最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

第90話 ミゲイル邸

　宿でルノガンとの話し合いが終わった後、エルザの紹介でソフィ達は『レルバノン』の屋敷に訪れていた。

　そしてソフィはミナトの件で深く関わる事になった『レルバノン』と再会を果たした。

　エルザがルノガンの事情を話して、ソフィがミゲイルという貴族に会いに行くという話をすると、レルバノンは直ぐに親交のある貴族と連絡を取り、すぐにミゲイル邸の場所を調べ上げてソフィに場所とミゲイルへの紹介状を持たせてくれたのだった。

　どうやらレルバノンはソフィに指名依頼を頼んだ手前、心証を少しでも良くしようと考えたのかもしれない。

　レルバノンが『ケビン王国』とどういう関係を持っているのかは分からないが、この屋敷の事にしても今回の事にしても『ケビン王国』とは、相当深い関係にあるのだろうなという事を察したのだった。

　そして『ケビン王国』領ではあるが、相当の田舎の方にあるというミゲイル邸に『ソフィ』『ラルフ』『リーネ』『エルザ』『ルノガン』の五人が辿り着いた。

　すでに屋敷の主に話は通してあったので、ミゲイル邸のメイドがソフィ達を出迎えた後にすぐミゲイルと会う事が出来たのであった。

　――突然の『ケビン王国』からの通達。

　そして貴族でもないソフィ達がいきなり来訪するという事で、不機嫌そうな態度を隠そうともしない『ミゲイル』であった。

　その顔には『何故こんな平民風情と会わなければならんのだ』といった表情が浮かんでいた。

「それで我が屋敷に何用だ？」

「うむ、突然の来訪すまないな。早速だが、ここにいる男を知っておるか？」

　ミゲイルを憎悪を孕んだ目で睨みつけるルノガン。

「何じゃこの失礼な男は！　ワシが知っている筈がないだろ！　気分が悪い、さっさと連れて帰れ」

　まさに取り付く島も無いとはこの事である。

「俺を覚えていないのか？　俺はパ（・）プ（・）リ（・）の（・）村（・）の（・）ル（・）ノ（・）ガ（・）ン（・）だ（・）！」

　ルノガンが吠える様にそう啖呵を切ると、流石にパプリの村を知っていたのか『ミゲイル』は、考える素振りを見せた。

「何だ？　お前あの村の生き残りか？　なるほど、あんな村の所縁の者であれば無（・）礼（・）な（・）態（・）度（・）も（・）納（・）得（・）が（・）行（・）く（・）わ（・）い（・）」

　その言葉にルノガンは、ミゲイルを目で射殺せそうな程睨みつける。

「あの村にはそこそこ美しい女がいたが、せっかくワシが一晩だけ味（・）を（・）見（・）て（・）や（・）ろ（・）う（・）と誘ってやったのに、事もあろうに断りやがったのだ！　全く何様のつもりなのかワシに恥をかかせおったから、村ごと消してやったわい。ふはははは！」

　当時の事を思い出したのか途中から饒舌にそして、聞く者に不快感を感じさせる笑い声をあげながら、ミゲイルは当時の詳細を語り始めるのだった。

「そういえばワシの誘いを断ったあの女は魔物に襲われながらも、旦那の名前を叫びながら子供を大事そうに抱えていたそうじゃな、全く哀れな女だ」

　その言葉にルノガンは怒り過ぎて、狂いそうになりながら涙を流し始めた。

「貴様、何を泣いておるのだ？　むっ！　まさかお前……！」

　何かに気づいたのか、ミゲイルは下品な笑みを浮かべ始めた。

「お、お前、まさかあの女の旦那なのか？　ぷっ……、わはははは、これは愉快だ！　今更何の用だというのだ？」

　唇を噛み必死に堪えているルノガンに指を差しながら、小馬鹿にするようにゲラゲラと大笑いを始めるミゲイルだった。

　ラルフやリーネ、そして『魔族』であるエルザでさえも、もう我慢が出来ないといった様子でミゲイルを睨んでいた。

「もうよい……。ルノガンよ、すまなかった」

　唇を噛みすぎて血をぼたぼたと流しながら、激しい怒りをなんとか我慢しているルノガンに、ソフィはそんな思いをさせてすまなかったと深々と頭を下げた。

「はあ？　何だというのだ全く！　何の茶番を見せたかったのかさっぱり分からぬが、満足したならそこの滑稽な男を連れてさっさと帰れ！　二（・）度（・）と（・）そ（・）の（・）無（・）様（・）な（・）男（・）を（・）連（・）れ（・）て（・）来（・）る（・）な（・）よ（・）！」

「黙れ、動くな、目を閉じるな。これより貴様は意識を失う事を許さぬ」

　ソフィの目が紅く光り、一つ一つの言葉を魔瞳である『紅い目（スカーレット・アイ）』を使ってミゲイルに放ち続けた。そしてソフィの言葉を聞いたミゲイルは一切その場から動けなくなる。

「……ッ！　……ッッ！！」

　そしてミゲイルは、遂には喋る事も出来なくなるのだった。

「ルノガンよ、この男を好きなようにしてよいぞ」

　そして今度は『エルザ』が何もない空間から、自分の得（え）の大刀を引き出した。

「この大刀は私以外には誰にも触らせたくない物だったが、お前だけは特別に使わせてやる。存分にこの大刀を使って恨みを晴らすがいいぞ？」

　そう言ってニッコリとルノガンに笑いかけながらエルザは、自分の愛する大刀をルノガンにそっと手渡した。

　ルノガンはエルザに頷き、そして大刀をぎゅっと握りしめて諸（・）悪（・）の（・）根（・）源（・）に憎（・）悪（・）の（・）念（・）を込めて睨みつけるのだった

「……ッ！！　……ッ！！」

　ミゲイルも今から何をされるのか理解したのだろう。

　慌てて助けを呼ぼうとするが、足は動けずにそして口は声を出してくれない。

　ミゲイルはこの後ルノガンの行為を目を逸らす事すら出来ず、そして意識を失う事も出来ないままに死を迎えるまで、延々と生き地獄を味わう事となったのであった。