱ったところを狙うのは決して悪い事ではないが、聞いていて決して気分のいい話ではなかった。


 特にこの話を聞いていて、一番気分を害したのは正々堂々戦うことを良しと考える魔族、であった。


「クックック、レルバノンよ? お主に追手を差し向けている連中が、今回のシスの国を滅ぼそうと企んだ奴なのだろう?」


 別に凄んでいるワケでも圧をかけようとしているワケでもないのに、ソフィがそう口にするだけで『レルバノン』や『ラルフ』、そして直接ソフィと戦った事のある『スイレン』もまた震え始める。


「なかなか、


 エルザもまた笑みを浮かべるソフィを見て、スフィアと戦闘を行ったソフィの『真なる大魔王化』となった時の彼の『魔力』を思い出して、カチカチと歯をならして体を震わせ始めるのであった。


 ソフィを怖がる『魔族』のエルザの姿を見て、を知らないシスだけが首を傾げていた。

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