第12話 統治と支配の違い

 港町『コーダ』を出発して数刻程が経った。


 ディラックがニーアとディーダの三人でギルドの中の話を始めたので、ソフィとリーネは御者の隣へ行き『サシス』の町がある『セソ』地域の話を聞かせてもらう事になった。


「対抗戦が始まる今の時期はどこの町も殺伐としていてね、毎年馬車で冒険者を乗せるんだけど、冒険者同士で喧嘩が絶えなくて大変なんだよ」


 溜息をついて馬車の御者は苦労話を語る。


「どこの街のギルドもプライドがあるから、他所の冒険者たちには負けられないって意地を張ったりするのでしょうね」


「そうなんだよ、特に『セソ』地域はギルド間の争いが特に酷くてね。開催地である『サシス』の冒険者は偉そうに物事を上から言う人が多いから、他のギルドの冒険者は面白くないだろう? だから反感を持ったりする人が出てそれで喧嘩になったりするんだよ。俺たち御者が間に入って仲裁しないと、刃物を抜きかけない空気の中で何時間も過ごすことになるんだ」


 試合前にそんな状況が何時間も続くならば、確かに選手も周りも精神衛生上宜しくないなとソフィは察するのだった。


 そして御者は『コーダ』や『グラン』のある今の『ラクール』地域にいる時が、だと教えてくれた。


「商人ギルドでは冒険者ギルドのように対抗戦のような、何か競い合うようなイベントはないのかね?」


 ソフィはふとグランの露店主の言っていた、商人ギルドを思い出して御者に訊ねてみた。


「そうだなぁ。商人ギルドは冒険者ギルドのように、街のギルドの中でも冒険者意識みたいなのがなくて、よっぽど仲のよくて扱う商品が違う商人同士でないとツルみすらしないからね」


「イベント的な催しといっても強いて言えば、稀有なアイテムの等が開かれる事が、唯一の大きなイベントといってもいいくらいかな」


 年に何度か大きなオークションがあって、その時は商人たちが多く馬車便を使ってくれるから助かると御者は笑みを浮かべて話す。


 馬車便は安定して毎日金貨数枚程の収入があるらしく、雇われの御者でもDからEランク程度であれば冒険者よりも稼ぐ事が出来るらしい。


「まぁ商人も冒険者も一長一短なんだけどね。冒険者は身一本で冒険者になることはできるけど、強くならないといつまでもGランクで、たいした報酬も稼げずに命懸けで魔物と戦わないといけない。そして商人はまず売るために必要なものを仕入れないといけないし、他の商人に騙されないだけの目と耳。更にはお得意様を作る為のコネ作りやらなんやらで、精神的にも強くないとやっていけない。結局の所生きていく上で考えた時、楽な仕事なんてなくてどちらも大変だと気づかされるんだ」


 ソフィたちの世界である『アレルバレル』の世界では、全ての国の実権をソフィが握り統治していたが、国民である人間たちを干上がらせるような真似はさせず、最低限の毎日の食事や住居といった物も与えていた。


 実力至上主義で魔物がほとんどの役職についており、偉そうに跋扈ばっこすることはあるが、どんな者達でも飢えて死ぬ等といった事はソフィはさせなかった。


 毎日の暮らしは贅沢さえしなければ生きてから死ぬまで安定して過ごせた筈で、この世界で暮らす人間たちに比べれば、住みやすい環境だっただろうと考えるのは、とソフィは考えた。


 何事も自分たちで考えて行動するのが人間の原理であることは理解できるし、魔王や魔物たちに命令されて働かされる事で、反発して解放されたいと願うのも分かる。


 しかしだからといって人間が人間を支配することでも結局は同じことではないのだろうかと、自らが経験した『アレルバレル』の世界の過去を思い出して、考えさせられるソフィであった。


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