2-5 限界許容量
それにしてもこの部屋は質素だな。キッチンに木製のテーブルセット、それに寝心地のよさそうなベッドしか置かれていないな。
「この部屋何もないだろう?」
俺の目線に気付いたのか綾香が恥ずかしそうにした。
「綾香ちゃん、恥ずかしがる必要なんてないのです。私たちは無駄なものは使わないそれだけなのです」
綾香とは対照的に桜はこれでもかと胸を張ってきた。
「いや、前私が住んでいた部屋にそっくりだなと思いまして。なぜか懐かしく感じていました」
「そういえば、最近この《ヒューカラム》に来たんだろう?どんな感じなんだ?」
綾香は立ち上がり、近くの窓を開けた。すると外からは夕日のような明るい光が差してきた。
「もう夕方なんですか?」
俺は外の光が気になり窓の近くに向かった。
「いや「違うのですよ。この部屋からは実際の外は見えないのですよ。私たちが窓の外に見ているのは偽物なのですよ」
綾香が説明しようとするとすかさず桜が乱入してきた。綾香は悔しそうに手を握ると椅子に戻っていった。
「そんなにそれが珍しいのか?」
「そうですね。私たちの世界にこんなものありませんでしたから」
「随分と魔族の世界は文化が遅れているのです」
桜は悪びれもなく魔族が遅れている言ってきたが、そこまで魔族の世界を思っているわけでもないので気にしなかった。しかし、俺に気を使ったのか綾香が桜の頭に拳骨を入れていた。
「いてて。なにするです」
「当たり前だろう」
桜は綾香を睨みつけながら、しばらく頭を両手で抑えていた。
「そういえば、どうして二人は魔族を嫌っていないのですか?」
俺は結構踏み込んだ質問をした。
二人は顔を見合わせるとクスクスと笑い出した。俺は何がおかしいのかわからず首をかしげていると二人は声をそろえて言った。
「人族なんかよりも魔族の方が興味あるからよ」「です」
「それに魔族を嫌っているのはだいたい勇信教の人たちぐらいよ」
「綾香ちゃん、人たちぐらいって言ってもほとんどがそうです」
再び二人は笑い出した。
勇信教か、魔族の世界にも宗教というものはあると聞いたことはあるがあまり信仰しているものはいなかったな。何かを信じるくらいなら自分たちで何とかしようとする者が魔族には多かったからかもしれないな。魔法があるのとないのとでは価値観も変わってくるのだろうな。
「そういえば、勇者学園っていつ始まるんですかね?」
「確か九時からのはずだから」
そういうと綾香は時計を探し始めた。
「うん、今は九時ぴったりだね」
「……」
「……」
その場にいた俺を含め三人は時よ止まれの如く動かなかった。
九時を知らせる鳩の鳴き声だけが部屋に響き渡った。
「遅刻してないですかね?」
「遅刻してるな」
「遅刻してるです」
俺たちは出口の絵画へと急いで向かった。
元来た道を急いで戻っていく。
「たしか今日全校集会があるんだった。多分編入生の紹介だと思うからカイが遅れたら相当やばいよ」
「そんなに早く行かないでほしいです。私はそんなに動ける系の人じゃないのです」
綾香は今にでも倒れそうな桜を捕まえ肩車した。
「この道をまっすぐ行けば集会場のはずだから急いで」
ドアが開く音とともに何が頭上でぶつかる音がした。それは綾香に肩車されていた桜の頭が壁にぶつかる音だった。
全校生徒の視線が俺たちに向けられた。集会場は全校生徒が入れるようになっているだけあって相当な広さだったが、それ以上に広く感じた。
「カイ・グリアムズ君が今来校しました。皆さん大きな拍手で迎えましょう。そしてここまで案内してくださった。お二人にも感謝の拍手を」
勇者学園の先生が機転を利かせ、うまく迎えられるような空気になった。
俺たちは壇上まで続いているレッドカーペットをゆっくりと歩いて行った。なぜゆっくりなのかというと桜が疲労と痛みのせいで全く動けなかったからだ。
魔法を使えればすぐ治せるのだが、魔族と魔法が嫌われているこの人族の世界で無闇に魔法は使わない方がいいだろう。
「あれが魔族なのか?髪の毛の色が真っ白だぞ」
「なんであの二人と仲よさそうに歩いているんだ?」
後半からは拍手よりも疑問の声の方が大きかった。
「それではカイ・グリアムズ。壇上に上がってください。カイ・グリアムズは学長先生の意思によりこの学校への編入が認められました。魔王学園から勇者学園への編入は学園始まって以来の出来事です。それではカイ・グリアムズの気の許容量を計測してみましょう」
集会場から先ほどよりも大きく、そして一つの疑問が上がった。
「魔族は気が使えないんじゃなかったのか?」
「確かに。魔族は気が使えないということは許容量もゼロに等しいんじゃないのかな」
「そうなのか。てことは公開処刑じゃないか」
俺は先生に言われるがまま壇上の中心においてあった椅子に座った。
「それじゃ、先生の合図に合わせて呼吸をしてみて」
俺は先生の合図に合わせ集中するとウィーンという機械音が聞こえてきた。機械音はどんどん高くなっていった。三分が経過すると耳を塞ぎたくなるような高音になってきた。すると頭上から大きな爆発音が聞こえてきた。
「みんな逃げろ。機械が爆発したぞ!!」
「信じられない。あの測定器が爆発するところなんて見たことがないぞ」
「カイ・グリアムズ君も逃げて」
先生の声が聞こえた瞬間俺の頭に瓦礫の山が降ってきた。
「カイーーーーー!!」
俺の名前を呼ぶ二人の声が聞こえてきた。
「あんなのまともにくらったんじゃ生きているわけがない」
などという俺が死んだという雰囲気が集会場内を満たしていった。
この状況で外に出るのは気まずいが今出ないと後々面倒になりそうだな。仕方ない出るか。
「おいなんか瓦礫が動いてないか?」
集会場の一角からは女生徒の叫び声も聞こえてきた。
「私なら大丈夫ですよ」
俺は自分の身の安全を知らせるべく右手を振った。
瓦礫の前には顔を青くした桜と綾香が立っていた。
「心配かけたんですかね?申し訳ありません」
そういった瞬間、先ほど仕切っていた先生の声が聞こえてきた。
「カイ・グリアムズ君は奇跡的に無事でした。見たところどこも負傷していないようなのでこのまま結果だけ伝えます」
そういうと集会場のあちこちに設置されておりモニターに俺の許容量が出された。
「……百……」
「おいおい。魔族が許容限界量を出したぞ。もしかしたら百以上あるのかもしれないぞ。あの測定器が爆発するぐらいだし」
いろんな声が集会場から聞こえてきた。
「これで集会は終わります。担任の先生に従って皆さんは普通に授業を受けてください。カイ・グリアムズ君はそのままでいてください」
アナウンスが終わると生徒たちが先生に連れられ教室へ帰って行った。
ここで待ってろと言ったって暇だな。あの二人は何してるだろうな。
俺は暇のあまり桜と綾香を探した。が探す必要もなかった。二人は俺に向かって手を振りながらこちらへ近づいてきていた。
「いろいろあって大変だったな」
「私の想像をはるかに超えたのです。測定器を爆発させるなんて思ってもいなかったです」
俺は二人に笑いかけた。
「何とか無事でしたよ」
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