第91話 金色の目を持つ幼女

 レルバノンの屋敷に戻ったソフィ達は、事の経緯をレルバノンに話すのだった。


「そうですか……。それでルノガン君は、満足しましたか?」


 組織のボスであったレルバノンに聞かれたルノガンだが、その目には強い光が宿っており、その質問に対して強く頷いてみせるのだった。


「もちろんこれで全て納得したというわけではないが、あの男に報いを受けさせた事で少なくとも、だ」


「そうですか。私もスフィアに言われるがままに貴方を利用した側だ。今後の事で何か協力が出来る事があるならば、いつでも私の元へ来て下さい」


 そう言ってレルバノンは、ルノガンに頭を下げた。


「よしてくれ……。たとえていよく利用されていたのだとしても俺は、ここでアンタらに世話になった事に変わりはないし、復讐をするという目的を果たせた事もこの組織に居たからという事に違いはなかったわけだしな」


 ルノガンはそう言って、憑き物が落ちた様子の表情を浮かべながら立ち上がった。


「じゃあ俺はこの恩人の約束通りに冒険者ギルドに行く。レルバノン様、それにエルザ様も。もう会えないかもしれないから最後に言っておく。本当にこんな俺なんかに力を貸してくれてありがとう」


 そう言って礼を述べながら深々と頭を下げたのだった。


 レルバノンもエルザも表情を柔らかくしながら頷いていた。


「うむ……。ではルノガンよ、行くとしようか」


 そう言ってソフィ達も立ち上がったが、そこにレルバノンから背中越しに声を掛けられる。


「ソフィ君! 我々の依頼を受けていただいて感謝しています。それと何か分かればすぐに連絡がしたいのですが。君さえよければ私の持つ屋敷から見繕って提供しようと思いますが、一つの場所に居を構えてみては如何でしょうか?」


