2-6 奇怪な先生
三人で軽く談笑をしていると遠くで俺らの様子を観察するように眺めていた魔法使いらしい黒いローブを着た先生と思われる若い男の人族がこちらへ歩み寄ってきた。
「君たち編入生ともう仲がいいのかい?」
若い男は親しげに俺と会話をしていた少女二人に声をかけた。
「あっ、鈴木先生ではないですか」
綾香は、声をかけられると笑顔で応えた。
「あはは……、桜さんは相変わらず僕のことが苦手みたいだね」
鈴木はこめかみを掻きながら苦笑した。
「大丈夫ですよ。桜はいつもこうですから先生に限ってではありませんよ」
綾香は桜を横目にフォローを入れた。
「そうだといいんですがね」
鈴木は何かを思い出したのか俺の顔を見るなり両目を見開いた。
「それより、カイ君だっけ?聞いてた通りおかしいね」
鈴木はそういうと俺の体をなめるように眺め始めた。
「いったい何ですかね。そんなにジロジロと」
あまりにも俺を見る鈴木の目が気持ち悪かったので黙って耐えることができなかった。
「いやー、ごめんね。魔族を見るのは初めてだったものだから、つい。許してね」
鈴木は両手を動かすと今度は俺の体を撫で始めた。
「なるほどなるほど。魔族も私たちと骨格は変わらないのか。でも異様な筋肉の付き方だね。興味深い」
俺は全身に寒気が走るのを感じた。
「先生?いい加減にしてもらってもいいですかね?」
先生は謝罪しながらも俺の体を何度も確認してきた。俺は先生を無視して少女二人に声をかけた。
「君たちは移動しなくていいのですか?」
「私たちなら大丈夫よ」
俺が首を傾げると綾香は鈴木を指さした。
「ここにいる気持ちの悪い先生が私たちの先生だから」
「気持ちの悪い先生とはひどいね。私は興味深いものに目がないだけさ。それに私は綾香君の体にも興味があるんだよ?女性なのにその鍛え抜かれた肉体。遠くから見るだけ興奮が止まらないよ」
綾香は先生を軽蔑するような目で眺めた。
「セクハラで訴えますよ?それと相当気持ち悪いです。精神的に傷つけられたとも報告しておきましょうか?」
「それは困るね」
鈴木はそういうと俺から手を放し咳ばらいをした。
「そういえば、自己紹介がまだだったね。私は君の担任を任されている「鈴木猛」だよ。よろしくね」
鈴木は握手を求めてきたが応じる気にはなれなかった。
「私はカイ・グリアムズです」
俺は自分の自己紹介をしようとすると手を向けられ中断させられた。
「君の自己紹介を聞くつもりはないよ。なぜかって。それは私自身で君のことを知っていくつもりだからだよ。過去のことは気にしないこれからの君を見ていくつもりさ」
鈴木はかっこつけようとしたのか見るに堪えないポーズをとった。
「うーん。魔族はかっこいいの概念が違うようだな」
「いや、先生の概念がずれているだけですからね」
一人で納得しようとしている鈴木を綾香は全否定した。
「そんなことはどうでもいい」
「いや、先生が言い出したんですよ」
「過去のことは忘れたよ。それじゃ、私たちもペガサスという名の教室へ向かおうとするか」
鈴木は鼻歌を歌いながら歩き出した。
「人族の先生はみんなこんな感じの先生なのですかね?」
俺は隣を歩く綾香に聞いてみると、綾香は首を振った。
「いやいや、そんなわけないだろ。あの先生が異常なだけだよ」
「ですです」
久しぶりに桜が声を出したと思い、そちらへ目をやるとすごい勢いで俺の前を黒い何かが通って行った。
「今の声は桜君の声ですか?素晴らしい。とても美しい声だ。この声を音声記録装置に記録して毎朝聞きたいぐらいだよ」
そういいながら鈴木はマイクを桜へ向けた。
「ちょっと先生。桜が嫌がっているというか怖がっているのでやめてもらえませんか?」
「しょうがない。それなら綾香君、君にこのマイクを託そう。これで桜君の声を録っておいてくれ」
綾香は渡されたマイクを床にたたきつけた。マイクは大きな破壊音をあげ粉々に砕けた。
「あああああああああ!!何をするんだ綾香君!?」
鈴木は床に散らばったマイクの残骸を悲しそうに眺めた。そんな先生を見て悪く思ったのか綾香が何か言おうとした瞬間。
「なんてね。こんなこともあろうかと予備も準備してありました!!でっででーん。今度はこれを君に託そう」
鈴木は俺にマイクを渡してきたので俺はマイクを片手で握りつぶした。しかし、鈴木は悲しむどころか笑い始めた。
「すごいね。このマイク結構頑丈に作ってあるのに握りつぶすってしかも片手で!!」
この先生はどこかおかしいのは間違いないのだろうな。なんでこんな奴が先生をしているのかは謎だ。人族の世界は本当によくわからないな。
「気にしなくていいです。この人はいつもこうです」
桜が耳打ちするように言ってきた。
「先生。教室へ行くんじゃなかったんですか?」
まったく進行しない状況に嫌気がさしたのか。綾香が珍しく声を荒げた。
「それじゃ、気を取り直してペガサスへ向かうよ」
鈴木は懐から何かのスイッチを取り出し、それを押した。すると、突然床が動き出した。
何だこの床は!?ひとりでに動いているのか。歩かなくても自動で前に進んでいるぞ。これも人族の技術なのか。まるで床を滑っているようだ。
「驚いているねー。カイ君。その顔もかわいいよ」
鈴木は俺を見るなりウィンクをしてきた。すると全身が一瞬冷たく感じた。隣に立っている二人も寒気を感じたのか胸の前に両腕を組んでいた。
歩かずに会談まで来たが次はどう動くんだ。
「ここからは歩くからね」
「歩くのか」
「ごめんね、今上下運動できるように改良中だからね」
階段を一階分登ると目の前にペガサスと書いてある表札がぶら下がった教室があった。
「よし。着いたぞ!!ここがペガサスだ」
先生は足を抱え座り込み、息を荒くしながら叫んだ。それを見た綾香がため息をこぼしていた。
「先生。もう少し体力をつけないと自分で動けなくなっちゃいますよ」
「大丈夫。その時は綾香君に運んでもらうから」
「またセクハラですか」
俺たちはへばっている鈴木を階段へ置いていき、教室へと入った。カーテンがすべて下げられており、教室の中は暗く、前すら見えなかった。すると顔面に何かが飛んでくるのを感じた。
俺はそれを難なくつかみ投げ返した。すると一斉にカーテンが上がっていく。教室が明るくなると教室の真ん中に一人の男が背を向け立っていた。
「貴様。やるでござるな」
男が振り返ると、彼の額にはフォークが刺さっていた。男はそのままの状態で話を続けた。
「拙者の暗器を防ぐだけでなくカウンターまで入れてくるとは。その腕前、この道場に入るにふさわしい腕前でござる」
「すみません。頭に刺さってますけど」
男が気づいていないのかと思い、俺は頭にフォークが刺さっていることを教えた。
「ふふふ。馬鹿を申すな。もちろん気づいておる。拙者も額にあるこれを取りたいのはやまやまなのだが、痛くて自分では抜くことができんのでござる」
「それじゃ、私が手伝ってあげるです」
珍しく桜が自分から他人に干渉しに行った。そして躊躇もなく思い切りフォークを抜いた。
「痛い!!痛いでござるぅぅぅ」
男は出血する頭をおさえ床を転げまわった。それを見ながら桜は悪そうな笑みを浮かべていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます