1-34 ニアの容態
「えへへ、教官殿勝ってきましたよ」
カミュは周りの目を気にせず、笑いかけてきた。
「まあ、ひとまず勝てて良かったな」
こいつはどこかずれているので先ほどの試合のことを言うのはやめておこう。
俺は、賑やかな観客席を出る。俺に続きラフクスとカミュも動き出す。
「カミュちゃんって思ったより強いんだね」
完全に口説きにかかっているラフクスは甘い声でカミュに話しかける。
カミュは嫌悪感丸出しで返事をした。
「えっ……あなた誰ですか?キモいんですけれど話しかけないでくれますか?」
ラフクスは泣き目で俺を睨みつけてきた。
「俺を睨んだところで何も変わらないぞ。それにカミュは頭のネジが吹っ飛んでいるんだ。普通に話しかけても相手にはされないと思うぞ」
カミュが俺に抱きつこうと両手を広げて飛びかかってくるのを片手で受け止める。
「教官殿は私のことなんでも知ってるんですね。ですが、私が相手にするのは教官殿だけですよ」
「後半は何を言っているのかわからなかったが、頭がおかしいという自覚はあったんだな」
カミュは頬を膨らませ、俯いた。
「教官殿って相変わらず意地悪ですね。初めての弟子が初めての試合で初めて勝ったっていうのに……」
「そうだぞ!カミュちゃんあんなに頑張っていたっていうのに。その対応はあんまりなんじゃないのか」
ラフクスはカミュに同乗し俺を責めてきた。
「カミュの言っていることはだいたい冗談だ。真に受けるだけ無駄だ」
「そんな事ないだろう」
おそらく、ラフクスがそう言おうと口を開いた瞬間、ラフクスの隣でカミュが悔しそうに舌打ちをした。カミュの舌打ちを聞いたラフクスは勢いよくカミュを見た。
「ほんと教官殿はぶれないですね。その様子だと全然大丈夫そうです」
「悲しいのか嬉しいのかはっきりしろ」
何が大丈夫なのかはわからなかったが、気にするだけ無駄だと感じ無視することにした。
「それでどこに向かっているのですか?」
カミュの質問に俺も気になっていたとラフクスが頷いた。
「医療室へ行くんだ。先程の試合でニアが倒れてな。いくら回復魔法をかけようが全く起きる気配がなかったのでピカトルに任せてきたんだ」
「確かSクラスはDクラスと当たったんですよね。なんでニアさんが倒れたんですか?」
カミュは不思議そうに俺を見る。
「Dクラスだと油断してかかったのだろうな。まあ、それだけでは無く実際にDクラスも見どころのあるやつだったからな」
カミュは納得したのか「なるほど」と言った。
気がつくと目の前に医療室が見えた。俺は医療室の前に立ちドアを開けた。
「どうだ。ニアの様子は?」
俺はニアの近くで介護をしていたピカトルに声をかけた。
「ん〜。特にこれといった変化は見られないかな」
ピカトルは眉の間にシワを寄せた。
「本当に倒れてやがる」
後から来たラフクスがベッドに横たわっているニアを見て言った。
「ん〜。魔眼でニアの魔力の流れを見てみたがどこにも変なところはないようだぞ」
俺は目に魔力を込め言った。
「やっぱりかい。僕もさっきから見てるんだけどどこにも異常は見られないんだよ」
もう手詰まりだと言いたげにピカトルは首を振った。
もしかしたら、白い魔力ならどうだろうか。あの魔力はまだ謎が多いがニアにずっと寝ていられても困るしな。危なくなりそうだったら直前に止めれば大丈夫だろう。
「ニアを治す方法に心当たりはあるんだが、近くに人がいたら集中できない。だから少し外に出ていてくれ」
そういうとピカトル達は「わかった」と医療室を出た。
全員出たのを確認すると俺は魔力を込め始めた。
「最後に確認するが本当に気絶しているんだな。何が起こっても知らないぞ」
すると布団がモゾモゾと動き出した。
「冗談だよ。危ないことはしないで」
ニアは勢いよく布団から飛び出た。
「なるほど。無意識に体が動き出すほど重症なのか。これは大変だ」
俺は禍々しい魔力を両手に込める。
「いやいや!待って!冗談だからーーーー!!」
ニアは思い切り両手を振る。
「何で倒れたふりをしていた」
魔力を放ちながら尋問を始めた。
「だってだって、最近カイの私への対応が冷たすぎるんだもん」
ニアは子供のように両手を振り回す。
「なるほど。そうだったのか」
「そうそう」
ニアは笑顔になった。
「……だけで済むと思うな!」
俺はニアの頭に手刀を叩き込み、外へ追い出した三人を室内へ呼び戻した。
「もう終わったのかいってなんでニアさんの頭にタンコブ?ができているんだい?」
三人がニアの頭にあるそれは大きなタンコブに疑問を抱いた。
事の経緯についてニアが説明し終えると笑い声が響き渡った。
「カイが冷たいって。お前は子供かよ!!」
ラフクスが大きな口を開け笑っている。その横では二人がラフクスを止めようとしているが全く説得力がない。なぜなら、二人とも笑いを殺しきれずに口角が上がっていたからだ。ニアは羞恥心からか顔を真っ赤に染めていた。
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