1-41 祝賀会
笹原学長はいつの間にか変装を解いていた。
「それで、どうだね。こちらにくるつもりはあるか?君ならいつでも歓迎だよ」
「少し考える時間をくれ」
笹原学長が「よかろう」と頷くとバリモ学長が叫んだ。
「今から授与式を始める。優勝者カイは前へ」
——
俺はラフクスやニアを連れ、自分の寮へ帰ってきた。
「お祝いしようと言ってもな。特になにもないぞ」
ニアが呆れた顔をした。
「そんな事だろうと思って買ってきたわよ」
ニアは紙袋から果物やら何やらといろいろ取り出した。ラフクスがニアの出したクラッカーを手に取った。
「コレ、ナラシタイ」
そう言った瞬間にラフクスはクラッカーを鳴らした。
ニアは驚いて耳を塞いでいた。そして少々涙目になっていた。
「このラフクス!!よくもやってくれたわね」
ラフクスは何も言わずに逃げ回る。
「こいつらはどこででもうるさいんだな」
頭に手を置き首を振ると隣に座っていたカミュが同意見と言いたげに首を縦に振った。
「本当は私だけが教官殿をお祝いするはずだったのに……」
不貞腐れた顔をするカミュをなだめるように俺は言った。
「まあ、そう言うな。お祝いとは人が多い方が盛り上がるだろう」
「教官殿がそう言うなら仕方ないですね」
いまだに追いかけっこをしている二人を見て言った。
「お前たちそろそろ静かにしろ。下の住人に迷惑だろうが」
ラフクスを追っていたニアは我にかえり咳払いをすると料理を始めた。
「お前料理できたのか?」
慣れた手つきで料理するニアに驚いているとラフクスがちゃちゃを入れてきた。
「好きなやつのために練習でもしてたんじゃないのか」
ニアはラフクスを睨みつけ黙らせると言い訳のように言った。
「悪いの?私だって女なんだし料理ぐらいできないと恥ずかしいじゃない」
「別段俺は気にしないがそう言うものなのか」
ニアはあっちいけと包丁を向けてきた。
「包丁はそう使うんじゃないぞ」
俺はニアが持っている包丁を奪い、ちゃんと持たせると二人羽織の容量で野菜を切る。
「こう使うんだぞ?さっきみたく人に向けてはダメだ」
ニアは顔を紅く染め、黙って頷く。
「ちょっと!!教官殿、私だってまだそんな事してもらっていないのに」
カミュが横から入ってくる。
「教官殿、私にも教えてくださいよ」
そこにラフクスが割って入る。
「料理なら俺が教えてやるよ。なんたって毎日自炊してるからな」
胸を張り鼻を擦るラフクスに向かってカミュが冷たい眼差しを向けた。
「そういえば、あなたいったい誰なんですか?なんで勝手に人の部屋入ってるんですか?通報しないだけありがたいと思ってくださいよ」
ラフクスは胸を押さえ息を荒くして座った。
「大丈夫か?ラフクス」
ラフクスの動きに違和感を覚え声をかけるとラフクスは顔を真っ赤にしていた。
「よく分からないんだけど、カミュちゃんに罵られると胸の奥が熱くなるんだ。多分大丈夫だと思う。そこまで悪い気がしない」
キッチンにいたニアがひきつった笑顔をラフクスに向けていた。
「大丈夫ならいいんだが、体調には気をつけてつけろよ」
俺はニアの手伝いをするべくキッチンへと向かった。
「俺も手伝おう。その方が早く終わるだろう」
「ありがとう」
そういうとニアはやってもらいたいことを指示をしてきた。
カミュは面白くないという顔をし、手伝い始めた。ラフクスはいまだに胸を押さえていた。
——
「完成したわよ」
そういうとニアは最後の料理を持ってきた。
みんなで食卓を囲み料理を頬張った。
食卓は鳥の丸焼きなどパーティーにもってこいの料理で埋め尽くされていた。
「この丸焼きは絶妙な火加減で美味しく焼けているぞ。外はパリパリの中はジューシーだ。料理人の才能があるな。これ誰が焼いたんだっけ?」
そういうとニアとカミュはバカにしたような顔を浮かべた。そして二人同時に声を出した。
「あなたですよ」
その日、部屋の中は笑いで満たされた。
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