1-32 同時ニ属性魔法発動

 俺は両掌を三姉妹へ向ける。

 三姉妹は俺が手を向けると警戒するように構えた。

「何してくるつもりなんだ」

「どんなことしてこようと私達三人なら大丈夫よ」

「うんうん」

 三姉妹は龍へ魔力を送り始める。

 俺は炎龍の魔法を解除し、続いて結界も解いた。観客席を守るように張ってあった赤色の結界が溶けるように消えていく。

 両手に魔力を込める。体が縦半分に千切れるような感覚に襲われる。右と左両方から引っ張られるような感覚だ。嫌でも本能が語ってくる。魔力制御少しでも失敗すると一瞬であの世行きになるということを。

 俺は、自分の体内で四方八方へ暴れようとする魔力をなんとか両手へ送り抑え込む。全身の毛が逆立っているのが感覚でわかった。真夏にかく汗のような気持ち悪さが全身を襲う。

 「ぐはっ…」

 吐血をする。

 体内で魔力が俺を蝕んでいるのか?継続的に痛みが体を走り回る。

 これは失敗したら死ぬだろうな。それにここまで来て途中でやめたとしても死ぬだろう。

 俺を中心に暴風が吹き荒れる。第一演習場に敷き詰められている砂が風に巻き込まれ宙を暴れまわる。

 この状況だ。俺からは三姉妹を見ることはできない、同様あいつらからも俺を目視することはできないだろう。つまり、互いの姿は見えていないということだ。この状況で攻撃でもされたら終わるがそれは気にしなくて良さそうだ。

 数分の奮闘の末、俺は全身に脱力感が走りその場に倒れる。すると暴風が収まり俺は一メートルほど足元を円形に掘り起こしていた。

 三姉妹は遠くで心配そうな顔を浮かべている。

「死んだのか?」

「よくわからない。けれど全然動かないわね」

「うんうん」

 助けに行くか、様子を見るかで三人が話し合っている。

 三人は目を合わせ互いに頷くと、話がまとまったのか。歩き出す。助けに行く事になったようで俺の下へ近づこうとしてくる。

 そんな三人に俺は来るなと右手を向ける。彼女たちは安堵の息をついた。

 なんとか起き上がると俺は笑いだす。そして手をうちわ代わりにした。

「ふぅ…なんとか上手くいったな。それにしても暑いな。全身から汗が止まらない。そう思うだろう?」

 俺がなぜ笑いだしたのかわからない様子の呆然としている三人に声をかけるが彼女たちはなんと反応したらいいのかわからないようで何も返事がない。

炎龍ファロン

 俺は右手に魔法陣を描くとそこから先程とどこも変わった様子のない炎の龍が現れた。

「どこが変わったんだ?」

「よく観察していきましょう」

「うんうん」

 俺は模索している三姉妹へ声をかける。

「仲良く模索しているところ悪いがここからが見所だぞ。その目をよく開いとけ。見逃すなよ」

 俺は悪魔のような笑顔を三姉妹へ向ける。

水龍ウォロン

 俺は左手の魔法陣から水の龍が現れた。

「お前ら怖気づいているところ悪いが、ここからが本当の勝負だぞ。命がけで成功させたんだ。少しは楽しませてくれよ」

 俺はニ匹の龍を三姉妹へ突撃させる。三姉妹は迎撃に入る。

 一匹とニ匹の龍がぶつかり合う。しかし、多勢に無勢。一瞬で三姉妹の炎の龍は水蒸気を発し白い靄となって消えてしまった。残ったニ匹は三姉妹を襲おうと豪風を吹かせながら急接近している。

「無理無理」

「こんなやつに勝てるわけ無いじゃん」

「うんうん」

 三姉妹はリタイアを進言すると魔力を使い果たしたのかその場にヘタリ座る。ニ匹の龍は三姉妹の十一センチ手前で膨れ、爆発するように姿を消した。

 息を荒げながら正三角形に寝っ転がっている三姉妹の下へ俺は近づく。

 彼女たちは俺の正直な感想を聞くやいなや否定し嫌味を言う。

「お前たち、思ったよりも強かったぞ」

「うっさい、あんたなんかに言われたくない」

「そうそう、才能に恵まれたやつはいいよ」

「うんうん」

 俺は彼女たちへ一喝した。

「どこが才能がないって?あれだけの融合魔法を見せておきながら。周りに目を向けろ。才能ないやつがここまで地形を荒れ果てさせるような試合ができると思うか」

 彼女たちは俺に言われて今気づいたように辺りを見渡す。

「こんなにしたの?私達が」

「それにそれによく考えたら天才少女ニアも私達が倒したのよ」

「うんうん」

 彼女たちの顔に笑顔が戻ってくる。

 演習場の端のほうでニアを介護していたピカトルがこちらへ歩いてきた。

「地形を壊したのは多分、カイくんが十割だと思うよ」

 ピカトルはこそこそと耳打ちしてきた。

「何を言っている。俺九割あいつら一割だろう」

 俺とピカトルは声をあげて笑った。

「何こそこそして笑ってるんだ?」

「感じ悪い」

「うんうん」

 三姉妹は仲良く頬を膨らませて言ってきた。

「いやいや、悪かった。別に気にする程の事ではない」

 俺は砂で全身汚れている三姉妹へ手を振るとニアを担ぎ上げ演習場をあとにした。

「やれやれ、まだ起きないのか」

 俺はため息をついた。

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