1-35 ニア完全復活

 俺たちは第一演習場にいた。

「今度こそ、私一人で倒す」

 片手を高らかに掲げ、ニアは俺たちに手を出すな、と言ってきた。

「しかし、昨日もそんなこと言って負けてたじゃん?完敗だったじゃん」

 ピカトルはため息混じりの声を出す。

「昨日は昨日。今日は今日よ!」

 ニアはピカトルに向けて拳を突き出してきた。

「カイくんもさ、この意地っ張りになんとか言ってよ」

 俺は急に声をかけられ、驚き自分を指差した。

「俺がニアに何か言えと?」

「そうだよ。ニアさん昨日負けたのに今日も一人でやるとか言ってるんだよ」

 ピカトルはやれやれと首を振った。

「そうだな。俺からニアへかける言葉は一つだけだ」

 ニアが音を出しながら唾を飲み込んだ。

「一人で戦うと言ったからには責任を持ち、そして勝ってこい。お前が負けた時はこのSクラス代表は棄権する。わかったな」

「そうそう。ダメだよ。今回も一人で戦うなんてって、え!!マジで?ニアさん負けたら僕たち棄権しなきゃいけないの?」

 俺の言葉を理解するとピカトルは両眼を見開き俺を見てきた。

「まあ、それぐらいやって貰わないとな」

「いいわ。やってあげるわよ。それぐらい簡単だわ」

 ニアは胸を張り断言した。

「簡単って昨日負けた事忘れていないだろうね」

 ピカトルはいつに無く心配性になっていた。

「ピカトル。今日は珍しく心配症だな。何かあるのか?」

 ピカトルは真剣な眼差しを俺たち二人へ向けてきた。

「それが、昨日帰っている時。他の学校の制服を着た美少女を発見したんだ。その時、僕は心の底から思った。この子とお近づきになりたいとだから勝たなきゃいけないんだ」

 なるほど、ピカトルは思ったより恋に落ちやすいタイプなんだな。それに一度恋に落ちると性格も変わるようだ。昔の能天気だったピカトルが懐かしいな。

 第一演習場に声が響き渡る。

「只今より、第二試合を行います」

「ああ、始まっちゃったよ」

 ピカトルが焦り始めた。

「全てニアに託せばうまくいくだろう」

「当たり前よ。今度は油断しないわ。最初から本気を出すつもりよ」

 何か言いたげな顔をしているピカトルに声をかけた。

「ニアが本気でいくと言っているんだ。信じてやろう」

 仕方なさそうにピカトルは首を縦に動かした。

 拡声器から声が聞こえてくる。

「それではready start!!」

豪炎ファラン

 ニアが一人で魔法を唱えながら飛び出した。

 相手が掛け声を出し、陽の下に出てこようとした瞬間、彼らが燃え始めた。三人は悲鳴をあげ倒れた。

「一発KO!!なんとニア選手一気に三人を戦闘不能にしました。天才少女の名は伊達では無かったぁぁ!!」

 ニアは長い髪を払い除け自信満々の表情を浮かべ俺たちの下へ帰ってきた。

「どう?」

 ニアが俺たちに感想を求てきた。

豪炎ファランだったか?あの魔法は欠陥が多すぎる。ピカトルでさえあの魔法を避ける事はできるだろう」

「うんうん、予備動作が分かり易すぎるよ。魔力の粉が丸見え。あれは避けてくださいって言ってるもんだよ」

 俺たちの感想を聞いたニアは目に涙を浮かべていた。

「勝ったんだから少しくらい褒めてくれてもいいじゃない」

 ニアは俺に向かって叫んできた。

「なんで、俺だけに言うんだ。ピカトルも同じような事言っていただろう」

「ピカトルなんてどうでもいい。興味ないもの」

 ピカトルは心臓のある左胸を抑えていた。

「ピカトルに興味無いとはニア。お前の目は節穴か?お前より明らかに強いだろう」

 苦しそうな顔をしたピカトルが耳打ちをしてきた。

「そういう意味ではないと思うんだけど」

「そうなのか?よくわからんな」

 ピカトルはニアへ同情の目を向けた。

 ニアは不貞腐れた顔をしズカズカと歩いていってしまった。

 まあ、ニアがいない方が都合がいいな。

 帰ろうとしているピカトルを呼び止める。

「ピカトル、今から俺に顔を貸せ」

 ピカトルの顔が見る見るうちに青くなっていった。


 俺はピカトルを連れて人気のない広場へやってきた。

「ここなら人に見られる心配もないだろう」

 そういうとピカトルはビクビクし始めた。

「カイくん。いったいここで何をする気なんだい?」

 俺は怯えているピカトルを安心させるために笑みを浮かべる。

「楽しい事だ」

 ピカトルはお尻を抑えた。

「なんだ?トイレにでも行きたいのか?」

 ピカトルは無言で頷く。

「そうだな。先にトイレを済ませるか。その方が集中できる」

 ピカトルは黙って俺の後ろをついてきた。

「早く済ませて。特訓をするぞ」

「はえ」

 ピカトルは変な声を出した。

「どうした?変な声を出して」

「今から特訓するの?」

 どこか安心したように聞いてくる。

「ああ、少々試したい事があってな。前教えた魔力の層に属性を加えてみて欲しいんだ」

「でも、僕は魔力の層すら作れないよ?」

 ピカトルは困った顔を浮かべた。

「安心しろ。一からしっかり叩き込んでやるからな」

 俺は指の節々を鳴らした。

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