1-33 カミュの圧勝
ニアを担ぎ、第一演習場を出るとすぐ近くにある医療室へ来た。
医療室には先生がいないようでドアに不在を伝える紙が貼ってあった。紙を気にせず俺は医療室へ入る。
医療室にはベッドが二つといろんな薬品が棚にしまわれていた。
回復魔法があるのだからなぜ薬品が用意されているのか疑問だったが、気にせず清潔感のあるベッドへ向かった。
誰もいない…ようだな。回復魔法は先程かけてあるから体は大丈夫なはずだがなぜか起きない。そろそろカミュの試合を見に行きたいのだがな。
「おい、ピカトル。そろそろ弟子の試合を見に行きたいのだが、ニアを頼めるか?」
横でつまんなそうに外を眺めていたピカトルに声をかけると彼は笑って承諾した。
「それでは、後は頼んだぞ」
俺は、医療室を後にするとEクラスとAクラスが試合をしているはずの第二演習場へ向かった。
第二演習場へ近づくにつれ、観客の声も大きくなっていく。階段を昇り、観客席に出る。
第二演習場は第一演習場とは会場のテーマが違うようで緑生い茂るジャングルのような作りになってるようだ。観客席からはほとんど木しか見る事ができないが、ジャングルの中央あたりから煙が上がっている。あそこで交戦中なのだろうな。それにしても俺たちの試合とは別物のような賑わいようだな。
俺は出来る限り見えやすいところへ移動しようと俺が歩きだすと前を開けるように観客達が道を開ける。
「あの制服姿のやつなんであんなに偉そうに歩いているんだ?」
試合を見ていた一人の観客がこの異様な状態に疑問を抱き、連れと思われる隣に座る観客に質問した。
「お前はずっと第二演習場にいたからな。知らなくて当然だ。あの白い髪のやつはな。さっき第一演習場で学生とは思えない試合をしていたんだ。あの時はあそこにいた全員が死ぬかもしれないと考えたと思うよ」
その説明を何言ってんだこいつと言いたげな顔をし返事をした。
「よくわからんけど、凄いということはわかった」
情報というのはすぐ伝わっていくのだな。耳をすませばあちこちから聞こえてくる。気にするだけ無駄か。
立ち止まり周囲を見渡す。すると遠くの方で手を振っている人影を見つけた。ラフクスだ。俺は急いでラフクスの下へ向かった。
「よお、ラフクス。席取り感謝するぞ。それにしてもここにいたのか。全く見つけられなかったぞ」
「お前はすぐ見つけられたぜ。それにしてもお前何したんだよ。観客にめっちゃ怖がられてるぞ」
ラフクスは悪ガキのような顔をして聞いてきた。
「いや、それほど凄いことはしていないとは思うのだがな。強いて言うなら死にかけてきた」
「へぇ、そうか。じゃあなんで怖がられてるんだろうなって、えっ!!死にかけてきた?何したんだよ」
ラフクスは両眼を見開く。
「試合には勝ってきたから気にするな。それより、今どういう状況なんだ?」
ラフクスは、不満そうな顔をしたが、戦況を話し始める。
「それがな、さっきから戦闘らしい戦闘が起きていないんだよ」
なるほど、カミュは存在感を完璧に消す事ができるからな。死角から一撃で仕留めているのだろう。来て早々決着がつくかもしれないな。
ラフクスは指を指す。
「あそこを見ろよ。煙が上がっているだろう。軽く撃ち合ってはいるみたいなんだけど。今のところ三対一でAクラスが優勢だな」
ん?Aクラス優勢だと?
俺は魔眼を凝らして会場を見る。確かに二人倒れているようだがどちらもカミュでは無いようだな。カミュはいったいどこにいるんだ?
森の中を注意深く見てみると、こちらに向かって手を振っているシルエットが確認できた。
シルエット的にあいつがカミュだな。なぜ手を振っているんだ。あいつのすることはいつも謎だ。
俺は仕方なく軽く手を振り返すとカミュは手を振るのをやめ、握り拳を作り親指を立てた。
カミュは体勢を低くし回し蹴りをする。カミュの蹴りから発生した暴風が木々をなぎ倒していく。
第二演習場に植えられていた木が全てなぎ倒されていくと演習場の見晴らしが良くなった。
カミュは敵三人を見つけると大きく手を振った。三人がカミュに気づいたのを確認するとカミュは三人に向け、挑発し始めた。
「Eクラスの分際で生意気な。三人がかりで一気にやっちまうぞ」
挑発され良い気のしない三人は魔法陣を展開した瞬間、一人りずつカミュに蹴り飛ばされていく。
「おいおい。なんだあの女の子。あの距離を一気に詰めやがった。なんて脚力だ」
会場のあちこちから同様の声が聞こえてくる。
隣にいたラフクスが興奮したのか騒ぎ始める。
「ヒュウヒュウー。かっこいいぞ!!お前の弟子強すぎじゃね。やっベー惚れそう」
俺の背中を勢いよく何度も叩いてくるラフクスに苦笑いで答える。
もしやカミュのやつ俺にこれを見せたいがために俺の試合が終わるまで身を隠し時間稼ぎしていたのではないだろうな。いや、あいつのことだ絶対にそうだ。
三人を一瞬で一発KOさせたカミュは、嬉しそうに手を振っていた。
「教官殿〜。見ててくれましたか?」
その言葉に観客席がざわつき出した。
「あれだけのやつを育てた教官って、いったい誰なんだ。相当名のしれたやつかもしれないな」
カミュの視線を頼りに観客達の目は俺に向けられる。納得したように観客達は声を出した。
「ああー。確かに」
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