1-22 学年別対抗戦

『諦めないでくれ、これは全部お前のためなんだ』

 俺は後ろめたい気持ちを首を振ることでどこかへとばした。しかし心配になり、彼女の顔を一瞥した。そこには死にそうなほど苦しそうな顔があると思っていたが全くの逆だった。凄く嬉しそうな顔をしていた。まるでペットの犬みたいだ。

 背中に寒気が走るのを感じる。

『風邪をひいたのかもしれないな』

 そんな訓練が毎日続いた。

 あれから数ヶ月がたった。カミュは俺の訓練に弱音を吐くどころか喜びを感じながら毎日決められた体力作りを行っている。

 最初の頃と同一人物とは思えない体つきへと成長した。彼女は着痩せするタイプのようで、ダイナマイトボディとまではいかないが筋肉がつき、学園では虐められることがなくなった。一部からはEクラスの女神とまで呼ばれていると風の噂で聞いた。それと変態女神とも。

「今日の訓練は終わりだ」

 俺は体力作りを続けている彼女に向かって声をかける。

「そろそろ魔力制御に入ろうと思うんだが」

 そう言うと彼女は嬉しそうに飛び跳ねた。なんかお尻の方に犬の尻尾が見える気がする。気のせいだろう。

「ある程度、体が仕上がってきたからな。魔力制御を学年別対抗戦までやっていればいいところまで勝ち上がる事ができるだろう」

 彼女は飛び跳ね終えると満面の笑みを浮かべた。

「ありがとうございます。教官殿」

 そう彼女カミュはいつからか俺のことを教官殿と呼ぶようになり口調もおしとやかになっていた。

「もしかしたら、結果次第では上級クラスに上がれるかもな」

 俺は軽く発言したつもりだったがカミュは俺の言葉を真摯に受け止めたようで真剣な顔になる。

「すべては教官殿のおかげですわ」

 彼女は胸の前に手を組み目を閉じた。その姿を見ると、今までを振り返っているように思えた。

「それじゃ、思い出に浸っているところすまないが、早速魔力制御をやってみてくれ」

 彼女は大きく頷くと全身に魔力を流し始める。

『驚いた。最初の頃と比べると天と地ほどの差がある。しかし、それだけでは無い。ここまで制御できるなんて思っていなかった。これだけ安定した魔力制御ができるのなら回復魔法が得意になってくるだろう』

 俺は素直に彼女の努力に感心していた。

「カミュ。その調子でそれを毎日続けてくれ」

「わかりました」

 彼女はその日「やめろ」と言うまでやめなかった。


 次の日、集会がが行われた。季節は夏後半になり外からは蝉の鳴き声が間を挟まず聞こえてくる。

 学長が半袖のワイシャツ姿で登壇し汗まみれの顔を手持ちのハンカチで顔を拭うと一礼した。

「一年生もここの生活に慣れてきたことだろう。一週間後、みんなが待ち望んでいた学年別対抗戦があるぞ。一クラスから個人戦一名。団体戦三名を出場させる事ができる。皆、私はすごく期待しているぞ」

 再び一礼すると、学長はハンカチを取り出し汗を拭きながら降壇する。

 横に座っていた青い髪の少女ニアが話かけてきた。

「どうせカイは個人戦と団体戦、二つに出るんでしょう?」

 俺は不思議におもい、首を傾げながら返事をする。

「個人戦と団体戦、両方に出られるのか?」

 ニアは、あんぐりと口を大きく開けると溜息をついた。

「あなたって資料とか読まないわけ?」

「見もしないが」

 俺は鼻の穴を広げ胸を張り即答する。

「教室で見せてあげるわよ……」

 彼女は頭を抱え、呆れた顔をした。


 教室へと戻るとラフクスが気持ちのいい笑顔で叫んでいた。

「やっと学年別対抗戦が始まるのか。すっげー楽しくなってきたぜ」

 そんな騒がしい教室にフォンが入ってきた。

「ほら、静かにして」

 彼女は手を叩く。そして紙を取り出し、黒板に貼り付けた。

「これが学年別対抗対抗戦の詳細よ。皆よく見ておいてね」

 黒板に貼り付けた紙を何度も叩き、みんなの目を一箇所に集中させる。

「この間、クラスでトーナメント戦をして頂きましたね。それを元に今回の出場メンバーを決めさせてもらいました」

 教室の中がざわつく。

「ほら静かに」

 フォンは怒った顔をし、みんなを静かにさせる。

「まあ、みんなの予想通り個人戦と団体戦両方に出るのはカイ・グリアムズ君です」

 俺を掌でさし、立ち上がらせると拍手をした。フォンにつられクラスの全員が拍手をする。ラフクスだけは面白くないという顔をし、適当にしていたが気にはならなかった。俺は黒板の前、フォンの隣へ移動する。

「二人目はサポートが上手なピカトル・パック君です!!」

 掌でさされたピカトルは照れくさそうに頭をかきそのまま頭を下げる。そして、ピカトルも俺の横に並ぶ。

 みんなの視線がフォンの口元に移る。

「3人目は…………未定よ」

 フォン先生は右手の人差し指を前に出し、チッチッと左右に動かす。

 俺とピカトル以外は体が崩れた。そして、フォンを睨みつける。

「そんなに怖い顔する人たちは選ばないかな」

 フォンは軽い冗談を言って教室を出て行った。

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