第13話 襲撃、スライム状の魔物

 御者との話を終えてもうすぐ『セソ』地域に入るといった所で、魔物が草むらから飛び出してきた。


「皆さん! 気を付けて下さい魔物モンスターです!」


 馬車を停めた御者の声に、ニーアたち冒険者たちが一斉に外に飛び出した。


「む、この辺では珍しいな」


「ええ。どうやらあれはですね」


 うねうねとスライム状のモンスターが、馬車を取り囲むように数体現れた。


 このゲルという魔物は相当に癖のある魔物である。


 冒険者ギルドが定めた適正では精々がFランクの魔物ではあるのだが、物理を得意とする戦士や格闘家は苦戦を強いられる為にパーティを組んでいないソロの戦士達であれば、勲章Eランクであっても分が悪いと考える冒険者も居る。


 それに対して『魔法』を使う事が出来る魔法使いであれば、そこまで苦戦はなくFランクでも余裕で倒せると豪語する魔法使いも居るほどである。


 つまり物理ならば苦戦を強いられるが魔法使いならばあっさりと倒せる敵。


 それがこの『』という魔物なのであった。


 ディーダが腰から剣を抜き、一匹のゲルに斬りかかるが、刃が刺さる前にスライム状の体を捻らせて剣を避ける。


「ちぃっ!躱された!」


 そしてゲルがディーダの足に絡みつくように、身体を密着させて体をのぼっていく。


「う、うわああ!!」


 ゲルはそのままディーダの顔の部分まで迫っていき、口元を覆うように体を伸ばしていく。


「どうやら窒息をさせるつもりか! でもそうはさせないぞ!」


 ――中位魔法、『氷針アイスニードル』。


 慌ててニーアが魔法を唱えて『ゲル』の体を狙った氷の矢を放った。


 物理は通用しない『ゲル』だったが、氷の矢はうまくその『ゲル』の体を突き刺していく。


 そのまま『ゲル』は溶けるように小さくなっていき、やがてディーダの身体から音もなく地面に落ちていくのであった。


「す、すまない! ニーア、助かった!」


 あのままだと命の危険もあった事は理解出来た為、ディーダは感謝の言葉をニーアに投げかける。


「ゲルは物理に強いが魔法に弱い。ディーダ君はそのまま下がってくれ」


「わ、分かりました!」


 言われた通りにゲルから離れて、御者を守るようにディーダは下がった。


「ソフィ君、できれば僕の背後を任せたいのだけど」


 ゲルは目に見える範囲で七匹存在している。


 その内ニーアの方に四匹、そして残り三匹は馬車の中にいるディラックに向けて、今にも襲いかかりそうになっていた。


(別世界だからといはいえ、あまり魔物を倒したくはないのだが仕方あるまい)


「ふむ、分かった。ひとまずはこの程度で十分だろう」


 ――超越魔法、『終焉の呪エンドオブカース』。


 呪いを具現化したような見る者が背筋を凍らせる程の歪な顔をした化け物が、何もない空間から次々に出現したかと思うと、その鋭く恐ろしい目の眼光を放ちながら辺りを見始める。


 そしてソフィの姿を見た魑魅魍魎達はソフィの周囲をまわり始めた。


 どうやらこの悍ましい姿をした魑魅魍魎たちによる『絶対者ソフィ』に対しての彼らなりののようなものを示しているのだろうか。


「お主ら。あの魔物達から、我の周りの人間達の身を守れ」


 ソフィが自分にすり寄って来る呪いの具現者達にそう告げると、クルクルと周囲をまわっていた魑魅魍魎たちはピタリとその動きを止めたかと思うと、魑魅魍魎達から離れて逃げようとしていた三匹のゲルたちの方を見るのだった。


 そしてその呪いの具現者達は、一斉に逃げ始めたゲルたちを追いかけたかと思うと、そのスライム状のゲル三匹を一斉に食べ尽くしていく。


 体を溶かして避けたりすることができるゲルたちだったが、呪いの具現者が睨みかけるとゲルたちは硬直したように動けなくなり、瞬く間に全てのゲルたちは魑魅魍魎たちに喰われて、この世から消え失せてしまうのだった。


 見た事もない悍ましい者達が、魔物のゲル達を一斉に消し去ったのを『リーネ』と『ディラック』は呆然と見ていた。


 ゲル四匹と戦うのに必死で、ソフィ達の方を見る余裕がなかった『ニーア』と『ディーダ』達だけが、いつも通りに戦い続けていた。


「はああ!」


 ――中位魔法、『氷檻アイスプリズン』。


 こちらも四匹のゲル全てを氷の魔法で固めて動けなくする。


「よし、いまだ!」


 ――中位魔法、『氷囲アイスランド』。


 四匹中三匹が凍らせた状態のまま倒すことに成功したが、一匹だけが生き残って御者を狙って飛んでいく。


「逃さないわ」


 リーネがクナイをゲルに投げつける。物理に強いゲルだったがクナイに何かを塗っているのか、刺さった瞬間に緑色に変色した後、そのまま溶け落ちて絶命した。


(ほう? あれは毒……。いや、酸か?)


 ソフィはリーネの投げたクナイが刺さったゲル達が変色して倒れていくのを見て、そのリーネのに少しだけ興味を持って観察するのだった。


「君たち、よくやってくれた!」


 ディラックは見事に魔物を倒して見せたメンバーたちに労いの言葉をかける。


「僕は何もできませんでした、面目ない」


「相性の問題だよ。それにゲルは適正F級の魔物の中でもかなり強い部類だしね」


 萎縮しながら口を開くディーダを庇う様にニーアは声を掛ける。


「確かに見た事のない魔物だったな。今のはこの辺に生息する魔物なのか?」


「そうだね『ラクール』地域周辺ではあまり見かけない魔物だけど、ゲルはこのミールガルド大陸ではここを含めた、ある程度の地域で生息する魔物と言えるかな」


「なるほど。物理が通じない敵となると、冒険者になったばかりの新人などは苦労しそうなものだ」


 冒険者ギルドの長ディラックは胸中で『……』と呟くのであった。

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