1-37 謎の植物
世界がが凍るように静かになっていった。周辺の空を飛んでいたはずの鳥たちはどこへ逃げ、虫たちは死んだふりをし始める。
この凄まじい威圧感を発しているのは誰であろうカイ・グリアムズだ。彼から発せられる魔力を浴びると体の感覚が麻痺したかのように動けなくなってしまう。
ピカトルは眼前の光景に驚きのあまり表情筋を殺し、ただただ膨れ上がっていく俺の魔力を魔眼で見ているだけだった。
まだ、まだいける。
俺は、全身へ魔力を送り続ける。体へ短時間に普段はない大量の魔力が流れたことにより悲鳴を上げ始めた。しかし、俺は止めたりはしなかった。それは自分の限界を試してみたいと心のどこかでいつも思っていたからだ。
「カイくん、いくらなんでもこれ以上は危ない!!周囲の家や人、生き物たちにも被害が出る。そろそろ止めてくれ」
珍しく緊張感の走った声を出したピカトルだったが、その声が俺に届くことはなかった。
俺は、ただの魔力から白い魔力を出し始めた。すると、先程まで何もなく、ただ砂が敷かれていただけの広場に草が生え始めた。草は増殖を続け、広場全体を緑に包み込む勢いで増殖していく。広場に豪華な芝生が出来上がった。
「大丈夫かい!?」
ピカトルが切迫した声を上げた。その理由は俺の体が俺の魔力に耐えきれず傷つき、流血し始めたからだ。そこでようやく俺は魔力の開放を断念した。
ピカトルが俺の下へ駆け寄ってくるのが見える。俺は独り言を言った。
「ここまでか……俺の魔力の限界を見る前に体の限界がきてしまったようだな。もっと試してみたかったな……」
ピカトルが崩れる俺に手をさしのべる。彼が差し出す右手を掴もうとしたが、拳一つ分足りず伸ばした俺の手は宙を掴んだ。完全に脱力し、その場に倒れる。しかし、思っていたより地面と接触したときの衝撃はなかった。それは先程生えた植物たちが倒れる俺を包み込んだからだ。
「この植物、カイくんの意識と連動しているのか?」
ピカトルが、植物を手に取り目を細める。そして何かを思い出すように顔を上げた。
「回復!!回復しないと」
ピカトルは俺の傷を癒やそうと魔法陣を描くがピカトルはその魔法を発動させることはなかった。
「傷が癒えていっている!?」
彼の目が濃い光を放つ。魔眼を発動させ魔力の流れを見始めた。
「本当にこれは植物か?カイくんの傷を癒やし始めている」
ピカトルは信じられないと両目を見開きほっぺをつねる。夢では無いことを確認すると、ますます興味深そうに植物を見始めた。
俺は植物たちの回復により全身の傷が癒え、ゆっくりとだが起き上がることができた。
「確かにこの植物は本当に謎だ。しかし、このままにはしておけないだろう」
ピカトルは目を輝かせ聞いてきた。
「この植物少し摘んでいってもいいかな?」
「まぁ、よくわからない植物だからな。どうなるかわからない。自己責任でなら持っていっていいぞ」
ピカトルは何度も顔を縦に振り、植物だけを観察し始めた。
こいつはこのままほっておいていいだろう。しかし、この植物はなんとかしなくてはならないだろう。
俺は植物たちに流れる魔力が自分の魔力であることに気づいた。
これは俺の魔力を栄養にして育ったようだな。俺の魔力ならば吸い取ることが可能かもしれない。
俺は、芝生の中心に手を置く。すると、俺から一番離れている植物たちから枯れ始め、塵も残さず消えていく。
「えっ!?枯らしてるの?待ってまだ採ってない」
ピカトルはいそいそと採取を始めた。彼が採取している周囲の芝生が枯れ始めた。すると、彼の手に掴んであった葉っぱも次々と枯れていく。彼は葉っぱを掴んでいた手を残念そうな目で眺めた。
ニ分後、広場に生えた芝生はきれいに消えた。
「よし、これで大丈夫そうだな」
俺は手についた土を払う。
「それにしても、カイくんの魔力で植物が生えてきたことが驚きだよ」
ピカトルは先程まで芝生が生えていた土を手に取り、調べるように見つめた。
「それは俺も驚いている。もう少し続けていたならば小さい芝生ではなく森も創り出せたかもしれないな」
自分の体の弱さに苛つきを覚えた。
もっと、体を鍛えなければな。本気を出す度に死んでいたのでは話にならない。
「決勝戦まで余裕だろうから、毎日特訓するか?」
「そうだね。そっちのほうが有意義な時間が過ごせそうだしね」
人通りの少ない広場で組手をする二人の姿があった。
「明日が決勝戦だぞ、まだまだ形になっていないな。身体強化を使っているのならもっと速く動けるはずだ。もっと意識を集中させろ」
俺は拳を繰り出す速さを上げていく。ピカトルは拳のスピードに対応しようと強化魔法を更に強くしていった。しかし、俺のスピードに追いつけなくなってきた。俺の拳が彼の腹部に完全な形で入ると彼は悶絶したように倒れ伏す。
「今のは避けられただろうが」
俺は倒れ伏す彼の背中に手を置き魔法陣を展開すると彼は緑色の光に包まれた。見る見るうちに彼の顔から苦しさが消えていった。
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