第98話 ソフィの拠点
辺境の森の中に一際目立つ大きな屋敷が建っている。
この場所はすでに多くの人間たちから忘れ去られた屋敷で、今やこの屋敷の存在を知っている者は少ない。
そんな辺境の屋敷の主『ソフィ』は、ご満悦といった顔を浮かべて彼に付き従う配下『ラルフ・アンデルセン』に声を掛けた。
「うむうむ、なかなかいい屋敷ではないか! そう思わぬか? ラルフよ」
ソフィに話し掛けられると、ラルフも微笑みを浮かべて口を開いた。
「ええ、レルバノン卿も大変素晴らしいお方ですね。ソフィ様の好みをよく知っておられる」
言葉の通りにレルバノンの株は、ラルフの中で急上昇していた。
ルノガンの一件の後にレルバノンの護衛を引き受けたソフィに『ケビン』王国との繋がりを持っているレルバノンは、ソフィに屋敷を無償で提供したのだった。
ソフィがその気であれば『ケビン』王国の爵位も用意させて、王国中枢の街でソフィを大貴族として迎えて多くの屋敷を提供する事も考えていたレルバノンだったが、ソフィが丁重に断りを入れて『グラン』の町の近くの屋敷を指定したので、この屋敷に居を移したのである。
今この屋敷にはソフィとラルフだけでは無く、何と勲章ランクAで影忍と呼ばれる忍者の『スイレン』も住んでいるのであった。
妹のリーネも引っ越しを考えていたが、スイレンが『お前に同棲はまだ早い』と、
同棲という言葉を使ったスイレンに『リーネ』は顔を赤らめたが、その効果はてきめんだったようで、何も反論が出来ずに妹のリーネは、兄のスイレンの言葉にあっさりと従う事となった。
そしてこの屋敷の周りの森は、今アウルベアの『ベア』達の縄張りであり、多くのアウルベアとアウルベアに従う魔物達が、ベアの命令でこの屋敷を陰ながら守っている。
そしてソフィもまた魔物達に優しく接しており、魔物達はそれが何よりも嬉しかったようで、ソフィを主と認めていた。
――この屋敷は今、まさに魔物達の『憩いの場』となっているのであった。
屋敷の庭にも魔物達が多く入って寛いでいる。
ソフィが魔物達を自分たちの庭に招待してから、自由に出入りを許している為であった。
もちろん粗相をしないようにと、縄張りのボスである『ベア』とアウルベアの同胞達が他の魔物達を逐一睨んでいるので、この場所で魔物同士で喧嘩をしたり、ソフィに迷惑をかけるような魔物は全く居ない様子であった。
そしてソフィが屋敷の中から庭へと入ると、寝そべっていた魔物達が一斉に立ち上がって、ソフィの周りに集まってきて、撫でてほしそうにしゃがみ込む。
「うむ、お前達か。またここに来ていたのだな」
ソフィがそういって虎のようなタイプの魔物の頭や顎あたりを撫でると、その魔物は主人のソフィに対して嬉しそうな声をあげる。
――虎の魔物の種族名は『グランド・サーベルタイガー』。
決して人に懐かず、近寄れば即座に喰い殺すと冒険者ギルドで評判で手の付けられない『Dクラスの極悪
しかしそんな極悪
勲章ランクD程度の冒険者がこの光景を見てしまったら卒倒するかもしれない。
ソフィに好意を寄せていた『グランド・サーベルタイガー』達だが、『ベア』が近づいてくると即座に立ち上がり、平伏すように一礼をしてその場から離れる。
凶悪な『グランド・サーベルタイガー』といっても縄張りのボスである『アウルベア』を『格上の存在』と認めている為であった。
「ソフィ様、この度はおめでとうございます!」
ベアは屋敷の事を言っているのだと察したソフィは大きく頷いた。
「お前達が居る所に極力居たかったのでな。無理を言ってこの場所の屋敷をレルバノンから譲って貰ったのだ」
ソフィの言葉を聞いた『ベア』は、感動するような声を漏らした。
「私達もソフィ様の近くに居られて幸せですよ」
【種族:アウルベア 名前:ベア(ソフィの
元々ギルド指定の討伐魔物とされていたが、ソフィの配下になった事により人間達を襲う事もなく、同胞達と慎ましく森で生活をしている。
現在『ベア』はアウルベアの一族のボスであり、この森の王となっていた。
それもその筈『大魔王ソフィ』から直々に名前を頂戴し『契約の紋章』というソフィと意思疎通をはかる事の出来る稀有で貴重なアイテムを所持しているのである。
元々の戦力値は三万に満たなかったベアだが、ソフィが形態変化や魔王形態の変化を伴う事でそのメダルを持つベアは、力の一部を恩恵として受け取る事が出来る為に並の魔族では、ベアに触れる事さえ出来なくなる。
しかしベアはそんなモノより、ソフィが自分達の近くに住居を構えてくれた事を喜び、本当に心の底から嬉しそうにしていた。
ソフィ達は『ステンシア』で引き起こされた事件以降、穏やかに毎日を過ごしているのであった。
――そんなソフィ達だったがこれより数日後『ヴェルマー』大陸から転移させられてくる『レイズ』魔国の女王『シス』との出会いから、
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