第89話 ルノガンの告白

 ソフィがミナトをギルドに連れてきた事で、すでにリルキンスの指名依頼を果たした。


 ソフィ 勲章ランクD 11785P/30000P

 ラルフ 勲章ランクE 5525P/10000P

 リーネ 勲章ランクB 11525P/100000P



 現在では真犯人のルノガンを捕まえたわけではないので、手がかり分としてギルドポイントの一万ポイントが、ソフィのパーティにそれぞれ加算された。


 そしてラルフがすでに依頼を受ける前からFランクに昇格できる状態だったので、今回の一万ポイント加算で、一気にEランクまで上がる事が出来たのだった。


 そして金貨10枚が報酬として支払われた。


 そしてソフィは今回のレルバノンの指名依頼を受けたのだが、リルキンスは今回の護衛依頼の報酬を考慮して相当のポイントが付くらしく、ギルド長の権限で護衛依頼の達成と同時に現在のポイントに拘らずを約束してくれた。


 つまり現在勲章ランクDのソフィは、ポイントをそのままにCランク11785P。


 ラルフは勲章ランクDと5525P、リーネは勲章ランクAの11525Pとなる。


 今回の指名依頼が達成される事になれば、一つのパーティでAランク、Cランク、Dランク在籍と、さらにもいる事で、ソフィのパーティは冒険者の上位パーティといえるようになるだろう。


 さてそんなソフィ達であるが、ギルドを出て今は宿に戻ってきていた。


 ラルフは今のままではソフィ様の足手まといにしかならないと告げて、自己研鑽の為に外に出ていき、リーネはソフィの看病に疲れたらしく、ソフィのベッドの上で可愛らしい寝息を立てて眠ってしまった。


「ふむ、暇だな……」


 ソフィは二階の奥の部屋を取っている。


 暇を持て余し始めたソフィは、窓からぼんやりと外を眺めていた。


 ――そしてそんな時であった。


 部屋のドアをノックする音が聞こえてきたのである。


「む? 誰かな?」


「申し訳ありませんソフィ様。ソフィ様にまた来訪者でございますが……」


「構わぬ。お主すまぬが我に会いたいと告げる者が現れた時には、今後は許可を取らずにそのまま通してくれて構わぬぞ」


「はい、畏まりました」


 宿の従業員の方もこうも連日に渡って次々と来訪者が訪れ続けており、その全員と必ず面会を許可しているソフィであれば、近々そういわれるかもしれないと考えていたために、直ぐに頷いたのであった。


 そして従業員がでていったから数分後、部屋に入ってきたのはエルザと見慣れぬ男であった。


「ソフィ待たせたわね、約束通りに連れてきたわよ」


「ルノガンだ……」


 男の目には深い隈が出来ており、何日も寝ていないのが見て取れる。


「ほう……。お主が魔物達にこの町を襲わせていた男か?」


 ソフィが尋ねると隠すつもりもないのか、素直に頷いて見せた。


「その通りだ……。俺が例の薬草を薬に調合して、付近の魔物達を狂暴化させていた者で間違いはない」


「む……」


 えらく素直な態度にソフィは眉を寄せたが、聞きたい事があったので、ひとまず置いておく。


「どうして魔物達を操るような真似をしたのだ?」


「無論、俺のだ」


 目には光がなく死に場所を探しているような、そんな様子が男からは感じられた。


「その目的とはなんだ?」


 ソフィがその質問を行った瞬間に、視線を床に向けていた男は突如豹変したかのように目を見開いて大声をあげ始める。


「俺の……! 俺の妻と子を奪ったクソ野郎と魔物をぶち殺すために、決まっているだろうが」


「静まれ、馬鹿者!」


 我慢できないといった様子で怒鳴るように、訳の分からない事を言いながら声をあげたルノガンをエルザは頭を掴んで無理やり地面に組み伏せる。


 力加減はしているといっても、戦力値が400万を越える『上位魔族』に押さえつけられては抜け出せるわけもなく、ルノガンはされるがままに動けなくなった。


 そしてすやすや寝ていたリーネは、男の怒鳴り声に吃驚して飛び起きる。


「え、な、何!?」


 突然の恐怖心からリーネは、慌ててソフィに縋りつくように抱き着いてくる。


 そして安心させるようにソフィはリーネの頭を撫でる。


「つまりお主の家族を襲った魔物のように、町を襲ってこの町の者達を同じ目にあわせようとしたのか?」


 ソフィの言葉に、ルノガンは真っ向から否定する。


「違う! そんな事の為に襲っていたわけではない!」


「では、何故?」


 本当の事を話してもいいのかといった様子で、ルノガンはエルザを見る。


 エルザの方も頷いてルノガンに先を促す。


「『スフィア』という『魔族』に言われたのだ。自分の言う通りにすれば、お前の家族を襲った魔物と貴族を殺す機会を与えてやるとな……!」


 その後は彼の口は止まる事なく過去に起こった出来事、その冒頭から組織に入る事になった後のことまで語り始めた。


 途中から思い出したのかルノガンは、涙声になりながら話を続けた。


 そしてようやく全ての事情を理解したソフィだが、男の話すその貴族に対する怒りを滲ませていた。


 ――この人間は町を襲いたくて魔物を操りたかったわけでもなく、ただに、スフィアの命令に従って町を襲っていたのだ。


 だが『スフィア』がもうこの世に居ない事をエルザから聞き、愛する家族や村を奪った貴族にも報復が出来なくなり、何もかもがどうでもよくなって、生きる気力を失ったとの事らしい。


 報復が出来ないと知った以上、彼はもうこれ以上魔物を狂暴にさせて町を襲う理由もなくなり、こうして素直にエルザと共にこの場に来たのだろう。


「俺がやった事は決して許される事じゃない。ギルドに突き出してくれてもいいし、俺をこの場で殺してくれても構わない。お前の手を汚すのが嫌であれば、俺自身が魔物に襲わせて自殺でもしよう」


 そこまで言ったルノガンに対して、ソフィは静かに口を開いた。


「お主のそんな勝手な事情で、魔物達を利用する事を我は許さぬ」


 ソフィがそう言うと、ルノガンは悔しそうな顔を浮かべながらも頷いた。


「だが、お前の気持ちは分かった。スフィアとやらを殺めたのは。お前の家族を襲わせた貴族とやらには、この我が代わりに会わせてやろう」


「え?」


 ルノガンはここで初めて光を宿したような、そんなをして驚いていた。


「どうするかは我に決めさせてもらうが、お前も連れて行ってやる。だが、その後はギルドに出頭する約束をするのだ」


 ルノガンは驚きながらもその言葉に即座に首を縦に振った。


 リーネは途中から話を聞いていたが、最後はいつものように溜息を吐いたのだった。

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