1-42 魔法生物

 俺は今、学長室の前に来ている。その理由は今日から長期休みの許可を貰うためだ。

 俺は木製のドアを三回ノックした。

「バリモ学長、カイ・グリアムズだ」

 ドア向こうから返答が返ってくる。

「カイ君か、入りたまえ」

 ゆっくりドアを開け、静かにドアを閉めた。バリモ学長は俺がドアを閉めたのを確認すると口を開いた。

「して、今日は何用でここに来たんだ?もしや、勇者学園への編入の件かな?」

 俺は首を横に振る。

「今日は長期休みの申請と許可を貰いに来たんだ。勇者学園の件はまた今度返答しよう」

 バリモ学長は残念そうな顔を浮かべるがすぐに不思議そうな顔を浮かべた。

「長期休みか?いったいなんのために長期休みを必要としているんだ?」

 俺はなんというか返答に困った。

 正直、本当の事を言っても信用してもらえる気がしないな。聖武具の収集をしに行くなんて言ったら病院に連れて行かれそうだからな。

 しばらく沈黙し考えたがうまい理由が浮かばなかった。俺の沈黙をなにかと誤解したのかバリモ学長が慌てた顔をした。

「言えないのならそれでも構わないよ。君の事は信用しているからね。長期休みの理由は私が適当につけておくよ」

「学長の配慮に感謝する。と言いたいところだが」

 俺は右手から魔力を発射した。魔力は壁でも家具でもなくなにも見えない空中に被弾した。

「急になんだね!!」

 バリモ学長が慌てて立ち上がり被弾した方を見る。そこには先ほどまでは確実にいなかった偵察用の魔法生物が死んでいた。

「これはいったいなんだね?」

 バリモ学長は本心から驚いているようで先ほどまでの威厳のある顔つきが崩れていた。

「これは、偵察用の魔法生物だな」

 俺は死体に近づいた。

「まあ、俺も初めて見るのだが、この間読んだ本にこいつと似た特徴を持った魔法生物が載っていてな。このサイズで飛行能力と隠蔽能力を持っているとすると俺かバリモ学長のどちらかを監視する目的で誰かが作ったのだろうな」

 俺の説明を横で聞いていたバリモ学長は「何言ってんだこいつ」という顔をしていた。

「すまないが、魔法生物とはいったい。どんな生物なんだね」

 俺は死体を結界に閉じ込め収納魔法で異空間へしまうと側に置いてあった椅子に座った。念のため結界を部屋を囲うように張り、説明を始めた。

「魔法生物とはだな。魔法生物を生み出す魔法というのが存在していてな。今ではこの魔法を使えるものは世界中を探したとしても両手で数えられる程度だろう。そしてこの魔法は術者の血と動物の死体を必要としている。動物は用途に応じて選ぶ必要性があるが、今回の場合はコウモリに見た目が近いな」

 学長席に座り俺の説明を聞いていたバリモ学長は何度も頷いた。

「なるほどな。だから私かカイ君が監視されていたと言ったんだな」

 俺は学長の言葉を少し訂正した。

「まあ、この部屋にいたのだから十中八九、学長が監視されていたんだろうがな」

 バリモ学長は見る見るうちに顔が青ざめていく。

「カイ君、感謝する。何者かが私を狙っているという事だな」

 俺が頷くとバリモ学長は項垂れるように背もたれに体重をかけた。

「こちらで何か対策を立てるとしよう。長期休みの申請もこちらで全てやっておくから君はもう帰りなさい」

 俺は返事をし、ドアの前で一礼すると部屋を出た。ドアが完全に閉まり切るとドアの向こうから大きなため息が聞こえてきた。

「学長もいろいろ大変なんだな。俺は俺のやるべき事をするか」

 先ほどしまった魔法生物の死体を取り出すと魔眼を使って魔力痕を追った。魔力痕は学校の外に繋がっており進んでいくとある建物の前にたどり着いた。

「ここは俺が住んでいる寮だよな」

 寮という事は学生なのかもしれないな。しかし、それほどの実力の持ち主ならこの間の対抗戦である程度有名になると思うのだがな。人を監視するようなやつだ普通ではないのだろう。

 俺は考えるだけ無駄だと思い、再び魔力痕を追うと俺の部屋へと続いていた。

 俺は息を殺しドアをゆっくり開け、中へ入る。玄関にはカミュの靴が乱雑に脱がれているだけでどこも異常は見られなかった。続いて、部屋の中に入ったがどこも荒らされてなどおらず普段と何も変わらなかった。

「おい、カミュ。起きろ」

 カミュは目を覚ましゆっくり起き上がる。

「寝ている間、何も異常はなかったか?」

 俺の質問に眠気なまこで首を横に振った。

「何か異常があったら、すぐ目が覚めますよ」

「そうか」

 カミュならそうだろうな。ならば術者が魔力痕を俺の部屋までわざと作ったという事か、俺が探ってくるという事を予測されていたか。

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