1-38 カイvsカミュ
「ありがとう、カイくん」
彼は起き上がると礼を言った。
「そういえば、明日カイくんの弟子と試合だよね?」
「ああ、そうだな。Eクラスとはいえ油断するとやられるぞ」
俺は、念の為忠告しておいた。
「そうだろうね。君の弟子だし。それに、何回か彼女の試合を見たけど君に負けず劣らずの化け物ぶりだね。特に姿を消すのが上手だ」
「ああ、そうだ。あいつに姿を消されれば俺もなかなか気付くことは難しいからな。俺も油断はしていられないわけだ」
「先輩!!朝ですよ」
カミュは寝ていた俺の上に馬乗りしてきた。
「ついについにこの日が来ましたのよ!!」
カミュは興奮が抑えられないといった様子で跳ねていた。
「朝から騒がしいやつだな」
俺は軽く伸びカミュの頭に手を置いた。
「勝っても負けても恨み合いは無しだ。いいな」
カミュは頷くと「待ちきれない」と言って寮を飛び出した。
「やれやれあいつにも困ったものだな」
俺はゆっくり準備し学園へと向かった。
ピカトルとニアはすでに会場で準備運動をしていた。
「もう、なんでそんなに呑気なの!?余裕ありすぎ」
ニアがプンプン言ってきた。
朝からうるさいな。
俺は耳を塞ぎ集中した。
カミュの得意な技は存在を消す事。つまり背後を取ろうとしてくるはずだ。いつも以上に周囲へ意識を集中させなければいけないだろう。俺が育てた弟子と勝負とはなかなか笑えてくるな。
「カイくん、そろそろ始まるよ」
ピカトルが肩を叩いてきた。
「ああ、わかった」
空に浮かぶ拡声器からバリモ学長の声が聞こえてきた。
「今年の一年生は強者揃いだ。皆彼らのしかと目に焼き付け。高い目標としてくれ」
声が変わる。
「両チーム準備はいいですか……最終戦、開始」
「それじゃあ、お二人さん頑張ってくださいね」
カミュは同チームの二人の肩を押すと姿を消した。
「ニアは目の前の二人を俺とピカトルはカミュをやるぞ」
俺は、ピカトルと共に目を閉じカミュの気配を探った。しかし、俺たちが張り巡らせた魔力の網に全く反応しない。
「クソッ。どういう事なんだ。全く反応しないぞ」
すると前の方からニアの叫び声が聞こえてきた。目を開けると俺たちの目の前にニアが飛んできた。
「なるほど。確実に一人ずつ潰しに来ているな。これは」
俺は下唇を噛んだ。
「カイくん、悔しがってる暇はないよ。次の指示をお願い」
「そうだな。とりあえず邪魔な二人を先にやるぞ」
俺とピカトルは身体強化し、それぞれの腹部へ強烈な一撃を叩き込む。そして魔力探知の邪魔にならないところまで投げ飛ばした。すると、どこからかカミュの小馬鹿にしたような声が聞こえてきた。
「うわぁ、素人相手にその威力ですか。手加減なしですね」
ピカトルが横で叫んだ。
「どこにいるんだ。姿を見せろ」
「あなた馬鹿なんですか?この状況で私が姿を見せたら二人で殺しに来るでしょう」
カミュの声が止むと微かに魔力探知に反応があった。
「そこか!?」
ピカトルが突っ走る。
「違う。止まれ!それは罠だ」
俺の声は間に合わずピカトルは爆風の中に姿を消した。
「やったやった。これで教官殿だけですね」
カミュはピカトルをやると俺の前に姿を表した。
「いやー、案外Sクラスも弱いんですね」
俺は、不適な笑みを浮かべた。
「いや、それはどうかな」
煙の中からピカトルが飛び出しカミュを殴りつけた。
「これでもくらえぇ!!」
カミュに命中した。がピカトルの拳はうまく受け流されそのままカミュの横を通り過ぎようとする。そこへカミュのラリアットが炸裂。ピカトルは声を出すこともなく気絶した。
「ほう、なかなかに考えたな。しかし、俺と怠慢など少々浮かれ過ぎじゃないか?」
俺は走り出し、カミュの顔に一撃を加えた。カミュは先程と同じように受け流そうとするが俺の一撃の威力がそれを許さなかった。カミュは後方へ飛ばされ少しの間動こうとしなかった。カミュの笑い声が響く。
「流石ですよ!教官殿、前組手をしたときよりも明らかに成長していますね。その強さに憧れを抱きますよ」
「随分と俺を慕ってくれているようだな」
「当たり前じゃないですか。魔族の次元を超えたその力に憧れない人はいませんよ」
カミュは姿を消した。
「行きますよ!」
背中に衝撃が走る。
「くっ」
「教官殿!その様子じゃ一方的に痛ぶられて私に負けますよ」
確かにこのままではカミュに負けるかもしれない……。しかし、まだ俺には奥の手がある。
魔力の粉を周囲へ飛ばした。
「魔力の粉ですか。しっかり見えてますよ」
「見えていても避けられないだろう」
バカにするような声が聞こえてくる。
「何を言っているんですか?見えてさえいれば避けられますよ」
「これでもか?」
俺はどこにいるのかわからないカミュに笑顔を見せた。
「まさか」
「そのまさかだ。俺ごと爆発させるんだ。俺は肉体派だがお前はどうだ?俺は全然耐えられるぞ?」
俺は右手に炎を出すと、引火するように炎が広がっていき、一気に爆発した。
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