1-26 大蛇

 先程まで抜け殻だと誤認していた蛇は長く太い尾を俺に向け放ってきたようだった。

 なんだ。あれは蛇なのか。

 大蛇は身体中、鋼鉄のような光沢を放つ鱗で覆われており、頭には大小合わせて鋭い角が六本生えており強靭な牙が二本確認できた。

 明らかに敵意剥き出しの大蛇を視界におさえながら、回復魔法をかけるがなかなか傷が癒えない。

 奴からの攻撃は回復魔法で癒せないようだな。奴の能力がいつまで続くかわからない以上下手に被弾するのは望ましくないな。

 大蛇を倒す方法を模索していると、大蛇がこちらへ向かって動き出す。

 大蛇は大きさの割には機動力が高いようですぐ俺を間合いに入れると尾で攻撃してこようとした。

 このスピードなら、躱せないことも無さそうだ。

 俺は余裕を持って尾を避ける。

花獄火ファムナリスワーク

 カウンターで大蛇の顔面に花獄火を放つが、大蛇の鋼鉄のような鱗に傷をつける事すら出来なかった。

 大蛇は再び尾で攻撃してくる。先程と同じように躱した。

 同じ箇所に何度もくらわせれば、いかに強固な鱗も突破できるはず。

 俺は先程と同様に花獄火を顔面に放とうとするが、大蛇は俺の動きを読み、尾を反転させる。

 魔法を放とうとしていたところへ予想外の攻撃を受けるが、とっさに魔力を制御し魔力の層で受け流そうとした。しかし、魔力の層が尾の威力に耐えきれず受け流すことが出来なかった。俺を覆っていた魔力の層は一瞬で破壊される。

 俺は再び弾き飛ばされる。魔力の層で威力を弱らせることができたのか、今度はうまく受け身を取ることができた。しかし大蛇の尾は先程攻撃してきた場所と同じところへ攻撃してきた。威力を弱らせることはできたようだが先程よりも痛みは大きい。

 身体中、痛むがなんとか立ち上がると大蛇が追撃の動作に入るのが見えた。避けようとするが体が思ったように動かず、回避が間に合わなかった。追撃を受け飛ばされる。受け身を取ろうとするが体に力が入らず、体が地面をなぞった。摩擦でなんとか止まるが、動く事が出来なかった。

 動け!体に力を入れろ!なんで…なんで動かないんだ。

 体に力を入れようと踏ん張るが力が入らず起き上がる事ができない。

 大蛇は動かないのを確認するとゆっくり近づき、尾で俺の体を持ち上げる。そして握り潰そうと力を入れ始めた。

「……ぐは……」

 吐血をすると次から次へと血が流れ出てくる。

 脱出しようとなんとか体に力を入れるも大蛇の締め付けの方が強かった。

 意識が遠のき始めた頃、狼の鳴き声が空耳で聴こえた。

 そういえば、狼を放置してきたんだった…ここで死んでなどいられないな。

「うおおおおおおぉぉぉぉ」

 体から魔力を飛ばし尾と体の間に隙間を作りだし尾から滑り落ちる。

 今のはかなり危なかった。狼の鳴き声で力が出るなんて。

 俺は苦笑を浮かべ、近くの瓦礫に手を伸ばし、無理矢理体を起き上がらせる。

 両手で瓦礫を掴み、ただの魔力を込め大蛇に向けて投げる。

 瓦礫は見事大蛇の顔面に命中すると、大蛇は怯むように少し距離を取った。

 ただの瓦礫は効くのか。それなら。

 俺は近くの瓦礫を大蛇の顔面に向けて投げまくるが、一投目のように怯む様子は見られなかった。

 先程の瓦礫と今の瓦礫の違いは何だ?

 しかし意識が朦朧もうろうとする中、直ぐには答えが浮かばなかった。

 蛇が鋭く尖った角を向け突進してきた。

 突進してくる大蛇に向い投擲の手を緩めないが、角を向け突進してくる大蛇にどれだけ投げようが顔面に当たることは無かった。

 俺は宙へ飛ばされ、尾で叩き落とされる。

 地面に叩きつけられると、複数の影が俺の視界を横切っていく。

 狼たちは大蛇に向かい懸命に噛みつくが鱗は無傷だった。

 狼たちは次から次へと尾で叩き殺されていく。大蛇の尾は血で真っ赤に染まっていた。

 俺は遠のく意識を繋ぎ止めるように大蛇の弱点を考え続けた。

「はっ!!」

 もしや、俺の純粋な魔力なら効果あるんじゃないか。

 瓦礫を掴み、魔力をのせ投げる。僅かにだが怯んだように見えた。

 俺は魔力の層に属性を加える。

 俺の体は光に包まれると、大蛇は怯えるように少しずつ距離をとる。

「これがお前の弱点か」

 俺は一気に距離を縮め、その勢いのまま地面を蹴り、跳んだ。そして顔面に拳を入れると牙が一本折れた。

 よし、手応えありだ。

 大蛇は牙を折られると怒り狂ったように猛撃を奮い始めた。俺の体を包む白い魔力は大蛇の猛撃を跳ね返す。それでも大蛇は猛撃を止めようとはしない。

 こんなに攻撃されたのでは、距離を詰めることもできないな。

 俺は右手に魔力を込める。白い魔力が右手に集まってくる。

花極火ファムナリスワーク

 白い光を放つ花獄火は大蛇の眉間に命中すると大きな音を立て、勢いよく爆発した。

 なんだ、この威力は。この状態で魔法を放つと威力が何倍にもなるようだな。

 俺は驚き、自分の右手を観察するように眺める。

 今のをくらって生きていたら化け物だぞ。

 大蛇へ視線を戻すと大蛇は力なく倒れていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る