第99話 レイズ魔国の女王との出会い

 ミールガルド大陸の辺境にある『グラン』の町の近くの森に一筋の光が舞い降りた。


 深夜であった為に誰もその光を見る事はなかったが、その森の中にひっそりと建てられている屋敷には『魔力』を感知する『結界』を張ってあった為に、直ぐにその屋敷に居る者達は気が付くのであった。


「ソフィ様! 起きておられますか!」


 何者かが屋敷の庭に侵入した事に気づいた屋敷の住人である『ラルフ』と『スイレン』は、慌てて飛び起きたかと思うと、屋敷の主人であるソフィの部屋へと駆け込んでくるのだった。


「うむ……。庭の方を見るがいい、何者かが倒れておる」


 ソフィの部屋の窓から女性が横たわっている姿が見えた。


「どうやら侵入をしてきたというよりは、飛ばされてきたと言った方が正しいようだな。ベア達は近くに居らぬようだし、あのままでは流石に忍びない。直ぐに屋敷のリビングへ運んでやってくれぬか?」


「畏まりました」


「……分かった」


 ソフィからの指示を受けたラルフとスイレンは、直ぐに頷いて部屋を出て行った。


 ……

 ……

 ……


 その女性は余程深い眠りについているようで、ラルフ達に抱えられていても全く起きる気配がない様子であった。


 そしてソフィの屋敷のリビングまで運ばれてきた女性をソファーに寝かせた辺りで、ようやく目を覚ますのであった。


「……う、ん?」


 ぽやぁっとした様子で起きたシスだが、そこに誰かが居ると気づくと直ぐに目を見開いたかと思うと覚醒する。


「こ、ここは!? 誰だお前達は!」


 女性は目を覚ますと同時に飛び起きたかと思えば、ソフィ達を睨みつけながら戦闘態勢に入ろうとしているのか『魔力』を高めていく。


「ぐ……っ!」


 スイレンがその女性が纏うあまりの『魔力』の重圧に苦しそうに声をあげると、ソフィが眉を寄せながら口を開いた。


「我々はお主の敵ではない、少し落ち着くのだ」


 ソフィの諭すような言葉と優し気な声を聞いたシスは、ようやく落ち着きを取り戻していく。


「……す、すまぬ」


 シスが高めていた『魔力』を沈めると同時にソフィは『漏出サーチ』を使ってシスの戦力値を確かめようとする。


 【種族:魔族 名前:シス 年齢:3221歳 

 魔力値:999 戦力値:測定不能】。


(ふむ。魔力値は隠蔽されて戦力値は測定不能か。それにしてもか。この世界に来た頃は全く出会わなかったというのに、ここ最近はよく『魔族』に会うものだな)


 冒険者ギルドで護衛の依頼を受けた辺りから『レルバノン』や『エルザ』に『スフィア』。


 それに最近では『レア』という魔王領域に達している『魔族』とも会ったばかりであった。


「それでお主は何者だ?」


 その女性は自分の『魔力』で苦しめてしまっていた『スイレン』に謝罪をしていたが、そこにソフィから問いかけられたため、視線をソフィに戻して素直に口を開くのだった。


「わ、私は『レイズ』魔国の女王『シス』だ。ここはだ?」


 シスと名乗った『魔族』は目を鋭くさせながらソフィを睨む。どうやら返答次第では再び戦闘態勢に入ろうと考えているのだろうと思わせられたソフィであった。


「……れいず? 聞いた事がないな」


 ソフィがそう答えると『シス』は目を丸くして驚いていた。


「れ、『レイズ』魔国を知らない? いや待ってくれ、そもそもお主達は人間ではないか?」


 シスはここにきて『ラルフ』や『スイレン』を見ながらそう口にする。どうやら彼女もまた先程のソフィと同じく『漏出サーチ』を使って調べたのだろう。


 ソフィは彼女の目がうっすらと紅くなったのを見逃さなかった。


「うむ。我は生粋の『魔族』だが、他の者は間違いなく人間だぞ」


 ソフィの言葉に再びシスは驚いたかと思えば両手を頭に持っていき、必死に思案を始めるのだった。


「ここは『ヴェルマー』大陸ではないのか!?」


「ここは『ミールガルド』大陸ですよ。貴方はソフィ様の屋敷の庭で倒れていたのです」


 ラルフが丁寧にシスという『魔族』に説明を始めると、彼女の表情は徐々に曇っていく。


「そ、そんな……! ヴェルッ……! まさか私を助ける為に!?」


 色々な思いがシスの中で交錯していく。


 自分を助ける為に『魔力』を操れなくなる病に侵されている身体で必死に『魔法』を使う事に成功させて、シュライダーの刃で身体を抉られながらも身を挺して彼女はシスを助けてくれていた。


 ――


 どれだけの困難の中で彼女はシスを救ってくれたのだろうか。


 そして最後の言葉を思い出すと、彼女はもう涙が止まらない。


「う……っうう……!!」


 必死に涙を堪えようとしながらシスが手を目元を必死に拭うが、その涙は止まってはくれない。


「うぅ……っ! ヴェルッ……!」


 ソフィはそんなシスを見て辛そうな表情を浮かべながら、何とか安心させようと声を掛ける。


「お主、余程の事情があるようだな。我の屋敷は安全だ。今日のところは何も話さなくとも良いからゆっくり休むがよい」


 そう言うとソフィは『魔法』で部屋に『結界』を張った後に、そっとリビングを出ていく。


 残された『ラルフ』と『スイレン』もシスの泣き崩れる姿を一瞥した後に、二人は視線を交わした後にソフィの後を追いかけて出て行った。


 そしてリビングに一人残されたシスは、この部屋の『結界』の中では声が外に漏れないと知って、ソフィが誰にも聞かれないようにシスにのだと理解するのであった。


「ぐす……っ、すまぬ……! あ、ありがとうっ……!」


 泣き止む事が出来ないシスは嗚咽を漏らしながら『結界』の中で声にならない感謝の言葉を何度も何度も口にした後に大泣きをするのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る