 ソフィにとってもそれは、魅力的な言葉だった。


「それは我に屋敷をくれるという事か?」


「そういう事になります。出来れば『ケビン王国』領のどこかであって欲しいのですが、如何でしょうか?」


 レルバノンはどうやら『ケビン王国』には話を通せるらしい。


 『ルードリヒ』王国にはそこまで大きな繋がりはないのだろうか。


 しかしソフィにとっては、屋敷を用意してくれるというのであれば、どこの領土内であろうとも文句はなかった。


「そうだな……。それならばやはり我は『グラン』の町の近くがよいな」


 ソフィがそう言うと、リーネはほっとした顔を浮かべた。


「ほう『グラン』ですか? 確かに『グラン』は『ケビン』王国領土内ですね。分かりました、直ぐに空いている屋敷がないか調べて、近日中にソフィ君にお伝え致しますよ」


 連絡できるのなら別に屋敷をくれなくてもよいのではないかと心の中でソフィは思ったが、下手な事を言って考えが変わられても困るので、黙っておく事にするソフィであった。


「さて、それではステンシアに戻るとするか」


 ソフィがそう口にすると、ラルフとリーネはすぐに立ち上がって頷いた。


「それでは世話になったな」


 ソフィが別れの挨拶を切り出すと、エルザが少し寂しそうな顔を浮かべた。


「ソフィ……! いつでも顔を見せに来てくれ! お、お前ならいつでも大歓迎だぞ!」


 余程ソフィの事を気に入ったとみえるエルザを見て、レルバノンは驚くような表情をしたが、直ぐに笑みを浮かべた。


 そしてリーネは取られてなるものかと、ソフィの手を強引に引き寄せるのだった。


 ……

 ……

 ……


 ステンシアの町のギルドに戻ったソフィ達は、そのまま『リルキンス』の部屋に通された。


「お待たせしてしまった、ソフィ君!」


 ソフィ達の横に見慣れない男が居る事を確認したリルキンスは、彼がこの町で事件を起こしていた真犯人なのだろうと直ぐに理解するのだった。


「初めましてステンシアのギルド長。俺はこの町に操った魔物を襲わせていたルノガンという者だ」


 堂々としたルノガンの態度とその言葉に、流石のリルキンスも少し戸惑う。


「ここに居るソフィさんに俺は救われた。これから生涯をかけて借りを返したいと思っている。何でもするから、この俺に罪を償わせてくれ!」


 これにはリルキンスは唖然とする他なかったが、当人がそう言っているのだからと無理やり納得する事にするのであった。


「わ、分かった分かった。ひとまずこれでステンシアの魔物達の襲撃も止まるだろう。もうそれだけでも十分だよ」


 がはははとリルキンスは馬鹿でかい声で笑って、当面の問題が片付いた事で、その他の問題を後回しにする事に決めたのだった。


 ソフィ 勲章ランクD 21785P/30000P 

 ラルフ 勲章ランクD 5525P/30000P

 リーネ 勲章ランクB 21525P/100000P


 ラルフはこれで一気にソフィに並び、勲章ランクDになるのだった。


 こうしてミナトのステンシアまでの護衛から、この世界に来て初めての魔族と出会いエルザやスフィアと戦ったり、町を襲っていた者に最後は協力したりと様々な事があったが、無事に解決といっていい結果に終わるのであった。


 ……

 ……

 ……


 そしてソフィ達が冒険者ギルドを出て宿に戻る途中――。


 何気なくソフィがステンシアの路地裏通りを見た時に、こちらを見ている十歳くらいの自分と同じくらいの姿をした幼女の存在に気づく。


「む……?」


 ソフィの視線に気づいた幼女は、こちらを見てにこりと笑った。


 そしてソフィもつられるように笑みを返して宿に戻ろうと振り返った時、ソフィが動けなくなる程の重圧が発生する。


(これは……!)


 ソフィの前を歩いているラルフやリーネはソフィの様子に気づいた様子もなく、談笑しながら歩いていく。


 どうやらソフィだけがこの重圧を感じているようだった。


 そしていつの間にか先程の幼女が、ソフィの前に立っていた。


「初めましてぇ、魔族ソフィちゃん」


 何故動けないのかソフィは、ようやく気付いた。


 幼女の目が光り輝く『金色の目ゴールド・アイ』をしていたのだ。


 スフィアと戦った時に意識を失ったソフィが『真なる大魔王』の形態になった時にしていた目である。


 ソフィはこの『魔族』が扱う魔瞳まどう金色の目ゴールド・アイ』の効力を詳しく知っている為に、どこまでの力を用いているかを推し量る事にする。


 まずこの幼女が使っている『金色の目ゴールド・アイ』という魔瞳であるが、エルザ達が使う『紅い目』とは比べ物にならない力を秘めており、その気になればソフィが『相殺』しなければ即座に操られる程の力を持っている筈なのである。


 しかしこうしてソフィが特に抵抗をしていない状態で、ただ単に動けなくなっているというだけという事は、目の前の幼女がソフィを操ろうとしているわけではないという事に他ならない。


(言葉も出せぬし、動く事は出来ぬか。だが、こうして物事を考えられておるという事は深層心理に影響を及ぼしてはおらず、意識支配といった事をやろうと望んでいるのではないのだろうな。では少し操られたままで、色々と調べる事としようか)


 ――(漏出サーチ)。


 ソフィが詠唱をせずに『魔力』を回路から放出しながら心の中で呟くと同時、目の前の魔族に対して魔力値と戦力値を数値化する根源魔法を発動する。


 【種族:魔族 名前:レア 年齢:???

 魔力値:??? 戦力値:??? 所属:???】。


(クックック。当然のように今の我の形態では測れぬ戦力値に、魔力は隠蔽されておる。それも我が今『漏出サーチ』を使っているという事に気付いていない様子で隠蔽しているという事は、誰にいつ狙われてもいいように準備を怠らずに隠蔽を施しておるという事だ。我ら『


「やっぱりぃ、魔族ソフィじゃなくて『大魔王』の方がいいかしらぁ?」


 ……

 ……

 ……


 第二章完。

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